昨年末の12月5日に発売されたグルメガイド本『ミシュランガイド東京2015』(以下、15年版。3000円+税)が例年以上に話題だ。

星はつかないが、5000円以下の予算でコストパフォーマンスの高い食事ができる「ビブグルマン」のカテゴリーに、新しくラーメン店が加えられたからだ。今回選ばれた22店は、以下のリストのとおり。

■『ミシュランガイド東京2015』掲載店

○中華そば 青葉(中野)

○麺や維新(目黒)

○中華そば屋 伊藤(王子神谷)

○伊藤(東銀座)

○麺や金時(江古田)

○好日(東中野)

○らーめん ごっつ(練馬)

○しながわ(要町)

○ソラノイロ(麹町)

○多賀野(荏原中延)

○Japanese Soba Noodles 蔦(巣鴨)

○ラーメン屋 トイ・ボックス(三ノ輪橋)

○黄金の塩らぁ麺 ドゥエ イタリアン(市ヶ谷)

○麺処 びぎ屋(学芸大学)

○麺・酒処 ぶらり(日暮里)

○ブンブン ブラウ カフェ ウィズ ビーハイヴ(旗の台)

○金色不如帰(幡ヶ谷)

○中華蕎麦 三藤(緑ヶ丘)

○むぎとオリーブ(東銀座)

○麺 えどや(小岩)

○播磨坂 もりずみ(茗荷谷)

○らぁ麺 やまぐち(西早稲田)身近な存在のラーメンが仲間入りしたのはうれしい限りだが、しかし一方で大きな疑問が。ミシュランの審査員といえば、普段はフレンチやすしといった高級店を中心に訪れているはず。そんな彼らに、1000円前後でひとつの小宇宙を創出してくれる大衆食、ラーメンの味がわかるのか。つまり、掲載されている店は、ホントにうまいのだろうか?

そこで、自称“日本一ラーメンを食べた男”こと、おなじみのラーメン評論家、大崎裕史氏を直撃し、リストを見ての率直な感想を聞いた。

「ほぼすべてが『おいしい』と人に勧められる店ばかり。その意味では、悪くない選択だと思いますよ」

おお! では、なぜ突然、今年からラーメンも扱うようになったのだろう。

「話題づくりでしょうね。『欧米以外の都市でミシュランが出る』と大ニュースになった2007年の初刊行以後、東京版は注目度も売り上げも頭打ち傾向。それを打開しようと、多くの日本人になじみ深いラーメンを加えたのだとみます。事実、15年版は近年にないメディア露出となっている。しかも、そこで語られるのは決まってラーメンのこと。もくろみは大当たりというところでしょう。ただ…」(大崎氏)

ただ?

「選ばれている店の傾向が、極端に偏っているんです。鶏ガラなどを使った清湯系(チンタン)スープの醤油味が看板で、2000年以降にオープンした新しい店がほとんど。しかし、東京のラーメンは清湯醤油ばかりでなく、塩、味噌、豚骨、鶏白湯(パイタン)、つけ麺など多彩なスタイルがしのぎを削っているし、老舗もまだまだ健在です。

そうした状況をまったく無視した15年版のリストは、著しくバランスを欠いたセレクトだと言わざるを得ません。同じビブグルマンでも、他ジャンルに関しては専門家から同様の指摘がされることもなく、まずまず妥当な評価が下されているようなので残念な限りです」(大崎氏)

しかも、多くのラーメン評論家の間で「この店を載せるのなら、もっとほかに選ぶべきところは山ほどあるのに」と指摘される店もいくつか含まれているのだとか。天下のミシュランに、なぜこうした偏りが出てしまったのだろう。

「単純に、めぼしい店を回りきれていないのでしょう。都内には4000軒以上のラーメン店があり、しかも毎月60軒ほどの新店がオープンしているので、審査対象となるレベルの店だけでも相当の数。現在の東京版の審査員は5名だと噂されていますが、彼らが手分けをして回ろうと、他ジャンルの料理も審査しながらラーメンまでカバーするのは人員的にも時間的にも不可能です」(大崎氏)■専門家の協力を仰ぐべし!

だからこそ逆に、こんな仮説が成り立つのだという。

「ラーメンの審査を担当したのはおそらく1名で、年齢は50代以上ではないでしょうか。あるいは、その人物が掲載店の大部分を決め、残りの数店をほかの審査員が選んだという線も考えられます。なぜなら店のセレクトに一貫性があり、あっさりめの味が好きな世代の人間の好みが、如実に反映されているんです」(大崎氏)

さらに言えば、審査対象店の事前のリストアップも不十分だった可能性が高い。

「私たちラーメン専門の評論家も10年以上にわたり、毎年数人の合議制で東京ラーメンのランキング本を出していますが、ひとりが一日2、3杯、年間700杯前後のラーメンを食べています。つまり、これが選考する上での店舗数の分母。

一方、ミシュランがラーメンも審査するようになったのは今年からですから、せいぜい1年程度しか食べ歩きの期間がなかったはず。そこで付け焼き刃的な情報で回る店をあらかじめ絞り込み、数十軒食べた程度で審査した結果、あのようなリストにせざるを得なかったのでしょう」(大崎氏)

15年版への大反響に味をしめ、来年以降もラーメンが審査対象となるのはまず間違いない。そのセレクトをより正確なものにするため、今後のミシュランは東京のラーメンとどう向き合えばいいのだろう。

「年月を経るにつれ、訪問店の数は蓄積されていくわけですから、審査の精度がどんどん上がっていくのは間違いありません。ただ、それでも今のミシュランの体制で他ジャンルの料理の審査もしながら東京のラーメンシーンを毎年カバーしていくには限界があります。

そこでひとつの提案なのですが、われわれのような立場の人間に声をかけてくれれば、と思うんですよ。ラーメンの専門家が膨大なストックをもとに、バランスも考慮しながら訪れるべき店を例えば100軒リストアップし、そこを審査員が回るようにすれば、効率よく正確なジャッジを下せるじゃないですか。

必要とあらば、現在の東京ラーメンの状況についての解説もします。もちろん、そうした下準備があったことは伏せてほしいということであれば、外部には絶対に漏らしませんし」(大崎氏)

ミシュラン審査員の皆さん、“日本一ラーメンを食べた男”が匿名で協力すると言ってますよ! ぜひ検討してみてはいかがでしょうか?

■週刊プレイボーイ3・4新春特大号「『ミシュラン推奨ラーメン店』はホントにうまいのか!?」より