ここ数年、プロの世界で東洋出身の選手が数多く活躍している。その一員になるべく、緒方凌介が阪神タイガースに6位指名された。走攻守揃う選手として1年次から東都リーグで活躍。4年次はケガに苦しめられたが、この壁を乗り越え、若返りを図るチームの戦力になるだろう。


胴上げ
指名を受け、部員たちから祝福を受ける緒方。


 


「ケガをしていたので、(ドラフトに)かからなくて当然だと思っていました。こんな状態なのに、見ていてくれた球団に感謝します」  


 今年の5月に右ひざのじん帯を痛めた。7月には意を決して手術をし、医師からは全治1年の申告も受けた。主将である緒方は本来なら背番号「1」を背負うはずだが、秋のベンチにはその姿がなかった。そんな中、毎日のケアとリハビリを繰り返し、1日も早い復帰を目指した。全力で走れないながらも、2カード目の青山学院戦の2戦目に代打で出場。医師も驚く回復を見せた。「主将なのにグラウンドを離れてしまった。不甲斐ない」と低迷するチームを外から見ることしかできず、1日でも早くグラウンドに戻りたい強い気持ちが後押しする。現在は、「1月には完治する」とまで言われ、プロの舞台に間に合った。



戦列復帰後、膝は万全の状態でないながらも、闘志あふれるプレーでチームを牽引している


 


「両親が阪神ファンという影響もあり、幼い時から見てきました。正直言えば、一番行きたかった球団です」  


 地元・大阪、再びその地でプロの世界に飛び込む。何度も観戦をしに、甲子園球場へ通った。憧れたのは、新庄剛志。「パフォーマンスが格好良い。僕はあんなに明るくはできないですが、子どもに夢を与えられる選手になりたい」。かつて新庄が守ったセンターのポジションを狙いにいく。  


 また、プロの世界が夢から目標に変わったのは、大学に入学してからである。緒方が入学して以降、東洋はオリックス・小島脩平、日本ハム・乾真大、西武・林崎遼、ロッテの藤岡貴裕と鈴木大地の5人の選手をプロへ輩出してきた。先輩がプロの世界に進む姿を間近で見ることで、自然と目指すべきところになっていた。特に鈴木大地の存在は大きい。「大地さんは人としても、プレーに対する姿勢や取り組みに関しても尊敬しています。プロでの活躍を見て嬉しいですし、励みになりました」と話す。結果が残せない日々が続き、可能性が低くなっていることは実感していた。しかし、そういった選手とともにプレーをしてきたことが大きな自信にもなった。  


 一番対戦したい選手に、PL学園の先輩でもある広島の前田健太を挙げた。「紅白戦などで対戦したことはありますが、1年の時の3年生なので手加減されていたと思います。全力での対戦が楽しみです」と、球界を代表する投手になった先輩との対戦に目を輝かせている。


鈴木大地らと緒方
2011年、全日本大学野球選手権を鈴木大地主将(正面)、藤岡貴裕(左上)らと連覇


 


「完璧なのは、2年の全日本の先制タイムリー。4年春の日大戦の同点打が主将として仕事ができた唯一の一打です」  


 4年次は1年間、ケガに悩んだ。思うようなプレーができず、もどかしい日々を送っていた。春の入替戦回避を決めた日大3回戦。先制を許したが、同点タイムリーを放ち、反撃の口火を切った。「今年は本当にチームに迷惑をかけました。その分、思い出に残っている一打」と話す。  


 また、緒方自身が完璧な一打とするのが、2年次の全日本選手権決勝、東海大・菅野から放った先制タイムリーだ。全日本選手権の優勝後に「簡単に打てました。東都で打つ方が難しいです」と話していたのが、印象的で頭に残っている。高橋監督も入学当時から認める打撃センスを兼ね備え、期待された選手が付ける背番号「5」を1年次から背負ってきた。勝利に繋がる打撃を幾度となく見せ、昨年からは打線の中軸に座っている。「これまで3番を打つことが多かったので、プロでも3番を打てるような選手になりたい」と、戦国東都で磨かれた好打者はプロでも花を咲かすだろう。


2年時の全日本選手権
20011年、全日本大学選手権で東海大・菅野智之から先制タイムリー


 


「今は入替戦が第一」  


 指名が終わり、ホッとした表情を見せた緒方であったが、心残りは11月3日に迫った入替戦のことだ。最後のリーグ戦の結果は、勝ち点0で最下位。8年ぶりの入替戦行きとなってしまった。  


 しかし、主将が戻ってきたチームの雰囲気は、次第に変わっていった。まだ守備にはつけない状態の緒方が、守備に向かうチームメートにグラブを渡しながら声を掛ける。打席に向かう選手にアドバイスを送り、背中を押す姿をよく目にした。高橋監督も「このチームは緒方のチーム。明るくなったよ」と言うように、チームに欠かさない存在だ。  


 大学1年の春に神宮デビューをして以来、チームの中心選手としての活躍を見せてきた。東都春季リーグ戦5連覇や全日本選手権連覇を達成した東洋を支えた1人である。そんな緒方が今年の春、「鈴木大地に並ぶ素晴らしい人格。好青年」と高橋監督に評価され、主将に就任した。これまでの野球人生の中で、初めての主将というポジションに、不安を感じた。昨年、主将を務めた鈴木大地にアドバイスを求めることもあった。「俺は俺。緒方は緒方らしいキャプテンでいいんだよ」と言われ、自分らしい主将を模索した。次第に責任が生まれ、これまで自由奔放に野球をしていたことに気付いた。「自分にも人の前に立って、リーダーシップを発揮する道があることを知りました。充実して、やりがいを感じました。新しい野球の発見です。監督に感謝します」と笑顔で語った。その一方、引き締まった表情で、「主将として最後の仕事をしないといけないですね。監督への恩返しもしなきゃいけない。1部の意地を見せて勝ちたい」と負けられない戦いに目を向けていた。


優勝パレード
常勝・東洋の主軸として数々の栄冠に貢献した緒方。 学生野球最後となる1部2部入替戦は絶対に負けられない。 


 次の活躍の場は甲子園球場。幼いときに友人と通った球場であり、PL学園時代、夢に見た球場でもある。その地でプレーする緒方が見られるもの時間の問題だ。「活躍する自信はある」。そう話す緒方の顔は自信に満ちた表情だった。一巡目でも六巡目でも関係ない。同じスタートラインだ。自分の力を信じてレギュラーの座を取りにいく。


 「3番、センター・緒方凌介」――甲子園にアナウンスが響く。そんな日が来ることが楽しみでしょうがない。