「野球の記録で話したい」でお馴染み、広尾晃さんに伺った"野球の記録の楽しみ方"。今回は打者の入門編です

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野球の記録で話したい」でおなじみのブロガー、広尾晃さんに、「野球の記録」で楽しむ方法をお聞きしました。

野球というのは、数字のスポーツです。アメリカンスポーツは大体その傾向があり、さまざまなプレーを数値化して評価します。

ヨーロッパ系のスポーツ、例えばサッカーなどは、STATS(記録)といってもゴールとアシスト、シュート、出場時間くらいしかありません。フォワードやゴールキーパーはともかく、ディフェンダーやミッドフィルダーの働きは、数字ではほとんど分からず、実際に観戦して、試合の中での動きを評価しなければなりません。

もちろん、それがサッカーというスポーツの魅力でもあります。サッカーは評論がすごく盛んなのも、数字では語りきれないからでしょう。

それに比べると野球は、試合であればボックススコアを見れば、大体のことはわかります。先発投手が調子が良かったのか悪かったのかは、被安打や与四球、奪三振を見ればわかります。活躍した打者も一目瞭然です。

そして、野球というスポーツは、一人一人の選手の戦績が積みあがって、年度別の分厚い表になります。これがキャリアSTATSです。

私はこれが大好きなんですね!

■長嶋茂雄のキャリアSTATS 



ベースボールジャーナルの横幅は狭いので、縦にしてみました。読みにくくてすいません。一見すると数字の羅列のように見えるかもしれませんが、このキャリアSTATSには、実にいろいろな情報が含まれているのです。

■数字を読み込んでいく

まずG 出場試合。

長嶋茂雄は1年目から130試合に出場しています。これはエリートの数字ですね。たたき上げの苦労人の場合、この数字は最初、数試合から始まったりします。100試合以上がずらっと17年間ならんでいる。見事なエリートの数字です。これが増えたり減ったりするのは、実力が無かったり、ライバルがいたりするから。Gという数字だけでもドラマがあります。

ABは打数ですが、その前にPAという数字がある。これは単純に打席に立った数。PAが多い選手は上位打線を打っていたということですね。

ABは、打数。PAから四死球や犠打犠飛、妨害出塁などを抜いた数。この数字が打率や長打率の基準となります。

Rは、得点。この数字、日本では重要視されていませんが、打点とともに大事な数字です。得点が多い選手はヒットを多く打つか、選球眼が良いか、足が速いか、いずれにしても優秀です。その上チームが強くないと得点は伸びない。長嶋は毎年90得点以上を上げています。これは強いチームの主力選手だからですね。

でもリーグトップに立っていないのは、もちろん王貞治がいたからです。得点と打点を比較するのも良いですね。打点よりも得点が目立って少ない選手には、一発屋が多い。貢献度は高くないですね。

H、安打、2B、二塁打、3B、三塁打、HR、本塁打。

この数字はまとめて見るべきでしょう。2BがHRよりも多い選手は中距離打者。同じくらいだとスラッガー、3Bが多いのは俊足打者ですね。2Bが多い選手は、ライナーのいい当たりを打てる選手ともいえるでしょう。長嶋は若い頃は2Bが非常に多い選手でしたが、次第に減っていきます。ここにベテランになって打撃が変質するのを見ることが出来ます。

HRは、言うまでもないことですが長打の指標ですね。

そしてRBI、打点。
セイバーメトリクスが普及してから、打点はあまり意味がない指標だと言われるようになりました。RBIを加工してデータを導き出すことはほとんどありません。打点は運不運に左右されることが多いからです。

でも、打点は投手の「勝利」チャンスで活躍した選手への「ごほうび」と考えればいいと思います。隠れていますが、この間にTB、塁打があります。安打=1、二塁打=2、三塁打=3、本塁打=4としてそれを合計した数字です。塁打は様々なデータをはじき出すうえでの基本となります。

SB、盗塁とCS、盗塁死。
この二つも対で考えるべきでしょう。足が速いということと盗塁技術は別物です。二けた以上盗塁して、盗塁死が少ない選手は技術があるということです。足の速さは三塁打と、盗塁を参照して見ています。

BB、四球とSO、三振。
この数字は、近年非常に重要視されるようになりました。三振が少なくて四球が多い選手は、評価が高い。強打者は敬遠や、敬遠気味の投球が多くなるので、当然、四球は増えますが、振り回すので三振も増えがちです。長嶋の場合、四球の方が三振よりも多い。これはすごいことです。

最近は、投手が変化球をたくさん投げるので、奪三振数が急増しています。今、NPBで四球の方が三振より多い選手はほとんどいません。数字から野球の変質も見ることが出来ます。

■さまざまな加工データについても語る

ここまでが、野球の生の記録です(TBをのぞく)。この記録を加工して様々なデータを作るわけです。実際にはこの間にHBP、死球、SH、犠打、SF、犠飛、GDP、併殺、IBB、敬遠という数値が挟まっています。

AVG、打率はおなじみですね。やっぱりこの数字は大事です。打率が高い打者は確実性が高いと言えるのではないでしょうか。

OBP、出塁率。これは四球と安打による出塁の%。今、重要視されている指標です。SLG、長打率。塁打を打数で割ったものですね。長打力の指数だと思われがちですが、打率が高くてもSLGは上がるので、純粋な長打の数値ではありません。

で、SLGとOBPを足したのがOPS。ここからはセイバーメトリクス。単純な数字ですが、選手の実力を示す値として評価が高い。.900を越えればすごい打者ですね。打点と走塁以外の数字が反映されています。

そしてRC(Run Create)、これ、複雑な計算式なのですが、安打、四死球、三振、盗塁、盗塁死、犠打、犠飛などの指標をすべて盛り込んでいます。総合評価ですね。

比較していただきたいのはRBI、打点。打点は運に左右されますが、RCは実力の積み上げです。RBIよりRCが多い選手は一般的な評価よりも実力が高いということになると思います。RBIは100を超えると大したものだと言われます。短距離打者の代表のようなイチローはMLBで2009年まで9年連続で100を超えていました。偉大だと思います。

RC27は、RC100を加工した数字。その打者が一人で27回(1試合分)打席に立ったとしてどれだけ得点するかという数字。RC100は積み上げですから、打席数が多いと増えていきます。RC27は出場試合が少なくても生産性が高ければ良い数字になります。併用すべき数字です。7を越えれば優秀と言えるでしょう。

そして私はIsoDを最後に入れています。これはOBP、出塁率からAVG,打率を引いたもの。純粋に四球で出塁した率。選球眼の値ですね。

こういう感じで数字を見て行くわけです。長嶋茂雄のキャリアSTATSは素晴らしいのですが、こういう大選手の数字だけでなく、控え選手や苦労した選手のキャリアSTATSも素晴らしい。こういう選手のSTATSも載せておきます。



この渡会純男という選手は、野村克也の控え捕手でしたが、キャリア後半はブルペンキャッチャーが本職のようになって、いわゆる偵察メンバーで名前だけ出場するようになった。彼の番が回ってくると代打が出るわけです。そんな不思議な野球人生も、数字に表れてくる。これも味わい深いなあと。

記録の事なら、いくらでも話すことが出来るのですが、今日はここまでにしましょう。次は投手のSTATSに話させてください。