冷凍庫殺人事件で明らかになったもう一人の被害者

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 2012年5月、福井県九頭竜湖で冷凍庫に入った女性の遺体が発見された。愛知県一宮市の飲食店店員、森岡まどかさん(27=当時)だった。

 同年10月26日、店の常連客だった岐阜県美濃加茂市の職業不詳、林圭二被告(42=当時)と、同県富加町、トラック運転手、渡辺智由容疑者(36=当時)が死体遺棄の疑いで逮捕される。ふたりは当初「まったく知らない」などと否認していたが、ほどなくして殺人でも再逮捕される。

 しかしふたりが犯していた悪行はこれだけではなかった。森岡さん事件を認めた渡辺被告が「別の女性の遺体も捨てた」と供述したのである。これをうけて愛知、福井両県警は愛知県犬山市の山中を捜索し、人骨のようなものを発見した。DNA型鑑定により骨の主は2009年から行方不明になっていた愛知県小牧市出身の浅埜江里さん(26=当時)と判明し、林被告は浅埜さんに対する傷害致死でも逮捕、起訴された。

 渡辺被告と林被告については今後、裁判員裁判が開かれる見通しだ。これに先立ち、渡辺被告の窃盗罪と詐欺罪について、裁判官だけで審理が行われることになった。裁判員制度施行後は、こうした流れはたまにある。ひとりの被告人がAとBという全然別の事件に問われているとき、またBが裁判員裁判対象の罪ではない場合、さきにBだけウチらでやっちゃいましょう、という、ざっくり言うとそんな感じだ。

排尿はペットボトル、首には鎖…

 窃盗は、死後の浅埜さんの口座から約474万円のカネを引き出したというもの。詐欺は、林被告と共謀し、浅埜さんの知り合いの男性に対して「入院しているからカネが欲しい」と浅埜さんになりすましてメールを送り、85万円を振り込ませたというものである。

 2014年12月16日の初公判に現れた渡辺被告はダークグレーのスーツに白いシャツ。髪はちょっと伸びた坊主頭で、額がM字になっているところが、昔ヤンキーだったのでは……と想像させる。

 この日の冒頭陳述では、浅埜さんと林被告、そして渡辺被告の関係、また林被告が浅埜さんに対して行った恐ろしい虐待が検察側により明らかにされた。

検察官「被告人は林とは会社の同僚として知り合い、以後、親しい関係を持ち続けていた。2004年、林は浅埜さんと交際を始めるが『浮気をした』と責め立て暴力を振るい賠償金という名目で金を取るなどしていた。浅埜さんを風俗で働かせ、本件詐欺の被害者Aが浅埜さんに好意を抱いていると知ると、金を無心させて振り込み送金させ、自分のものにしていた。その後林は浅埜さんを部屋に閉じ込めライブチャットで金を稼がせ、暴力を振るっていた。浅埜さんの死後も林は浅埜さんになりすましAと連絡を取り続け、Aは送金を続けた」

 浅埜さんと林被告が交際を始めたのは、林被告と渡辺被告が勤めていた会社を一緒に辞めた年である。また詐欺被害者Aさんはなんと2006年以降、浅埜さんと会っていないのに金を振り込み続けたともいわれていた……。

 かつて気の合う仲間だった林・渡辺両被告。いまは自らの立場を有利にするためのコマにすぎないとばかりに、渡辺被告の弁護人は、林被告の“猟奇的”っぷりを検察官よりもアピールしまくった。

 裁判員裁判ではないが、裁判員裁判でよく弁護人がやるように、張り切って証言台の前に立ち、熱弁を振るう。

 弁護人「林さんは浅埜さんを風俗で働かせていました! 林さんはこれについて『江里は軽い女。タダで男とヤるくらいだったら風俗で稼がせた方がいい』と言っていたといいます。また気に入らないことがあると長時間浅埜さんを責め『1億払います、1兆払います』と言わせていたのを見たことがあります。説教は10時間ほど続き、林さんはすごい怒鳴り声を出し、ときにはり倒したりしていました。渡辺さんはそれに圧倒されて黙って見ているしかありませんでした……!」

 弁護人によれば、林被告による浅埜さんへの暴行はさらに酷くなっていったそうだ。部屋に閉じ込められライブチャットをさせられていた時期についてはこう語る。

弁護人「浅埜さんは林さんの許しを得ないとトイレにもいけないため、ペットボトルに排尿し、ビニール袋に排便をしていました。最後、林さんはは浅埜さんを部屋に立たせ、鎖を首に繋ぎました。寝ると鎖の長さが足りず、首が絞まるのです。こうして浅埜さんは2009年7月頃、亡くなりました」

 渡辺被告は事件には関わりたくなかったが、そんな林被告のことを恐ろしいと思っていたため、こうなってしまった……といった主張である。ちなみにこの日、噂の林被告が証人として出廷した。しかし「私の事件に関わることなので拒否します」とほとんどの証言を拒否している。

 逮捕当時の林被告の口座には約4000万円もの預金があったというが、このうちいくらが、自分で稼いだ金なのだろうか?

著者プロフィール

ライター

高橋ユキ

福岡県生まれ。2005年、女性4人の裁判傍聴グループ「霞っ子クラブ」を結成。著作『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)などを発表。近著に『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)