「笑×演」で見えた、漫才とコントの違い

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M1やキングオブコントで頂点に立ったプロの芸人が、役者のためにネタを書き、それをプロの役者に演じてもらう。笑いのプロ×演技のプロという夢の共演/「笑×演」(テレビ朝日系1/5深夜0時15分〜)。
芸人はあくまでネタを書く側だけが参加、書いて、演出するだけ。舞台に立つのは役者のみだ。芸人側にはネタに定評のある「作家陣」が並んだ。
各組み合わせの見どころはこうだ。

ライス×野村宏伸・光宗薫


《顔合わせ&打ち合わせ》

まず自分らが果たして知られているのかを気にするライス。
若手としたらもっともな不安なのかも知れない。
「(キングオブコント優勝を)リアルタイムでも見ましたし、今朝も見てきました」
と光宗。「ライスはひと安心」とテロップ。一夜漬けの疑いも濃厚だけれど、そこは追求すまい。


《本番》コント

先輩後輩の刑事二人組が犯人グループを張り込み。犯人が近づいて来た時、光宗は、咄嗟に先輩の野村に抱きつきカップルのふりをしてごまかす。興奮する野村。以後、光宗に抱きつかれようと、あの手この手であえてばれそうな状況を招こうとする。張り込みの趣旨そっちのけの変態野村刑事。
とにかく野村が大サービスの顔芸。真面目な雰囲気との落差で魅せる。
「教師びんびん物語」で田原俊彦と鍛えた掛け合いが光る。そういえば「巡査びんびん物語」っていうのも一回だけありましたね。
ちなみにライス関町は、「志村けんさんをイメージしてください」と野村に演出をしたそうだ。ナイス。

ノンスタイル石田×中野英雄・中尾明慶


《顔合わせ&打ち合わせ》

坊主にごついフレームの眼鏡、ダウンベストにパーカーの私服が、見た目センター街の脱法ドラッグの売人のような中野英雄。すでに面白い。
その中野に漫才のイメージを聞くと
「公園で練習してる」
とリアルな観察眼。どんなところに住んでいるのか。
先輩に対し上下関係として「ボケる」ことを不安がる中尾。役者の関係性によるコミュニケーションが垣間見えた。
立ち位置を決めるにあたり、どっちがしゃべりやすいかが必ずあるはずだと言われた中尾は、中野を見ながら
「どっちでもしゃべりにくいです」
と早速ボケる。
石田は「この感じでいいです」と笑いながら太鼓判。
そして何が面白いのかわかっていない英雄も素敵。

漫才で大事なのは、自分の言葉になるかどうかだという石田。自分の言葉でしゃべったことがないのでその作業が一番難しいという中尾の発言は、おそらく役者ならではの不安。コントならまだしも、役をなくされるわけだから、漫才が怖いのは道理だ。
しかし帰るころには、緊張してる英雄に対し、中尾が「ガチガチじゃねーか!」と違和感なくつっこめるほどに。勘がいいなあ。

《本番》 漫才

「見てのとおり出所したばかりなんですけど」
「誰がだよ!そういう役はよくやるんですけどね〜」
「ヤクに手を出したらダメですよね〜」
「やめろ!」
中尾が、英雄の強面をいじる。二人に合わせたネタながら、ノンスタイルらしい言葉遊びが繰り返される。
「カッチーン、その言葉そっくりそのままプリントTシャツにしてさしあげますよ?」
などは石田ライブラリーの蔵書だ。
英雄に女を演じさせておいて、「やっぱりやめておきましょう」とすかす中尾は、相方の井上裕介に対する石田そのもの。演じる役者から透けて見えてくるオリジナルの存在。

壁ドンがしたいと言い出す英雄を中尾がちゃかしながら漫才は進んで行く。
途中ピンマイクが外れるアクシデント。
「マイク外れてるじゃねーか」(英雄)
「頼むよ音声さん!」(中尾)
と笑いにしつつ、自然に話を戻す。

直前までネタがまともに覚えられないまま迎えたという本番で、見事にやってのけた英雄に、ネタの終わり際、
「本番うまくできんじゃねーかよ!」
と後頭部をはたいた中尾も見事なら、それに対応できずに困る英雄も英雄でした。

感想を聞かれて
「漫才ってすごい面白いね」と繰り返す英雄は、往年の淀川長治のようでした。

バイきんぐ小峠×石丸謙二郎・遠藤要


変に2人の役者のことを調べたら意識しすぎて書けなくなるから調べずに書き出したと、独自のアプローチを語る小峠。

《顔合わせ&ネタ合わせ》

石丸が多忙のため欠席、本番前日まで会うことができないという。台本を読む遠藤を(うけるか)不安で、まともに顔が見れない小峠。
結局、二人のウィキペディアや画像を見てたら設定が浮かんだらしい。以前語った独自のアプローチとはなんだったのかという鮮やかな前言撤回。
ボケなんだけどボケじゃない、本気で言ってる「変な奴」。変な奴に、突っ込むわけではなく「注意してる奴」。
もしかして、これ、バイきんぐのコントの真髄では……。

途中、遠藤に説明しながら、自分の台本に笑ってしまう小峠。なんて楽しそうなんだ。
本番前日、ようやく石丸も加わり練習。時間がなかったことに対し
「ま、しょうがないね」
とさすがの貫禄。さぞいろいろな修羅場をこなしてきているのだろう。
石丸に「笑顔がいらないかも」と演技指導する小峠。自分で演じられないぶん、熱くなっているようにみえた。

《本番》コント

お見合いネタ。
「娘さんをください!」と、真剣に土下座した石丸が顔を上げた瞬間、
「じじーじゃねーかよ!!」
と切れる遠藤。遠藤を小峠に置き換えたらまんまバイきんぐだ。
しかしひとこと目の「じじーじゃねーかよ!」がバイきんぐのようにはハマらない。挽回できるか?

遠藤がヘタなわけではない。おそらく小峠のつっこみと質が合わないだけだ。つぎのサンドウィッチマン富澤も悩むことになるのだが、つっこみがはまるかどうかの難しさ、これが、この番組の焦点のひとつになっていたように思う。

しかし、
「年下なんだからいいじゃーん」
と石丸が壊れだすところからこのコンビのペースができてくる。たがいのセリフが前後してしまい、変な間が生まれてハラハラもしたが、大事にはいたらず。さすが役者、

石丸は、コント終了後、時間がなくコメントも残さず次の現場へ直行。なんだか、怖いくらいプロだ。

サンドウィッチマン富澤×寺田農・榎木孝明


富澤は悩んでいた。
もしかしたら「地獄絵図になる可能性」を示唆する。
「つっこみがうまければ見れる」
だがその反対は……。

《顔合わせ&打ち合わせ》

二人の俳優が待つ部屋に入って一言挨拶。だがおもわず部屋を飛び出してしまう富澤。
「むちゃくちゃオーラあるじゃん!」
廊下で叫ぶ。

超ヘビー級との顔合わせに尋常じゃないほど緊張している。そりゃそうだ。あの二人が自分の書いた台本を真剣に読み込んでいるのだ。解剖されているような心持ちかもしれない。

老眼鏡をかけた鋭い眼光で熟読する寺田がふいに「ククッ」と吹き出す。
思わず、無言で「ひゅゥゥゥゥ」という口の動きをする富澤。
これは嬉しいだろう。
「うけちゃったよ、おい!!」といった顔に見えるし、おそらくそう思ったに違いない。

「僕はこういうの好きだね」
榎木の言葉に、富澤の顔がほころぶ。

だが、富澤の心配は的中する。寺田のつっこみがしっくりこないのだ。6分の予定が10分になってしまうほどのスローテンポであるらしい。

練習の帰り、マフラーにハットの私服の二人は、ただただ、マフィアだった。

《本番》漫才

61歳と73歳の男が勢いよく走って出てくるだけで面白い。特にグレーのスーツに黒いシャツ、赤いネクタイの寺田。モチーフは絶対伊達みきおだ。
開口一番、
「どーもー銀シャリでーす!」
と榎木。
「ぜーーんぜんっ、違いますねぇ〜。われわれ、M1、優勝してませんからっ。」
マイペースな寺田のつっこみが、ゆるやかに入る。

突っ込むというか、語りだ。
正直、ひどい。でも、面白い。
コンビ名は、えのき&てらだ(勝手に平仮名にしたが、表記は不明)らしい。

榎木「え、あの2007年にM1で優勝したピザの、伝説のネタ、やらないんですか?」
寺田「もぉぉお〜〜、台本通り、言わされてるんじゃぁ、ないよう〜〜」

全力で
「お前だよ」
といいたくなる。
面白い!

寺田本人に「ラピュタ」のムスカ大佐の役をやって欲しい振る榎木。そして、
「わたし、歯医者やりますんで!」
なんて贅沢なボケだ。
「ちょっと待ちなさいよぉぉ〜」
大佐感ゼロの二等兵のようなつっこみがはまる。

「素晴らしいと思わないかねー最高のショウだー!」

本物のムスカだ。
だが、似てない。そこに驚く。なだぎ武の方が似てるくらいだ。
ネタ終盤に、榎木が寺田に言った「正直あんまり似てなかった」というボケのはずの発言が、本当に似ていなかったので、リアルすぎて受けなかったほどだ。
30年の時は大佐を退役させていた。
ムスカネタが続く。

「思いませんよ、歯の治療ですからね〜」
「なんかやりにくいなぁ〜もぉ〜」
「はい、口開けて下さーい」
「見ろー、人がゴミのようだー」
「黙って口を開けてくださいね〜。キーン(歯のドリル)」
「ああぁーー!目がぁ〜目がぁ〜〜」

ここで伝統芸能に向けられるような暖かい拍手が巻き起こる。
笑ったらもったいないいう不思議な気持ちが湧く。

「目じゃなくて、歯ですよ?」という榎木のつっこみが響いてこない。

その後もやたらとピザのネタをやりたがる榎木とやめさせる寺田のやりとりがヒートアップ。
寺田「サスペンスですぎなんじゃないの〜君は〜?」

終了後「こんなに早くセリフ言ったこと、ここ何十年もないよ〜」という寺田に、富澤は
「もっと早く言えと思ってた」とボケ気味に言った(たぶん本心)。

結果発表


寺田・榎木コンビが優勝。
富澤の「何組か味をしめてM1とかキングオブコント出るんじゃないですか?」というボケに、榎木が「M1って3本くらいあれば使い回しできるんですかね?」と真顔でボケる。どうやらボケに味をしめたようだ。

「役者ってすごいっすね」(ノンスタイル石田)
「芸人さんってやっぱすごいね」(中野英雄)
ところどころで「異業種」を讃えるような発言があり、逆に微妙な距離感が印象づけられた。見守る芸人、演じる役者。奇妙な立場に置かれた両者の反応。
ネタの出来もさることながら、演じる者にカチッとはまっていたところが、よくうけていたように感じた。それでいて、決してはまっていたとは言い難いコンビ(えのき&てらだ)も面白いのだから、「笑い」は複雑だ。
この試みにより、「演じる」ということが切り取られたぶん、漫才とコントの違いが浮き彫りになるのも発見だった。
今後この番組がレギュラー化された場合、漫才をどう扱うかの選択は見どころになりそうだ。

ネタが終わった後の役者のやりきった満足げな顔は、見たことあるようで見たことないものだったし、見守り終わった芸人の表情も、まるで自分がやりきったかのようにいいものでした。
(アライユキコ)