群馬で開催された関東大会は、地元である前橋育英が初優勝を果たした。群馬勢の優勝は2012年の健大高崎以来で、群馬開催で群馬の学校が優勝したのは、1967年の桐生高までさかのぼる。今回は激戦が続いた関東大会を総括しつつ、目に留まった逸材たちを紹介したい。

藤平 尚真はドラフト1位候補に相応しい快投を披露藤平 尚真(横浜)

 ドラフト候補に挙がる投手たちが多数集結した今大会は、やはり全国的に見てもハイレベルだった。投手でいえば、藤平 尚真(関連記事)が主役となった。神奈川県大会準々決勝の東海大相模戦では、序盤に140キロ中盤〜140キロ後半の速球を計測したが、終盤に捉えられ4失点と後半の投球に課題を残した。しかし関東大会では見事なピッチングを見せた。

 千葉黎明戦(試合レポート)では、最速150キロのストレートと130キロを計測するフォークで計7奪三振。打者の手元で大きく落ちるもので、非常に威力があった。しかしフォークは最も握力を使う球種であり、さらにこの日前橋は30度を超える暑さとなったため、終盤以降は140キロ前後にとどまっていた。だが連投となった準決勝の日本航空戦では、抜群のピッチングを見せた。

 最初は145キロ前後のストレートをコーナーに投げ分けて打たせて取るピッチング。力をセーブしつつ、ここぞという場面で140キロ後半の速球を投げてねじ伏せ、さらに打撃力が高い打者には、フォークで空振りを取る。打たせて取る投球と、そして三振を狙いにいく投球ができていた。日本航空戦ではわずか2安打に抑えるピッチング、そして7回裏に最速149キロのストレートを計測するなど、しっかりと力配分を見せたピッチングを披露。そして決勝戦では7回裏から登板し、3回無失点。最速148キロを計測し、3連投になっても投球のクオリティが落ちないところを見せた。

 計3試合に登板し、18回を投げて1失点、防御率0.50と圧巻の投球内容だった。これほどの投球ができる高校生はそうはいない。ドラフト1位候補として注目される藤平だが、まさにそれに値する逸材だろう。横浜高出身の右の大投手といえば、松坂 大輔、涌井 秀章の2人が思い浮かぶが、この2人に肩を並べる投手だということは間違いない。

[page_break:島、菊地、大江もアピール]島、菊地、大江もアピール菊地 大輝(東海大甲府)

 ドラフト候補としてしっかりとアピールしたのが菊地 大輝(東海大甲府<関連記事>)、島 孝明(東海大市原望洋<関連記事>)、大江 竜聖(二松学舎大附<関連記事>)だった。

 選抜では思うようなピッチングができなかったが、選抜後の練習試合では好投を続け背番号1を取り返した菊地は、県大会でも好投を続けて好調を維持したたまま試合に臨むと、初回に1点を失ったが、2回以降、無失点に抑えるピッチング。最速144キロのストレート、カーブ、スライダー、カットボールを自在に投げ分けるピッチングは高校生としては非常にハイレベルだった。

 初戦敗退で終わったが、もっと見てみたい投手であった。夏ではさらにスケールアップしたピッチングで、甲子園に導くことができるか注目をしていきたい。

 最速153キロを誇る島は、石岡一戦(試合レポート)で、5回10奪三振の好投。この試合では、最速150キロを計測した。ストレート、スライダーの切れは今年の高校生でもトップクラスだが、三振が多くなると、球数はどうしても多くなる。準々決勝の関東一戦では4失点と不安定なピッチングとなった。夏の千葉大会では連投が続くことが予想されるだけに、どれだけスタミナの消費を少なくする投球ができるかが重要となる。

 大江は、初戦の前橋工戦で1失点完投。がむしゃらに投げていた1年生の頃と比べると、大人の投球ができるようになった。普段は130キロ中盤〜138キロだが、ここぞという場面で、140キロ前半で抑えにいく。さらに、120キロ前後のスライダー、110キロ前後のカーブ、130キロ前後のカットボールを投げ分ける。投球術のレベルが高く、ペース配分もできる投手だ。今年の高校生左腕で、これほどの球威と投球術を兼ね備えた左腕はそういない。2年ぶりの甲子園出場へ向けて、さらに状態を高めていけるか注目したい。

[page_break:勝つ投球を披露してくれた佐藤 優人]勝つ投球を披露してくれた佐藤 優人佐藤 優人(前橋育英)

 ここまでドラフト候補に挙がる投手の投球を振り返っていったが、3年生で活躍した投手たちを紹介したい。

 今回、横浜を1失点に抑えた佐藤 優人(前橋育英)は、投球フォームの完成度が高く、さらに投球の幅も広い右の本格派。ストレートは最速139キロだが、コントロールが良く、コーナーギリギリだけではなく、高低を使えるので、投球の幅は広い。さらに、90キロ台〜100キロ台のカーブを上手く使う。90キロの後に130キロ台後半のストレートを使うと、打者からすれば、体感では140キロ以上に感じる。

 こういった使い分けが上手いので、高めのつり球も使える。緩急だけではなく、スライダー、フォークを使うなど、縦と横の変化を使えるのだから、投球の幅は広い。勝つ投球をするには、どういうピッチングをすればよいのか?それを教えてくれる投手であった。投球の基礎はしっかりと押さえているので、さらに良いコンディションで夏を迎えてほしい。

 さらに千葉黎明の川口 廉も横浜相手に8回途中まで2失点に抑える投球を見せた。初回は2点を取られる立ち上がりだったが、後半に状態を上げていった。川口も佐藤と同じく130キロ後半のストレートを投げる投手だが、カーブ、スライダーの使い分けが上手く、さらに高めのつり球も使えて、緩急も使えるところは非常にレベルが高い。投球のリズムも良く、野手からすると守りやすい投手だった。この2人が今の投球レベルを維持したまま、夏ではさらにストレートがレベルアップすると、楽しみだろう。

 決勝戦で先発した横浜の左腕・石川 達也は、最速139キロを計測するなど力のあるストレートを見せたが、ストレートを生かす投球術で課題を残した。また今回、思うような投球ができなかった最速145キロ右腕・板垣 理音(青藍泰斗)は、もう一度フォームを見直し、万全の状態で夏に臨み、パワフルなピッチングが復活することを期待したい。

 ベスト4の日本航空では浦和学院に4回無失点(試合レポート)、文星芸大附に7回1失点の好投を見せた背番号11の西角 優杏に注目したい。180センチの長身から角度のある130キロ中盤の速球、スライダー、カーブを丁寧に投げ分ける投手だ。また2回戦で横浜と対戦し、3失点に抑えた健大高崎の石毛 力斗は、130キロ中盤の速球、キレのある変化球を投げ分ける好左腕。3年連続甲子園出場へのキーマンとなる投手だろう。

 次回は、気になる下級生投手、また活躍を見せた野手たちを紹介していきたい。

(文・河嶋 宗一)

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