日本ウェルネス高等学校(東京)【後編】
ウェルネスの未来のために、新たな道を創る
この春に初の都大会出場。さらにベスト16入りと躍進を果たした日本ウェルネス。ベスト16入りを果たすことができた理由、そして春季大会後、どのようなテーマを持って夏に向かっているのかを伺いました。
自慢の守備力を発揮した春季都大会素振りをする選手たち(日本ウェルネス高等学校)
東京都大会へ向けてできるだけ練習を重ねるために、都大会前日の3月31日にも、練習試合を行った。これは、いつも日本ウェルネスが使っているグラウンド事情にある。平日に使っているグラウンドは土日祝日は使用できない。春休み期間中は、地元の少年野球たちの使用が優先になるため、春季大会前はほぼグラウンドを使用することができなかった。大会直前だったが、練習試合が一番の練習になるということで、31日にも組み込んでいったのだ。
少しでも練習をしたい。そのハングリー精神が大会で実を結ぶことになる。都大会初戦、まず都立府中工に4対3で勝利すると、2回戦では工学院大附に2対1で競り勝ち、勝てばシード権確定の3回戦では日大桜丘と対戦。試合は7回が終わって0対0という接戦となった。迎えた8回表に2点を先制されるも8回、9回裏に1点ずつ入れて延長戦に持ち込むと、10回裏に相手の敵失で見事にサヨナラ勝利を決めた。
この試合、日本ウェルネスは非常に守備が堅かった。3回戦までの3試合、1点差をモノにしたのは、チームとして取り組んできた守備力強化がしっかりと発揮された結果だ。ベスト8を狙った4回戦では岩倉に0対8でコールド負けをしたが、収穫と課題が残る大会となった。収穫としては、守る野球が実践できたこと。美齊津 忠也監督の指導の下、内野手、外野手ともにきめ細かく守備練習を行う。
日本ウェルネスは、この春から1年秋まで横浜商大高でクリーンナップを打っていた渡部 健人(3年)が公式戦に出場するようになった。渡部は練習試合で本塁打を連発していて、高校通算20本以上も打っているスラッガーだが、主将の水上 虎之介は「僕らが打てない中で、別格の打球を見せてくれます。本当に頼りになります」と信頼するが、その渡部が都大会では全く打てなかった。
本人にとっては悔しい限りの結果となってしまったが、渡部が打てない中でも守りで勝てたことは、チームにとって大きいと美齊津監督は捉えている。いつでも渡部が打てるとは限らないからこそ、守り勝ちができるチームになる必要があるだろう。
だが、主砲・渡部が打って活躍して勝利をすれば、チームに勢いは付く。強いチームは、主砲がしっかりと活躍している。美齊津監督も当然、そういう活躍を臨んでいる。「春の都大会は彼の野球人生を振り返っても、最も打てなかった時期ではないかと思います。春も打って活躍して、勝つ試合を期待していましたが、それができなかったので、夏で実現すればいいですね」と期待を込める。主力打者の好不調にかかわらず、試合を作れるようになったのは成長点だが、個々の能力はまだまだ低いとみている。
[page_break:この夏は東京都に新たな風を巻き起こす]シード権を獲得した日本ウェルネスだが、「いやーうちは今年のシード校で最も弱いチームですから。勘違いせずに、個々の力を高めることをテーマに取り組ませていますね」と美齊津監督は選手に慢心させないよう、競争意識を持たせている。
今年は新入生20名ほどが入部して、部員は49人に。既に多くの1年生が大会後の練習試合に出場している。「実力がある子もいますし、うちは1年生だから球拾いということはありません。公式戦に出ていた3年生が出ていない試合もありますよ」と語るように、主力選手たちは「結構やばいです」と危機感を感じている。競争する中で、個々の戦力を高めていきたい考えだ。
この夏は東京都に新たな風を巻き起こす素振りする水上 虎之介主将(日本ウェルネス高等学校)
シード権を獲得できるチームになったのは、主将の水上 虎之介の存在が大きいと美齊津監督は説明する。「彼は部員ギリギリの時からやっていた選手です。それこそ非常に苦しい中でも、水上はリーダーシップをとってやってきました。当時はどうすれば前へ進めるのか、道を作ろうとしていた段階でした。最初から道があって、それを通るのは簡単です。でも水上は道なき道を通ってきた選手で、水上が通ってきた道を今の1、2年生たちが通っています。
だから水上はウェルネスにとって開拓者といっていい選手です。ですから、私は今の新入生に、水上を含めた3年生のことを話しています。水上が作った道を私たち、1、2年生たちはしっかりと伝統にしなければなりません」
開拓者と評するぐらい絶大な信頼を置いている美齊津監督。主将の水上は、「入学前に誘われて、美齊津先生がこれから強くなっていくチームだよといわれて、自分もチームが強くなっていく過程で、選手としても成長できればという思いで、入学しました」
強い決意で日本ウェルネスに入学した水上は、一つ一つの練習を丁寧にこなしながら実力を磨き、主将になってからはしっかりとチームメイトに叱咤激励をして、チームを引き締めてきた。水上と同じ中本牧シニア出身の渡部は、「良いところは良い、悪いところは悪いとしっかりと指摘するキャプテンですし、非常に視野の広さがあるキャプテンで、とても頼りになると思います」と信頼を寄せている。
練習を見ると水上主将を中心にうまくまとまっている。それぞれの選手たちが自分の課題に向かって取り組む姿があった。緩みがあれば、すぐに指摘する水上主将。やはり存在感がある選手だ。美齊津監督は、「彼の一言一言はとても重みがあって、説得力がある。今年は試合に出場する、しないに関わらず、水上はこのチームのキャプテンです」
豊富な野球理論を持ち、段階に応じて選手たちへ指導していた美齊津監督と、チーム全体を見渡し、まとめていった水上主将の存在。この2人がしっかりとタッグを組んで、日本ウェルネスはチームとして進化していったのが伺えた。
初となるシード権を獲得しての夏。日本ウェルネス野球部にとってさらなるステップアップするためには重要な夏となる。春に続き快進撃を続け、東京都に新たな風を巻き起こすことはできるか、注目だ。
(取材・文/河嶋 宗一)
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