日本ハムが花巻東の大谷翔平の強行指名を決断したという。大谷本人にとっては非常に深刻な事態でもある。プロ野球の日米関係に一石を投じることにもなろう。

大谷翔平は一昨日、MLBに挑戦することを記者会見で語った。テキサス・レンジャーズは自社のホームページで大谷を紹介。ニューヨーク・ヤンキースも含め多くの球団が注目をしているといわれる。

しかしながら、MLBはこの時点で大谷と入団交渉はできない。過去にプロ経験がなく、日本国籍を持ち、日本の中学、高校に在籍した選手は、NPBの球団がドラフト会議で指名できる権利を持つ。
選手への交渉権は、ドラフトで指名した球団だけが保有している。交渉の有効期限は翌年3月31日までとされている。もし、日本ハムが明日のドラフト会議で大谷翔平を指名すれば、MLB各球団は来年の4月1日まで大谷に近づくことができない。

NPBのドラフト会議で指名されなければ、年内にもMLBの移籍球団が決定し、(おそらくはマイナーの)スプリングトレーニングに参加することができただろう。しかし、日本ハムが指名すれば、交渉は来季開幕後に持ち越すことになる。
MLBでは6月のアマチュアドラフトで新人選手を獲得するが、大谷の入団はほぼ彼らと同じスケジュールとなり、マイナーリーグへの本格参戦は翌年に持ち越されるだろう。

修正)さぶちゃんさんのご指摘にある通り、読売新聞の報道によると、
「新人選手選択会議規約では、選手を指名した球団は、翌年3月末まで独占交渉権を持つと定めている。しかし、この規約は日本のプロ野球12球団のみを対象としており、アマチュア選手に対する大リーグ球団の交渉や選手契約を制限するものではない」
とある。これによれば、日本ハムが権利を保有する期間中も、MLB側は大谷と接触できることになる。しかし、これが大きな混乱を招くことは想像に難くない。
また日本ハムが交渉権を放棄するまでにMLB側が大谷と契約を結ぶことは実質的には、困難だと思われる。
初めてのケースだけに対応が注目される。


背景には、大谷のMLB移籍を承服しない両親や、花巻東高校関係者などが、日本ハムと連絡を取り合った可能性もある。「指名してくれたら説得します」というような話があったかも知れない。
万が一、日本ハムの説得に折れて、大谷がMLBへの入団を断念し、NPB入りを決意した場合は、新人獲得を巡る日米関係に、深刻な影響を与えるだろう。

大谷本人には気の毒だが、日本ハムのこの決断は、ある意味で有意義だと思っている。社会人の田澤純一に加えて高校生までもが、NPBを飛び越してMLBに挑戦するという事態は、NPBの将来を考えるうえで深刻だ。

NPBの加藤良三コミッショナーは、「個人の意思が尊重されるべきだ」と例によって、近所のおっさんでも言えそうな言葉を発しただけだ。



NPBは、2008年の田澤純一のMLB移籍に際して、ドラフト指名を拒否した選手が外国のプロチームでプレーしてから日本に戻ってきた場合は一定期間(契約終了から高校生の場合2年)、NPBの球団と契約できないことを申し合わせている。昨日、NPB側は大谷の今回のケースもこれに当たることを確認した。

これは、抑止力というより「村八分」的な裁定である。両親や周囲の関係者が危惧するのもこの申し合わせがあるからだ。
ただし2年のブランクを過ごす方策が見つかれば、18歳で海を渡った選手は23歳でNPBに入団できることにはなる。高校生にとって十分な抑止力となるかどうかはわからない。
この申し合わせは、熟考の果てに決まったとは思えない。とりあえずの応急処置的で生硬な印象が強い。

加藤コミッショナーは、このルールの改正に関して聞かれて
「提起されれば討議されると思うが、基本的には日本の野球の魅力を高めることが大事。将来に向かって魅力を高めるには12球団が英知を出すべきだ」と、当事者とは思えない気楽な一般論を述べた。
要するにコミッショナー事務局は例によって「何もしません」と言っているのである。

日本ハムは、昨年の菅野智也の強行指名に続いて、義侠心を発揮しようとしているように思える。奇特なことではある。山田正雄GMは、無名の選手上がりだがGMとして手腕を発揮してきた。気骨のある人物なのだ。1球団でも声を上げなければ、事態はずるずると進展してしまう、という強い危機感も感じられる。
そのために貴重なドラフト1位の指名権を使うのか、という疑問は残るにしても、「何もせず事態を見守る」腑抜けたNPBの姿勢に活を入れようとしているようにも思える。



NPBとMLBの板挟みになる大谷本人は苦しむことになるだろう。しかし、それは日米の野球史の大きな転機にたまたま居合わせた選手の宿命だともいえる。
ただ、日本ハムは、親や学校関係者を巻き込んだ泥仕合を演じてほしくない。だれの得にもならないし、球団のイメージダウンにつながるからだ。本人に翻意の意思がないと確認できた段階で、日本ハムは交渉権を放棄してほしい。
そして、並行して、NPB、MLBに対して新人獲得に関する包括的な話し合いの場を設けるように提議してほしい。そこで、徹底的に話し合ってほしい。

当事者として、NPB機構は情けないほどに無能である。一球団が自らの権利を放棄してまで問題提起をしなければならないのは異常事態だが、そこに一条の希望の光を見出してしまうのも事実だ。