狭い部屋、おいしいとは言えない食事・・・毎日同じ時間に起きて、同じ時間に寝る。刑務所ではそんな暮らしが続くわけだが、その中でもなにか楽しいことってあるのだろうか?

 自らの犯した罪を償う場所なので、あるわけがない・・・と思いきや、富山県の刑務所では、ほんの1時間半だけ受刑者たちの楽しみとなっていることがあるらしい。それはなんとラジオ放送。富山刑務所でのみ放送されている番組があるのだ。

 1月30日、そのラジオ番組「730ナイトアワー」の300回目の放送が行われた。毎晩7時半から1時間半放送されるこの番組は、受刑者にとってささやかな楽しみとして人気となり、ここまで続いてきたのである。DJを務めるのは教戒師であり、住職でもある方丈豊さん。教戒師とは、受刑者の悩みや不安を解消するカウンセラーのような役割を担う人。受刑者からの信頼は厚い。

 番組は受刑者のリクエストによって作られている。毎回お正月や夏休みといったような、季節にちなんだテーマを設定。そのテーマに沿って、受刑者の思い出話を募集し、紹介するのだ。その思い出にちなんだリクエスト曲もオンエアする。

 300回記念の放送では、受刑者からの投稿が130通以上も集まった。通常の放送でも、100通前後集まるという。受刑者がどれだけこのラジオ放送を楽しみにしているかが、この数からうかがえる。放送は、当時アシスタントとして参加していた女性を交えて、いつもより30分早く放送はスタートした。

 「受刑者の心の内にある、温かい心を取り戻したい」という信念のもと、方丈さんはラジオ放送を300回も続けてきた。出所した受刑者には二度とこのラジオ放送を聞く機会がないよう心から祈っているという。

 厳しい刑務所での暮らしに、ひと時の安らぎの時間を与えるラジオ放送。幼少時代の思い出や、罪を犯す前の気持ちをこのラジオ放送によって思い出し、社会復帰してほしいものだ。

 方丈氏は、一人でも多くの受刑者の更生を手助けするため、まだまだラジオ放送を続けるつもりだ。(加藤克和/verb)