「こうじまち駅って、『麴町』と『麹町』、2つの表記が混在してるんだよね」

先輩社員が、急にこんなことを言いだした。ちょうど、その駅に降り立った直後のことである。

指差す方を見ると――「あ、本当だ」。


左下の看板は旧字体だが、右上の方は新字体になっている

そこには、旧字体の「麴」と、新字体の「麹」を使っている看板が並んでいた。

駅の構内を徹底調査してみた

東京メトロ有楽町線・麹町駅。何を隠そうJタウンネット編集部は、この駅の近くにある。記者も毎日利用しているのだが、今までまったく気づかなかった。

「麴町駅」と「麹町駅」。いったいどちらが正しいのか。

「前から気になっていたから、ちょっと調べてみてよ」

先輩に言われたから、というわけではないが、確かに気になる。

そこで、駅内の「麴町駅(旧字体)」表記と、「麹町駅(新字体)」表記の使い分け状況を調べてみることにした。

入り口などは旧字体の「麴町駅」

まずは「麴町駅(旧字体)」が使われている箇所だ。

地上出口にある看板は、いずれも旧字体の「麴町駅」となっている。


大通り沿いの1番出口
エレベーター用の出入り口も

路線図や経路案内など、他の駅と一緒に書かれている場合も、基本的には旧字体だ。



電車内の路線図。こちらも旧字体だ

また、ホームにある一番目立つ、照明付き駅名表示版も、旧字体の「麴町駅」。


やはりホームの壁面にある駅名表示も、旧字体で記されている。


ホーム側壁面の駅名表示。隣駅が併記されているものは旧字体
市ヶ谷駅の看板でも旧字体

このほか、周辺地図は基本的に旧字体。住所表示や、建物名なども含めて「麴町(旧字体)」で統一されている。構内案内や切符売り場の点字付き説明板なども、多くは旧字体だ。


地図の表記は地名含め旧字体

改札への案内も旧字体だ
切符売り場の点字付き料金案内

新字体も意外に多いぞ!

こうして見ると、「なんだ、旧字体ばかりじゃないか」と思うかもしれない。ではここで、新字体の「麹町駅」が使われている場所も見てみよう。

たとえば、改札前の柱に大書された「麹町駅(新字体)」。


はっきり新字体で書かれている

さらに、ホームでは、先ほどの旧字体看板とちょうど飛び石のような形で、大量の新字体看板が。


電灯駅名表示の隣では...
新字体の「麹町」が
ホーム側の壁面でも新字体と旧字体が交互に

改札へ誘導する天井の案内板や、柱の表示も、堂々と「麹町(新字体)」。



麹町方面改札。別の案内板では旧字体だったのに

構内案内図でも、新字体で「麹町駅」の名前が書かれている。すぐ隣のパネルが旧字体なので、余計ややこしい。


左側の案内表示では新字体だが、右側のマーク付きの駅名は旧字体
上記の構内地図のアップ

電車内の電光表示も新字体だ。


電車内にて。電光掲示板ではやはり旧字体は難しい?

またやはり車内にある、東武鉄道作成の路線図でも新字体が採用されている。


メトロ作成ではなく、直通運転を行う東武鉄道の路線図

さらにこの看板は、旧字体で「麴町駅」と書いてあったのが覆い隠され、新たに新字体で「麹町駅」。これは、「麹町駅(新字体)」こそが正統だという証拠か?


下にある文字はよく読めないが、おそらくは旧字体

こうして見ると、新字体の看板も旧字体に負けないほど目立つ。数の上では、下手をすると旧字体より多いかもしれない。

どうしてこんなことになっているのか――。

東京メトロに聞いてみた

白黒はっきりさせるべく、東京メトロに直接問い合わせてみることにした。

まずは広報担当者に、「麴町駅(旧字体)と麹町駅(新字体)、どっちが正しいんですか?」と聞いてみた。突拍子もない質問に担当者は、

「少々お待ちください......」

しばし保留音が鳴ったのち、

「路線図には旧字体で『麴町』とありますよね? そちらが正式のはずですが......」
「でも、駅の中には新字体の『麹町』と書いてある看板も結構あるんですよ。それはどうしてですか?」

「えーと......」と考え込む様子の担当者さん。再びの保留音を経て、

「調べた上でご連絡しますので、少しお待ちください......」

路線図では確かに旧字体

思った以上に面倒な話を振ってしまったようだ。

営団地下鉄時代の名残りだった!?

さらに数時間後、別の広報担当者から編集部に連絡が入った。

「まず、東京メトロとしては『麴町駅(旧字体)』があくまで正式名称です。ただ、Jタウンネットさんが『発見』していただいたとおり(苦笑)、駅内では2種類の表記が存在しています」

その理由としては、2種類あるという。

まずは「駅」ではなく、「地名」としての「こうじまち」を表記する場合。これらについては使用実態に即して、新字体の「麹町」を使っているケースがあるという。上記の写真でいうと、「麹町方面改札」の看板や、一部の案内表示などがそれに該当するようだ。


確かにこの「麹町」は駅名ではなく地名だ
「もう1つ、駅名看板に使っているものですが......。これは営団地下鉄時代(〜2004年)に設置されたものなんです。別に間違いというわけではないので、設備の更新に合わせて順次差し替えを行っているところです」

なるほど。確かに、旧字体と新字体の使い分けを見ると、比較的新しそうな看板や、メトロのロゴが入る路線図などの場合は、いずれも「麴町駅(旧字体)」となっている。

新字体の「麹町駅」は、旧営団時代の名残りだったわけである(ややこしい)。

ということで、一件落着と言いたいところなのだが――。少し歩いたところにある半蔵門駅で、ちょっと気になるものを見つけた。


半蔵門駅で撮影した地図。小学校などでは旧字体が使われているが、住所表示の部分は新字体となっている

上記のとおり、比較的最近に作られたと見られる周辺地図などでは、地名であっても「麴町(旧字体)」に表記が統一されているのだが......。この駅の周辺地図では、駅名こそ「麴町駅(旧字体)」なのだが、地名の表記がところどころ「麹町(新字体)」なのである。

地名としての「こうじまち」なので、別にいいといえばいいのだが......。ああ、ややこしい。

では、駅以外での表記は?事態が思わぬ方向に発展する第2弾はこちら。