中国危機という「蟻地獄」に日本も引きずり込まれてしまうのか?
中国経済の悪化を伝える報道を聞かない日がありません。失速していることは事実とは言え、なぜここまで「喧伝」されるのでしょうか。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんは、その裏にアメリカの思惑があると指摘、詳しく分析・解説しています。
中国危機の真因は、習近平改革への失望(WSJ)
中国経済、「もうダメだ!」というのが、世界的コンセンサスになっています。ソロスは、「ハードランディングは不可避だ!」と宣言した。ジム・ロジャーズは、「リーマンショック時よりもっとひどくなる」と宣言した。中国は、世界2位の経済大国。中国の危機が世界に波及し、日本も相当厳しい状況になってきています。
それにしても、この「急転直下」はなんでしょうか? 去年3月、日本以外の親米諸国群は、アメリカを裏切って「AIIB」への参加を決めた。つまり当時は、「中国のAIIBに入っておけば、儲かるぞ!!!」と、どの国も思っていた。だから、親米イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、イスラエル、オーストラリア、韓国等々が、遠慮なくアメリカを裏切った。しかし、1年経とうとする現在、なんと大きく変わってしまったことか。もちろん、RPE読者の皆さんは、こうなることをお見通しでした。
今起こっていることは、「AIIB事件」で覇権を中国に奪われつつあることを自覚したアメリカの、「リベンジ戦略」が大きく関わっているのです。詳細はこちら。
● リベンジ〜AIIBで中国に追いつめられた米国の逆襲
実際、「AIIB事件」後、アメリカメディアで「中国崩壊論」を見かけない日はありません。
「事実」が「情報」として出てくるのは、一般的です。しかし、一方で、「情報」が「事実をつくる」のも、また普通。たとえば、有名エコノミストが、「○○社は、かなりヤバいらしい」といえば、昨日までなんの問題もなかった会社の株でも、暴落するでしょう? アメリカで起こっていること、アメリカが起こしていることは、まさにそれです。
さて、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)2月17日付も、「中国経済急に悪くなりすぎ!」と指摘しています。
【上海】世界の投資家が中国に抱く心理はいつも、行き過ぎた楽観か極端な悲観かのどちらかに大きく振れていた。
ただ、足元の悲観ぶりはこれまでになく極端になっている。
この理由は、景気減速では説明がつかない。昨年の公式経済成長率は6.9%と25年ぶりの低水準で、エコノミストの多くは実際の成長率が6%に近いと予想しているが、中国は依然として他の主要国の大半を上回るペースで成長している。
銀行には預金が大量にあり、政府にはまだ財政力がある。失業は低水準だ。
「エコノミストの多くは実際の成長率が6%に近いと予想している」だそうです。私の知る限り、エコノミストの多くは、「せいぜい3〜4%だ」と言っていた気がしますが。いずれにしても、「今のリアクションは、ちょっと悲観的すぎないか?」と疑問をもっているわけです。記事は、「その真因」を分析します。
今回、驚くほど悲観的なムードに転じた理由は、経済のパフォーマンス以外のところにある。基本的には中国指導部、つまり、経済運営の手法が理由だ。
(同上)
「基本的には中国指導部、つまり経済運営の手法が理由だ」と。どういうことでしょうか?
習主席は広範な改革を公約した。
トウ小平氏に比肩する改革路線を打ち出す習主席は、中国が投資主導から消費主導の成長に転換する中、国家の役割を縮小し、市場に「決定的な役割」を与えるために60項目の計画を発表した。
(同上)
これは、なんでしょうか? 2013年11月9日〜12日、共産党第18期中央委員会第3回全体会議(三中全会)が開かれました。ここで「60項目の改革案」が示されたのです。主な内容は、
・私有財産権の保護
・国有独占企業の民営化
・民間資本の市場参入を容易にする
・企業登録の簡素化
・農村の都市の市場化
・中国金融市場を開放する
・戸籍改革(農民の都市部移動を容易にする)
・新たな自由貿易区の設置
・格差是正(低所得者層の所得を増加させる)
・一人っ子政策の見直し
などなど。要するに、欧米企業や投資家が喜ぶ「改革案」が発表された。習近平政権への期待は高まりました。ところが…。
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習政権は10年の任期の4年目に突入しているが、改革の大部分は棚上げとなっている。
中国からの資本流出は、一部の投資家が見切りをつけている兆候の1つと言える。目下の失望感は、中国の現状ではなく主に将来の見通しに向けられている。改革の進展が再び約束されない中、成長が失速するという予想が広がっているのだ。
疑問視されているのは、いつ失速が現実のものとなるかという時期だけだ。
(同上)
要は、習近平、「改革案は立派だが、口ばっかりで実行していない」というのです。「一人っ子政策」の見直しは、本当にやりましたが。
習主席は当初の大言壮語とは裏腹に、市場に限定的な役割しか求めていないのだ。
昨年夏、政府が誘発したバブル崩壊で上海株式市場が急落した際に荒っぽい介入で救済に動いたことでも明らかだが、市場原理への道を明らかに逆行する例がいくつかあった。
当局は、証券会社に株式購入を強制し、大口投資家の売りを禁止した上に、市場の混乱は投機筋や報道機関、さらには「敵対的な外国勢力」のせいだと批判した。
(同上)
つまり、WSJは、「習近平は、そもそも改革をやる気がない」と指摘している。
習主席は10兆ドルを超える規模の経済のかじ取りで、はるかに複雑な課題に数多く直面している。
だが、習主席がこれまでに講じた果断な措置から、同氏が経営工学と国家計画を通じて経済の方向を事実上まだコントロールできると考えていることがうかがえる。その好例が、政府系企業を合併し、さらに強力な独占企業を作り出すという習主席の手法だ。
こうした強大な企業への投資を民間企業に認める計画はあまり進んでいない。
(同上)
ここではつまり、「改革を進めるどころか、逆のことをやっている」と。国営企業を民営化するのではなく、国営企業を合併させて、さらに強力にしていると。
状況改善を期待できるような説得力のある説明がないため、投資家はますます厳しい結論に達しつつある。
それは、習政権は改革に関しては構想通りに進めることができなくなっている、というものだ。
(同上)
投資家が、「習近平を見放しつつある」ということですね。
「欧米企業や投資家の願う改革を習近平は実行していない」
これについて、どう考えるべきでしょうか?
欧米は、中国ではなく欧米に都合のいい改革を要求するので、欧米のいうとおりにやればうまくいくわけでもありません。
たとえば、ソ連崩壊後、新生ロシアは、欧米やIMFの指示に従って改革を断行した。結果は、92〜98年、GDPが43%減少という悲惨な結果になりました。しかし、2000年に「欧米のいうことをまったく聞かない男」プーチンが大統領になった。するとロシア経済は、以後08年まで毎年平均7%成長しつづけた。ですから、「習近平が欧米のいうことを聞かないのが悪い」とは一概にいえません。
しかし、一方で「中国経済が外資によって成長してきた」というのもまた事実。外資を失望させ、外資が逃げ出せば、中国の成長も終わってしまいます。WSJの記事は、「習は外国企業や外国投資家を喜ばせる政策をしないので、失望され、企業や外資が逃げ出している」という事実を指摘しています。
というわけで、中国経済、ますます危機は深刻化していきそうです。そして、世界も引きずられて厳しい時代に突入にしていきます。私たちも、がんばって、乗り切っていきましょう。
image by: Wikimedia Commons
『ロシア政治経済ジャーナル』
著者/北野幸伯
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出典元:まぐまぐニュース!