国益優先で日本政府が性犯罪を隠蔽か【文春vs新潮 vol.53】

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[文春]「米兵レイプ犯を逮捕させない日本政府」



ひどい話である。ところは「神奈川県内のショットバー」。時は7月21日の未明。酒を飲んで酔っ払った米兵を、店にいた日本人女性が家に送り届けようとした。ところが、米兵は「帰路途中」に「女性の腹部を何度も殴打」した上、家に連れ込んで女性を強姦した。



女性は、米兵が寝た隙に逃げ、同じ日の「午前5時ごろに憲兵隊に行っ」た。その後、神奈川県警の大和警察署でDNA検査を受け、現場検証に立ち会い、事情聴取をされた。そして、「これまでに5回以上は警察に呼ばれて、毎回同じ話をしてい」るにもかかわらず、警察は「全然告訴状にサインをさせてくれない」のだと言う。



つまり、米兵が女性を強姦したことは確定的な事実であり、女性はその米兵を告訴したがっているのに、なぜか警察は告訴に前向きではない、という話なのである。神奈川県警の捜査関係者が、以下のようにその理由を語っている。



「署の幹部が逮捕状を請求しようとしたところ、司法当局から待ったがかか」り、その「待った」の理由は「オスプレイ配備の問題もあるため、米軍関連で波風が立つのは好ましくない」というもの。松田優作ではないが、「なんじゃこりゃー!」と叫びたくなる理不尽な理由ではないか。



要するに司法当局は、「日本人女性を強姦した米兵を罰すること」と「オスプレイ配備による日本人の反米感情が、強姦事件の発覚によってさらに強まること」を天秤にかけ、後者に重きをおいた措置を取っていると言うことだ。



日米地位協定では、米兵が日本の法令を尊重することを規定しているものの、実際はザル法に近いものがあり、犯人の米兵が米軍の基地に入ってしまえば、日本の警察は身動きがとれないのが実態だと言える。文春にコメントしている弁護士によれば、「現行犯逮捕でない場合、立件することすら難しく、もみ消される可能性もあ」るとのこと。




事件発生から20日以上が経過している。だが、いまだに警察は被害女性の「告訴すら受理していない」。文春がこのスクープ記事を掲載しなければ、事件そのものがなかったことにされてしまったかもしれない。どうなってるのよ、司法当局?


[文春]「イジメのない世界」



中村うさぎ氏が連載コラム『さすらいの女王』で、いじめについてたいへん真っ当なことを言っている。筆者もほぼ同じ考えなので、以下の中村氏の意見はできるだけ多くの読者に読んでもらいたいと思う。「イジメのない完璧な場所など人間は作れないのではないか」という前提で、中村氏はこう述べている。少し長くなるが引用しよう。



「たとえばイジメだけではなく差別や不平等のない社会を目指すのはいいことだよ。そういう理念なくして社会は成り立たないからね。

 ただ、差別や不平等は、どんなに努力しても残るだろう。何故ならそれは人間にへばりついた頑固な錆のようなもので、どんなにゴシゴシこすっても完全には取り除けないし、もしも無理矢理取り除いたら人間に穴が空いてしまうかもしれないんだ。

 人間は他者との比較で己を規定せずにはいられない存在で、完璧な平等なんか本当は望んでないんだと思う。複数の人間が寄ればどうしてもそこに力関係が生まれ、その力関係こそがアイデンティティの基礎となるし、そもそも他者より少しでも優越したいという欲望が人間の文明をここまで推し進めてきたんじゃないか」



こうした側面が人間にあることを、「知っておいたほうがいい」と中村氏は言う。「いじめや差別、不平等のない社会を築こう」という理想や理念は、「いじめや差別、不平等のない社会などありえない」という諦念を含んだ上で抱くべきだ、ということである。



[その他]「夏祭りからテキヤが消える」



ノンフィクション作家の溝口敦氏が週刊新潮で、全国の暴力団排除条例によって、テキヤが壊滅の危機にあることをレポートしている。暴力団でもないのに、同条例によって排除されている。そんな実状をテキヤの側の視点から眺めた興味深い記事である。



さて、今週の軍配は文春に。



【これまでの取り組み結果】

文春:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ ☆☆☆☆☆

新潮:☆☆☆☆☆☆☆☆☆





(谷川 茂)