複合的な要因で日本の名だたるメーカーが苦戦を強いられるなか、もっともヤバイと噂される企業がある。
 「東芝ですよ。『原子力』を経営の柱の一つと位置づけ、福島第一原発の原子炉も手がけていましたからね。今までのように“原発販売”を続けることは困難で、今後の経営方針を見直さざるを得ないほど追い込まれています」(経済誌記者)

 これに加えて、その後の急激な円高が東芝の業績悪化に拍車をかけており、同社の行く末を心配する声も囁かれ始めたという。
 「東芝が1月31日に発表した2011年度第3四半期連結決算によると、同期の為替換算レートは79円で、為替差損益はマイナス239億円。為替換算レートが87円だった前期(マイナス82億円)と比較しても、157億円もマイナス幅が広がっている。売上も前期比3157億円の減少となっており、このマイナスは無視できない」(同)

 こうした円高の影響を少しでも減らすべく、今年1月、一部の取引先を対象に、東芝の“支払い条件”の変更が密かに行われていた。
 「東芝は、日本国内の複数の取引先を相手に昨年11月ごろから『支払いをドルにさせてほしい』との交渉を進め、実行に移しています。内部に滞留している大量のドルを円に替えてから支払うと損が発生するため、そのままドルでの支払いを実行したいというわけです」(関連企業関係者)
 これをやられると、円高による不利益はすべて下請けが被ることになる。さらに、ほかの大手メーカーもこの動きに追随するようになれば、中小企業はさらなるダメージを受けるだろう。

 こうした“下請けイジメ”の増加に対して、公正取引委員会も近年、下請法違反に目を光らせている。最近では1月末に紳士服販売のはるやま商事が、「下請事業者に責任がないのに支払うべき代金の額を減じていた」として勧告を受けたばかり。東芝のドル払いも、今後は勧告の対象になる可能性がありそうだ。
 「さすが東芝、そのあたりも計算済みです。資本金3億円未満の企業は下請法違反に問われる可能性があるため、交渉相手はいずれも“下請け”と認定されない程度の大手のみを選んでいる」(前出・経済誌記者)

 とはいえ、東芝の打った策は“グレーゾーンの禁じ手”とも呼べるもので、為替水準が再び1ドル70円台の超円高に突入すれば批判が噴出することだろう。