前橋育英vs横浜

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勝敗を分けた先発投手の緩急の効用

石川達也(横浜)

 関東大会決勝戦は5対1で前橋育英が初優勝を収めた。この試合、何が勝敗を分けたのか。それは先発投手の緩急を使えるか、使えないかといっていい。

 横浜の先発は石川 達也(3年)。左のエースとして、藤平 尚真(3年)とともに活躍を期待されている投手だ。石川の魅力は右腕のグラブを高々を掲げて真っ向から振り下ろす角度あるストレート。ストレートの球速は135キロ前後で、最速139キロと高校生左腕としては十分なスピードだ。実際に石川のストレートは非常にスピンがかかっていて、まさに質が伴ったストレートを投げ込んでいる。しかしこれで打者を抑えられるわけではない。石川はスライダーも投げているが、そこまで突出したキレがあるわけではなく、どうしてもストレートで頼りがちになる。そうなると打者は狙い球が絞りやすくなる。前橋育英は石川のストレートにしっかりと対応をしていた。

 前橋育英は3回に石川を捉えはじめ、一死から9番長谷川涼太(3年)が三塁線を抜ける二塁打。1番石川塁翔(3年)は左前安打で一死一、三塁。2番浅見悠大(3年)に対して、石川は速球で押す。しかしフルカウントから今日最速の139キロのストレートが外れ四球。3番飯島大夢(2年)が追い込まれながらも粘り強く左前安打。前橋育英が1点を先制する。さらに4番小川龍成(3年)の併殺崩れで1点を追加。5回表には9番島崎悠(3年)のセーフティバントから始まり、一死一、二塁から2番浅見が甘く入ったスライダーを捉え右中間を破る適時三塁打。さらに3番飯島の犠飛で一気に5対0とする。ここまで点を取られた内容を振り返ると、ストレートで抑えにいこうとするが、打者は簡単には振らない、ファールで粘る。苦し紛れに入ったスライダーが捉えられたり、高めに入ったストレートを打たれて、失点を重ねた形だ。

 石川がストレートをこだわる姿勢は悪くないし、今の時点で小手先に走る投球はしてほしくないので、方向性は間違っていない。強気なところは石川の魅力だろう。だがストレートをごり押しするのではなく、今のキレのあるストレートをより速く見せる投球術が求められている。押すだけではなく、引くことも大事なのだ。 これを関東大会で気付けたのは良かっただろう。

 

佐藤優人(前橋育英)

 対照的に前橋育英の先発・佐藤 優人(3年)は緩急自在なピッチングができていた。右腕から投げ込む直球は135キロ〜139キロと突出して速いわけではないのだが、これを速く見せていたのが90キロ〜100キロ台のカーブだった。2回裏、無死。打者は4番村田 雄大の初球、90キロ台のカーブが決まった。その2球目が138キロのストレート。これには村田は対応できず、最後はスライダーで空振り三振。最初、90キロ台のカーブを見せて、その後、130キロ後半のストレートを続ける配球を5番申、6番藤平にもつづけた。その後、130キロ台のストレートの合間に90キロ〜100キロ台のカーブを織り交ぜて速く見せる投球を実行。横浜の打者はなかなか対応ができず、さらに狙って高めのつり球で勝負するが、カーブの後なので、より速く見えるので、空振りを繰り返したり、スライダーが決まって見逃し三振、外角低めにフォークを投げて空振り三振に打ち取る配球を見せていた。

 変化球は横・縦・緩急の3種類を使い分け、さらにストレートは両サイド、高低を自在に投げ分けた佐藤の投球術は高校生トップクラスといっても過言ではない。

 それでも横浜の各打者はミート力が高いので、ヒットにはすることはできるものの、なかなかフルスイングで捉えるゾーンにいかないので、なかなか長打が出ない。

 また佐藤の好投を引き出していたのはバックの守備で、内野手は処理が難しい打球をアウトにしたり、外野手は深めの守備位置について、抜けそうな打球を追いついて平凡な外野フライにしたりと、ポジショニングの良さが光った。もしこれでバックの守備が不安だったら、佐藤の投球は成り立たなかった。

 コントロールも素晴らしかったが、森田のキャッチングの良さも相まって、コーナーギリギリのストレートで見逃し三振も奪うことができていた。 緩急を使えるか、使えないか、それが勝負の明暗を分けた。プロ注目の投手と呼ばれるよう投手ではなくても、勝負できることを証明した佐藤のピッチング、ピンチの場面の粘り強さ、そして横浜の各打者の鋭い打球にも慌てずに処理できる守備力、そして打撃では狙い球を絞り、しっかりと攻略していく姿勢。

 一戦ごとに強くなり、そして強敵に動じず、自分たちのスタイルを貫く強かに戦う選手たちの姿勢...。 甲子園優勝を果たした2013年のチームと同じ匂いを感じるチームであった。

詳しい試合経過はこちらより

(文=河嶋 宗一)