ファウルで粘ることが多い日本ハムの中島卓也

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◆ 守備、脚があっても「ボールが前に飛ばない」非力なバッター

 2015年シーズン、一番嫌らしい打者は中島卓也(日ハム)だった。中島はプロ8年目の25歳、昨年盗塁王を獲ったものの渋い活躍をするツウ好みの選手である。“なぜ嫌らしかったか”の前に中島のここまでの活躍を振り返ってみる。

 そもそも高校時代の中島は、ドラフト時に専門誌にも載らないほどのいわゆる“隠し玉”だった。2008年のドラフト会議で中島は日ハムからドラフト5位指名を受け入団。高卒野手らしく、1年目、2年目はファームで体を作り、3年目の2011年、一軍初出場。翌年は守備固め、代走がメインながらも105試合に出場した。だが、82打席でヒットはわずか8本、打率は.114に終わる。当時はまだ守備、脚があっても「ボールが前に飛ばない」非力な打者という評価だった。

 2013年は西川遥輝(日ハム)がケガで戦列を離れた際の穴埋めとしてセカンドを守り、272打席に立つ。さらに2014年からはレギュラーとして定着した。だが、中島に慢心はなかった。「どうやったら塁に出られるかしか考えていない。粘り? そういうのがなきゃ、ボクは一軍にいられないです」。シーズン中のインタビューに中島はこう答えていた。

◆ 昨シーズンの最多ファウル王は侍ジャパン入り!

 2015年は田中賢介(日ハム)の復帰があり、かねてから本人が守りたいと言っていたショートにコンバートされた。そして数年前から注目されていた中島の打撃での嫌らしさがいよいよ発揮されたシーズンであった。

 中島が昨シーズン中に打ったファウルの数は両リーグトップの599本。そんな賞はないが『最多ファウル王』である。ツーストライクに追い込まれても、フルカウントでも、際どい球がくるとひたすらに粘る。「ファウル、ファウルで粘っていると、ああ、(球場が)湧いてくれているなというのはなんとなくわかりますけど、音は聞こえなくなります」と本人がコメントするように、ファウルを打つごとに中島の集中力は高まっていく。

 中島の嫌らしさの真骨頂はここでヒットを狙わないことだ。「相手ピッチャーも嫌だと思うし、自分が守っていたとしても、粘られた挙げ句のヒットよりフォアボールのほうが嫌な感じがしますからね」。さらに、中島はファウルを狙って打つ。

「内角の球でも三塁方向にファウルするイメージで立ち、極端に言うと、安打を打ちにいかずにファウルを打ちにいってます」

 黒木投手コーチ(日ハム)は、ピッチャーの立場から中島をこのように見ている。「足が速くて左に強い打球を打てる。強く振りにいきながら、くさい球をカットする。そりゃ、嫌で仕方ない。ボクがピッチャーだったら嫌」。かつて非力と評されたバッターにとっては、最高の言葉だ。栗山監督も中島に一目を置く。「監督としては本当に助かる。卓也が9人いたら、相手は何百球投げなきゃいけなくなるか」。

 中島は、定評のある守備力と打撃の粘りでついに侍ジャパンメンバー入りを果たした。今シーズン、中島のカット打法に注目しファウルを数えるのも、野球を見る楽しみを広げてくれるひとつではないだろうか。

文=松本祐貴(まつもと・ゆうき)