移籍金ゼロでの選手放出は、クラブ経営という観念から考えた場合、あまり誉められた話ではない。
「まあ、移籍金ゼロで獲得した選手だからいいか」という考え方もあるだろうし、移籍金がゼロだからこそ、移籍が活発になり、選手はチャンスに恵まれるのも確かだ。
 それでも、海外移籍に限った場合、移籍金ゼロは選手に恩恵ばかりを生みだしているとは限らないのではないだろうか?
 トップチームのベンチに座り出場機会がわずかだった槙野は、リザーブチームの試合に出場する機会もなかった。試合スケジュールの問題もあっただろうが、もしも移籍金を支払って獲得していた選手であれば、ベンチに座らせているよりも、試合経験をつみ、他チームのスカウトの目に止まる可能性もあるリザーブチームでの活動を優先していたかもしれない。
 支払った元手以上の額で売ることを欧州のクラブは考えている。そのため、無料で獲得した選手よりも、移籍金を支払った選手へより多くのチャンスを与えたいと考えるフロントもいるはずだ。

 移籍金ゼロは、海外挑戦のドアを大きく開いてはくれる。
 しかし、移籍後、「あいつは無料なんだろう」という見下した目で見るチームメイトもいるだろう。「使い捨てでもいいんじゃないか」と考える人たちもいるだろう。移籍金ゼロは自らの評価を下げる結果になりかねないのだ。
 そういう状況で「自分は最安値ではない、力を持っている」とチーム内外に証明し、契約の延長、もしくは二つ目のクラブへ移籍して、初めて欧州マーケットの評価を得ることになる。ドアの向こうには立ちはだかる壁は、移籍金ゼロだからこそより険しくなる場合もあるように感じる。