最後の悲鳴!? 「落ちこぼれ寸前」管理職の「口ぐせ」とは

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■アドバイスは精神論だけ上司

2012年秋、広告代理店(正社員1300人)の40代半ばの部長を取材したときのこと。制作部という部署の責任者だ。クライアントから依頼を受け、その会社にふさわしいプロモーションをかける実働部隊を率いる。

部長の下には30人ほどの部員がいるが、その中に30代前半のマネージャー(課長)が5〜8人いた。マネージャーたちが、それぞれの部下である20代の社員に、「コピーを書くように」と命じる。

だが、思い描いたようにはならない。部下たちが書くコピーのレベルが低い。すると、マネージャーは「なぜ、できないのか」とたたみかける。

20代の社員がうろたえる。マネージャーは「○○君は、〜をするためにこの会社に入ったんだからね」といった言葉をかける。これが、口ぐせになっているようだ。

「吉田君は、コピーライターをするために、うちの会社に来たんだよね」
「永田さんは、学生時代に、広告をつくることに興味を持ったから、この会社に入社したんだよね」

部長は、これらは、部下を指導・育成するための言葉ではない、と断言する。むしろ、「がんばれ! なんとかしろ!」といった精神論でしかないとみる。

20代の社員はどうすればいいのかと真剣に考え、コピーをなんとか書き直す。すると、また、マネージャーたちがレベルが低いとして、「○○君は、〜をするためにこの会社に入ったんだからね」と突っ返す。

20代の社員は、終電間際まで何度も書き直す。翌日に、新たなコピーをみせる。マネージャーがそのレベルに不満を感じ、書き直しを命じる。「○○君は、〜をするためにこの会社に入ったんだよね」……。

■落ちこぼれる寸前にあえぐ口ぐせ

不毛な禅問答のようなラリーが続くと、20代の社員の中から、うつ病になったり、辞める者がひとりまた、ひとりと現れる。

部長は、こんな説明をしていた。

「マネージャーがするのは、20代の社員がなぜ、コピーを書くことができないのか、と考えること。そして、できない理由をみつけ、それをわかりやすく教えること。さらに、コピーができるところまで引き上げること」

この一連の流れがない中で、「あなたは、コピーライターをするために、うちの会社に来たんだよね」と言葉をかけたところで、20代の部下は困惑するだけなのだという。

部長は、厳しい見方をする。

「マネージャーの中には、仕事の再現性を身に付けていない者がいる。自らが20代の頃に、たまたま、そこそこのレベルのコピーを書くことができた。しかし、それは偶然でしかない。いかなる場合でも、そのレベルのコピーを書く力は身に付けていない。その意味で、プロとは言えない。20代の素人に教える域には達していない。自分自身が素人だから……」

こういうマネージャーたちは、活躍する場がしだいになくなる。20代が30代となり、その中に優秀な者がいると、追い抜かれていくようだ。

「〜君は〜だから」は、ゆきづまった上司が、落ちこぼれる寸前にあえぐ口ぐせと言えるのかもしれない。拙書『会社で落ちこぼれる人の口ぐせ 抜群に出世する人の口ぐせ』(KADOKAWA)で、そんな管理職たちを冷めたまなざしでとらえてみた。

■“引かれ者の小唄”のことわざを思い出す

4年ほど前、大手電機機器メーカー(正社員3500人)でリストラが行われた。数百人もいる営業部に、平均年収900万円を受け取る40代の社員が150人近くもいた。本人たちから聞く限りでは、給料分稼いでいるとは言い難かった。

40代の社員のうちの数人は、「不当な行為を受けている」として労働組合ユニオンに助けを求めた。この数人は、同じ40代の社員でありながらも、上層部から認められ、リストラになっていない人たちをこう批評した。

「彼は〜だから……」「あいつは〜だから……」

例えば、「彼は○○大学を卒業し、本部長の息がかかっているから……」「あの男は、関西の支社にいるときに、本部長にかわいがられていて……」。

いずれの言い分も、同世代でがんばり、生き残る社員らを称えるものではない。むしろ、けなすものだった。「あいつが会社に残ることができるのは、上の者に気に入られたから……」「ゴマをすったから……」と言わんとしているようだった。決して、自分のことを謙虚に省みる姿勢はない。

彼らはユニオンに正式に加入し、ユニオンの役員とともに、会社の人事部などと団体交渉をした。数か月に及ぶ激しい交渉の末、「解決金」と称して、数百万円(推定350〜450万円)を受け取った。そのうちの3割ほどを、ユニオンが「成功報酬」として得た。

知人から、数人は「再就職で苦労をしている」と耳にした。中堅の企業に転職したものの、そこでもわずか1年で辞めさせられた者もいるという。

「あいつは〜だから」を口ぐせにする人をみると、“引かれ者の小唄”ということわざを思い起こす。

(ジャーナリスト 吉田典史=文)