歌舞伎町で最古のストリップ劇場「TSミュージック」が閉館するかもしれない
音楽に合わせて女性ダンサーが徐々に服を脱ぐ「ストリップ」は、現在の日本では性風俗に分類される。経営環境は年々厳しくなる一方で、ピーク時と比べて4分の1程度に減った。営業中の劇場は全国に約25カ所しかない。
都内には浅草、上野、池袋、渋谷に各1館、新宿に3館が残っている。このうち新宿区役所の裏手に立地する「TSミュージック」は、約38年の歴史をもつ歌舞伎町の最古参だ。席数は40あり、営業時間は朝の10時頃から24時まで。一日平均で約100人が観賞のため来場する。入替制をとっておらず、長時間滞在する客もいる。
この劇場がいま、ビルのオーナーから立ち退きを求められている。
TSミュージックのステージ(劇場提供)
どうしてこのような事態になったのか――。Jタウンネットは劇場のジェネラルマネジャー・岡野健太郎さんに経緯を尋ねた。
家賃未払いが生じたのは事実だが......
TSミュージックが入居しているのは地下1階地上4階建のビル。テナントが次々と入れ替わる中で、竣工間もない時期から2階を借りていた。所有者は4人いて、遺産相続等で変動があったものの、最初のオーナーの親族が共有している状態だ。
発端となったのは2013年1月、公然わいせつ罪で岡野マネジャーが踊り子数名と共に逮捕され、240日の営業停止処分を受けたことだ。その理由について岡野マネジャーは多くを語らないが、従来と変わらぬ営業をしていたという。いわゆる見せしめだったのか――。
逮捕されたとき岡野マネジャーは「営業を再開するまで家賃の支払いは待ってほしい。入居時に納めた保証金(家賃の40カ月分)から引いてほしい」と不動産業者を通じて依頼する。今回の一件が起こるまで家賃を滞納したことは一度もなく、オーナーと信頼関係を構築していたはずだった。
結局滞納したのは2014年7・8、10〜12月の5カ月分。オーナーに伝えた通り、2014年1月、2カ月分を通常の家賃と合わせて支払う。残り3カ月分は数か月以内に支払って完済――これで収まるはずだったが、3月になって家賃不払いを理由とする明け渡し請求を受けた。
知らせを受けた岡野マネジャーは残金を振り込んで完済する。それにもかかわらずオーナーは訴えを取り下げなかった――岡野マネジャーはそう訴える。
家賃は電気代等込みの契約になっている。提訴があって以降、見込みより少し多めの金額を毎月振り込んでいる。
女性裁判官からは冷たい反応
滞納分の返済についてオーナー側と口約束を交わしたのに、訴状では全てなかったことにされている――そう岡野マネジャーは憤る。
「実は2014年1月、オーナー側とちょっとしたいさかいがありました。老朽化した水道管から水が漏れ、下のフロアが水浸しになってしまったのです。オーナー管理のメーターが原因のようで、8年ごとに取り換えるべきものがそのまま使われていました。被害を受けたテナントの声を代弁して『貸主に責任があるんじゃないですか』と私が意見したところ、そこから関係がこじれてしまい、いきなり解除通知が送られてきたのです」(岡野マネジャー)
劇場はビルの2階(編集部撮影)
もちろん、これはTSミュージック側からの見方だ。オーナー側の主張を聞くため、Jタウンネットは原告の代理人を務める法律事務所に取材を申し込み、担当弁護士と電話で話す機会を得たが、「依頼人の守秘義務がありますので、お話しすることはありません」と答えるばかりだった。
いずれにせよ一審の判決は2015年9月16日に言い渡され、原告のオーナーが勝訴した。
女性の裁判官には良い印象をもたれなかったと、岡野マネジャーは公判手続きを振り返る。
「『原告と被告が話し合ったという証拠はない』『被告の言い分は信用できない』といったことが判決文に書かれていました。最初から風俗ビルだったのに『品格が下がる』という記述も。こちらの言い分が一切認められなかったのは悲しいですね」
マネジャー「大衆演劇の1つとして認めてほしい」
筆者はステージを観覧した。席は8割方埋まっていて、最前列の客の1人は女性だった。
「女性も一度観劇することをお勧めします。ベテランのダンサーもいますが、彼女たちの見た目は若いです。『女性の肉体はこんなに魅力的なのか』と、同性が見てもほれぼれしますよ」
「他のセックス産業と異なり、ダンサーと観客が性的に触れ合うことはありません。あくまでも観るだけのものです」(岡野マネジャー)
公演中の様子(劇場提供)
「泣けてくるショーもあるますよ」とマネジャーは語っていたが、喜怒哀楽を全身で表現する踊り子を観ていると、いい意味で震えが起きた。
「AVの世界から流れる子もいますが、メインは普通の女性です。純粋にダンスが好きでこの世界に入ったり、演劇と踊りを半々でやっている子もいます。この仕事に就く動機は人それぞれです」
「映画監督の北野武さんは浅草のストリップ劇場出身ですが、『昔はお笑いよりストリップの方が偉かった』なんて発言したこともありますよね」
「ステージのメインとなるのは踊りの部分です。(出演者は)舞台芸人と一緒だと思っていますよ。大衆演劇、文化の1つとして認めてほしいのです」(岡野マネジャー)
受付前で取材していると、白人男性2人がチケットを求めに現れた。
巷では「2020年に東京オリンピックが開催されるのに、ストリップ劇場があるのはけしからん」という意見が挙がっている。
こうした声について岡野マネジャーは、「オリンピック期間中、劇場を閉めることは全然問題ないです」と協力を表明する。
「でも店を閉めたら、それをいいことに『もっと過激なストリップバーがこっちにあるよ』とコワモテの外国人が手引きして、ぼったくりバーに連れて行く可能性もありますよね。最近は警察も積極的に民事介入していますが、それでもトラブルは絶えません」
地元の商店街の一員でもある岡野マネジャーは、街の美化や見回り活動にも参加している。
全国の劇場と踊り子に広がる支援の輪
裁判は現在控訴中だが、被告の敗訴が確定すれば、他の場所で営業を再開するのは事実上不可能だ。それが現実化した場合、踊り子や従業員の職が失われると、岡野マネジャーは憂慮を隠さない。
劇場入口(編集部撮影)
劇場および公式サイトでは現在、裁判所に提出する署名活動を展開中だ。10月中旬の時点で約400人分が集まり、踊り子や他の劇場も協力している。
「マスコミやネットに『TS系列』『ロック座系列』と書かれたりしますが、私が経営しているのはここだけ。他所も同じようなものです。踊り子が特定の劇場をぐるぐる回っているからそう見えるのでしょう」
「埼玉の栗橋にある劇場も来年5月に閉めると聞いています。これでTSミュージックがなくなったら、踊り子の仕事も激減します。それはかわいそうです」(岡野マネジャー)
TSミュージック公式サイト