プレイバック選手権 「漫画よりも漫画的 2006年の夏」
高校野球ファンからも未だに人気の高い2006年の第88回全国高等学校野球選手権大会。今、現役の高校球児たちは当時小学生の高学年。ばっちり憧れる年代である。印象深い大会なのではないだろうか?そんな大会を、あらためてプレイバック。
2人のエースを筆頭に、魅力あふれる選手が多数まず思い浮かぶのは何といっても駒大苫小牧・田中将大、早稲田実業・斎藤 佑樹の2人のエースだろう。この大会、3連覇を目指す駒大苫小牧をどう止めるか、というのが一つのテーマだった。チーム、そしてエースである田中将大対策を練り、全力ぶつかってくる相手を受け止め、僅差ながらもきっちりと勝ち抜く駒大苫小牧。辿り着いた決勝の舞台では、2回戦で大阪桐蔭を破り(ちなみに大阪桐蔭の1回戦の相手は横浜)、そのままスイスイと勝ち上がってきた早稲田実業だった。
決勝は、駒大苫小牧は菊池 翔太・田中 将大、早稲田実業は斎藤 佑樹の投げ合い。投手戦となったこの試合は延長15回でも決着はつかず。翌日の再試合も9回ギリギリまでもつれた末、4対3で早稲田実業が勝利し、初優勝となった。斎藤 佑樹はこの2試合をひとりで投げ抜いた。決勝戦だけではない。この大会、投球回は69回、投球数は948球と、まさに優勝の立役者となる活躍ぶりだった。
この年は他にも魅力的なキャラクターをもった選手が多数出場しており、漫画のようだと言われることもしばしば。むしろ漫画であれば「こんなことあるわけない」と叩かれそうな試合が、前述の決勝戦だけでなく、いくつもあった。
また、この大会で主力となった3年生、1988年生まれに逸材が多いことも知られている。88回大会出場を逃した中にも、秋山 翔吾、柳田 悠岐、坂本 勇人、澤村 拓一、梶谷 隆幸といったチームを支える選手達が数多く存在している。今や田中 将大と並び立つメジャーのエース・前田 健太が発起人となり「88年会」なるものが発足したのも記憶に新しいかもしれない。
1年生から甲子園で活躍を見せてきた前田 健太も、出場を逃した選手の一人。この年の大阪代表はPL学園ではなく、2年生の中田 翔が引っ張る大阪桐蔭だった。大阪大会新記録の4試合連続ホームランで甲子園に乗り込むと、甲子園でも推定140メートルという特大ホームランを放っている。もちろん、1年生にも注目選手が出場している。帝京の杉谷 拳士だ。今では同じ北海道日本ハムファイターズに所属している中田と杉谷。チームでの様子やテレビのバラエティ番組を見ると中田 翔がものすごく先輩のように見えるが、実は年齢は1つしか違わないのだ。
そしてその杉谷は2006年、漫画のような試合の当事者となっていた。
[page_break:あるはずない、が現実に。2段構えのどんでん返し]あるはずない、が現実に。2段構えのどんでん返し帝京時代の杉谷拳士
準々決勝、智辯和歌山vs帝京。この文字を見るだけでピンとくる方も多いだろう。土壇場での大逆転に次ぐ大逆転。2段構えのどんでん返しとなった試合だ。共に打撃に定評のあるチームの対戦は、序盤から本塁打を重ねた智辯和歌山がリード。7回を終了し8対2と、ほぼ試合の流れを握っていた。だがそこは当時「東の横綱」と呼ばれた帝京。8回に2点を返し4点差とすると、9回に史上最多となる8得点をあげ逆転に成功。逆に4点のリードを奪う。この時、7対8から逆転打を放ったのが杉谷 拳士だった。
だが、智辯和歌山は打倒・駒大苫小牧、打倒・田中 将大を掲げてここまで鍛え上げてきた。駒大苫小牧と対戦するまでに負けるわけにはいかないのだ。智辯和歌山応援団が演奏する魔曲と名高い「ジョックロック」が流れるなか、智辯和歌山はランナーを溜めると橋本 良平の3ランホームランで一気に1点差に迫る。さらに次の打者も四球を選ぶ。もう止まらない智辯和歌山。ここで再度登場するのが杉谷 拳士だ。1年生ながら度胸を買われての登板となるが、さすがに緊張したのか初球で死球を与えてしまい、降板。しかも当てた相手がサヨナラのランナーになってしまい、杉谷は1球で負け投手になる。9回裏に4点差をひっくり返した智辯和歌山が勝利し、田中 将大との対戦を勝ち取った。
この試合は記憶にもインパクトを残したが、記録にも残っている。・帝京が9回に8点を取ったのは9イニング目の最多得点・対する智辯和歌山の4点差からのサヨナラ逆転も大会新記録・智辯和歌山の1試合5本塁打は大会新記録・両チームあわせて7本塁打は、1試合最多本塁打・勝利投手、敗戦投手とも投球数が1
と、並んでいる記録だけを見ても、凄まじい試合だったと想像できる。ちなみにこの試合には当時帝京の2年生だった中村 晃(福岡ソフトバンクホークス)も4番・ファーストで出場、9回大逆転のきっかけとなるタイムリーを放っている。いわばこの試合は「持っている」選手だらけだったのだ。
伝説と呼ばれる試合が同じ大会で生まれたのも、そうあることではない。漫画よりも漫画的、ドラマチックにもほどがある第88回全国高等学校野球選手権大会。それぞれお気に入りの選手や試合があるはず。語りつくされていると思っても、今一度見直してみると、新たな発見が出てくるはずだ。