読売ジャイアンツ 菅野 智之投手「心技体ではなく、体心技の考え方 」

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 プロ野球3・4月の月間MVPに選出された菅野 智之投手(読売ジャイアンツ)。4月までで、6試合に先発し3勝0敗。5月に入ってからも好調をキープ。今年でプロ入り4年目となるが、投手陣の柱として、安定した結果を残し続けている。今回はそんな菅野投手に、大会から逆算した投手の調整法について伺いました。

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心技体ではなく、体心技の考え方

菅野 智之投手(読売ジャイアンツ)

――今回は、菅野投手の試合に向けた調整方法について教えていただきたいのですが、まずは菅野投手の考え方として、野球において何を一番に優先して、日々取り組んでいますか?

菅野 智之(以下「菅野」) 野球選手として求められるものは、メンタル・技術・コンディショニングとありますが、全部を求めてしまうと僕はダメだと考えています。よく『心・技・体』と言われますが、僕が考える優先順位は『体・心・技』だと考えています。自分が一番大事にしているのは、コンディショニング(体)。技術は、一番最後。

 体が良い状態であれば、メンタル(心)は大丈夫だと思えますし、技術は正直、キャンプ中からやってきたものがあるから、そこは経験で補ってもいける。ただ、それはプロの世界だから言えることであって、高校生はやっぱり投げないと不安だと思います。

 高校生向けの話ではないかもしれませんが、それでも、メンタル・技術・コンディショニングの全部は追い求めてほしくはないですね。高校生だからこそ、『体』(コンディショニング)の部分はしっかりと作り上げていってほしいです。

――高校生の場合は、夏場は特に連戦も続きますね。

菅野 確かに夏場の暑い中での連戦は大変ですが、試合が近づくにつれて練習量を落としていく。そうすることで、今度は『心』の部分は不安になると思いますが、一方で『体』が万全なら僕はそれでいいと思います。ピッチャーなんて毎日反復練習ばかりで、でもそれをやってきたことを自分で信じてあげて、試合に臨んでいってほしい。まずは、『体』(コンディショニング)を優先させた取り組みが大切です。

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菅野 智之投手(読売ジャイアンツ)

――プロの先発投手の場合は連戦が少なく、中5〜6日と時間も空きますが、そこに対して、菅野投手自身の工夫はありますか?

菅野 プロになってからは、基本的に中6日の場合は、登板2日前にブルペンに入ります。中5日の場合は、ブルペンには入りません。みんな、「たった1日でそんなに変わるの?」と思うかもしれませんが、その積み重ねが、シーズン後半に響いてくるのです。

 中5日だからといってブルペンに無理して入って、『心』はいいかもしれないけど、それは投げたっていう自己満足になってしまいがちです。中5日だからこそまず体を万全な状態に持っていく。技術の部分は登板間隔が短いからこそ、前回の感覚を覚えていると思います。

 逆にローテーションを任されるほどのピッチャーが『ブルペン入らなきゃ不安』って言っているようじゃダメだと思います。だから、僕はもう中5日の登板日の時は絶対にブルペンに入りません。

――徹底した自己管理が毎日の結果に繋がってくるのですね。では、実際に、登板日翌日以降のトレーニングはどんなことを行っているのですか?

菅野 ランニングであれば、昨日投げたから、今日は有酸素運動30分だけとかですね。ランニングが終わったら、軽くウエイトトレーニングして、翌日は休み。休んだ翌日は、インターバル走、ポール間走と、登板が近づくにつれて徐々に走る距離を短くしていきます。高校生の皆さんはまだ上手く組み立てができないかもしれないけど、自分がコンディショニングを高めやすい調整方法を見つけるために、いろんなことにどんどんトライしていくのも大事だと思います。

 大学に行ったり、さらにその上のステージに進んだりすれば、もっと自主性が求められるというか、結局、自分だけの時間で、頑張れる選手が伸びるので、今のうちから考えながら、やった方がいいです。とくにピッチャーは個人に任されている部分が多いポジションなので。

――なるほど。また、菅野投手は疲労回復のためにどんなことを行っていますか?

菅野 僕はほぼ毎日、“交代浴”(※注釈1)を行っています。お風呂にはトータル1時間かけて、その中で、15分、5分、15分、5分…と交互に温水と冷水に入っています。そしてお風呂上がりには、必ずストレッチを行います。その時に極力、人の手を借りたマッサージには頼らないようにしています。僕も自分なりに色々と勉強していく中で、自分の身体を自分自身が理解して、対話していくことが大切だと感じるようになりました。

 マッサージをされるともみ返しがあったり、筋肉へのダメージも少なからずあったりしますよね。試合の翌日は、必要に応じてトレーナーさんにマッサージをしてもらうこともありますが、強い張りがない限りは自分でストレッチをするようになりました。

※交代浴・・・温かいお湯と冷たい水に交互に入浴する方法です。血流循環がよくなり、疲労回復効果が高いと言われています。お湯と冷水に入る時間は諸説ありますが、最後は冷たい水で身体を冷やします。こうすると湯冷めもしにくく、保温効果も持続します。

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菅野 智之投手(読売ジャイアンツ)

――菅野投手が最近実践しているトレーニングで、投手にオススメのトレーニング法はありますか?

菅野 昨年のオールスターの時に、前田 健太さん(現ロサンゼルス・ドジャース/インタビュー記事)に聞いて、スライダーの握りを変えたのですが、その握りで投げると、いつもよりも前腕の張りが強く出てビックリしました。

 前田さんは同じ握りでずっと投げ続けられるので、あらためてすごいなと感じました。僕はこれじゃダメだなと思って、スライダーの握りに耐えられるよう、指の力を鍛えることにしました。3キロのゴムボールを上から掴んで持ち上げ、握って離して、握って離してというのを繰り返すだけという本当に単純なトレーニングを続けました。最初は50回くらいしかできなかったけど、今は寝起きでも100回はできます。

 試合では、投げているときに『感覚的に抜けた!』と思ったボールであっても、リリース時に指の力がボールに伝わり、いわゆる「指にかかったボール」がいくようになりました。これは、ピッチャーにとって良い練習だと思います。それ以外にも、指を鍛えることで肘痛の予防にもなりますから。

――また、遠投の練習において、菅野投手がポイントとしていることはありますか?

菅野 遠投もすごく大事な練習ですね。投げない日は遠投をしています。中5日の時も、ブルペンに入らない代わりに、遠投を多くやっています。僕の中では「これをやれば間違いない!」と思っています。やっぱり、良いピッチャーは遠投を大切にしている人が多いですよね。ただ単に遠くに投げたり、球数を投げたりするよりも、遠投は質が大事。きちんと意識を持って投げていれば、5球から10球で良いと思います。

――菅野投手、参考になるアドバイスをいただき、ありがとうございます。最後に球児の皆さんへメッセージをお願いします。

菅野 僕は、ここまで難しいことは言っていません。野球をやめても、食事・睡眠・入浴というのは、日常生活において誰でもやるわけじゃないですか。だから、あまり頭でっかちになるのも良くないけど、最低限の知識は持っておいた方が良いと思います。僕は今、振り返ってみて、高校生の時にもっと遠投の意識を持っておけばよかったなとか思いますからね。投手は、野手と違って、やれることは限られているので、自分で考えながら、自分なりの調整法を考えていってほしいですね。

「大会から逆算した投手の調整方法」を今回は菅野投手にお話を伺いました。コンディショニングでの工夫や、トレーニング法まで、菅野投手が日頃、実践している取り組みはとても参考になりました。菅野投手、ありがとうございました。

(注釈解説・西村 典子トレーナー)

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