米ヤフー・ママCEOの在宅勤務禁止令が波紋

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昨年7月、妊娠7ヵ月で米ヤフーのCEOに就任し、9月末、激務をこなしながら第一子を出産したマリッサ・メイヤー氏。当サイトでも既報の通り、時に、仕事と育児の両立に奮闘する一般的なワーキングマザーの批判を浴びながらも、経営難の続くヤフーの改革に取り組んできた。

米国全体の株価上昇の後押しもあるが、就任後半年あまりで、同社の株価は50パーセント近くも上昇するなど、経営者としての手腕を発揮している。


そんな彼女が、先月末、社員の在宅勤務を禁止する方針を表明し、再び議論を呼び起こした。

同社では6月以降、一切の在宅勤務を認めず、出勤できない社員は解雇の対象になるというのだ。

「在宅勤務では、仕事のスピードと質が犠牲になりがちで、最善の決断やアイデアは、しばしば社内の廊下や社員食堂でのちょっとした会話から生まれることが多い」というのが、メイヤーCEOの考えのようだが、在宅勤務の是非、効率性、生産性について、大論争が続いている。

米国では、ワークスタイルの多様化に伴い、在宅勤務を選ぶ人が増加の一途。とくに、子どものいる家庭では、在宅勤務を好む傾向が顕著で、理想的なワークライフバランスを可能にするフレキシブルなワークスタイルの典型として、在宅勤務がもてはやされてきた。

それゆえ、妊娠中のCEO就任時から、メイヤーCEOを、「働くママの期待の星」、「現代女性のロールモデル」として応援してきた、ワーキングマザーたちの失望は大きく、著名人を含む多くの人々が、様々な形で非難の声を上げている。

・時代に逆行している
・億万長者のあなたはシッターを雇い放題だろうけど、私たち普通のワーキングマザーはどうしたらいいの?
・子育て家庭からワークスタイルのフレキシビリティを奪うことが何を意味するか分かってるのか?
・子どもが熱を出した時、長い夏休みで預かってくれる場所も見つからない時、ワーキングマザーにとって在宅勤務がどんなにありがたい制度か想像したこともないのでしょうね
・産休2週間で仕事復帰して、育児はeasyなんて発言した頃から、あれ?とは思ってたけど、これではっきり、彼女はワーキングマザーの敵だと分かった
・在宅勤務禁止の波が全米に広がったらどうしてくれるの?


彼女たちの懸念通り、今月に入って、家電量販大手のベスト・バイ社も在宅勤務制度の打ち切りを発表するなど、ヤフーの方針に同調する企業も出ており、子育て家庭への影響は広がりつつある。

もちろん、在宅勤務の意味を履き違えた怠慢社員も存在するのだろうし、今回のメイヤーCEOの決断は、これからのヤフーの業績次第で、「英断」として評価されることもあるのかもしれない。

ただ、先の「育児はeasy」発言といい、どうも彼女には、大変な努力と犠牲を払いながらワークライフバランスを模索する、世の多くのワーキングマザーに寄り添おうとする意識が希薄だな、というのが、筆者の正直な感想。

子育て家庭も含め、すべての社員が幸福感と満足感を持って働くための制度を整えることが、真の経営再建につながるというのは、理想論に過ぎないのだろうか―――。


恩田 和(Nagomi Onda)
全国紙記者、アメリカ大学院留学、鉄道会社広報を経て、2010年に長女を出産。国内外の出産、育児、教育分野の取材を主に手掛ける。2012年5月より南アフリカのヨハネスブルグに在住。アフリカで子育て、取材活動を満喫します!