大阪市浪速区で起きた放火殺人事件では15名の尊い命が奪われたが、その悲劇の舞台となったのは雑居ビルに入る個室ビデオ店だ。「歌舞伎町のビル火災の教訓は活かされなかったのか」といった議論とともに、こうしたネットカフェなどの業務形態の店舗についても注目が集まっている。

そうした中、あの知事がまたしても過激な発言を行った。


東京都の石原慎太郎都知事は3日の定例会見の中で、「1500円というお金を払って(ネットカフェに)宿泊して(おきながら)、『おれは大変だ』『助けてくれっていうのもね…」とネットカフェ難民を批判し、そうした実態を報道するメディアの姿勢についても疑問を呈した。

知事の発言は次のようなものだ。(映像は東京都ホームページにて配信

「あれだって、1500円でしょ。主に使ってる人は帰りそこなったサラリーマンだ。ただ、カフェ難民、難民って言うけれども、あなた山谷のドヤに行ってごらんなさいよ。200円、300円で泊まれる宿はいっぱいあるんだよ。そこに行かずにだな、何か知らんけれども、ファッションみたいな形でね、1500円っていうお金を払ってね、そこへ泊まって、『おれは大変だ、大変だ』と、『孤立している、助けてくれ』って言うのもね、ちょっと私はね、人によって違うでしょうけれどね、そういうのがカフェ難民なるものの実態とはとらえ難いね。
例えばね、都庁にやってくる途中、ホームレスがいますよ。あそこの公園(=新宿中央公園か)にも。その人たちがどうかしらないけど…ホームレスに近い人たちがあちこちからアルミの空き缶を拾ってきてパックして、活計(たつき)を立っている。聞いてみたら60個で100円だ。彼らは一生懸命働いてるわけだよね。それをしてるかしてないかは知らないけど、1500円という大金を払って泊まって、『俺は大変だ大変だ』っていうのはね、何かちょっとやっぱり風俗に対するメディアのとらえ方もおかしいんじゃないですか。
聞いてみるとやっぱりね、簡易宿泊所として使われているらしいけれども、何かそこにいる人間たちがね、格差、差別の中で発生してきた犠牲者という一方的なとらえ方は…中にはそういう人がいるかもしれません。ただ、やっぱり1500円の宿泊料を払えるんだったら、もっと安い泊まり宿がいっぱいあるよ、東京は。…ということをご認識願いたいね。」

石原知事は明言こそしなかったものの、「ネットカフェ難民はヌルい」「努力をしていない」といった趣旨が発言に含まれていることは明らかだ。そうした意識が「ファッション」という言葉に垣間見える。

これに対して、生活困窮者の再出発をサポートするNPO法人「自立サポートセンター もやい」は6日、石原知事に対して抗議し、公開質問状を送った。その中でNPO法人「もやい」は、例え山谷地域でも一泊1000円以下の簡易旅館は皆無に近く、また多くの人々は宿泊費の金額だけでなく交通費も考えて、求職活動のしやすい地域で寝泊りをしていると指摘している。

これが事実だとすれば、石原知事はその立場にあるまじき認識の欠如を露呈してしまったことになる。フリーター、ホームレスなどの対策を行う東京都政の最高責任者としての自覚と資質を問われることになるだろう。

一方、知事の発言が事実ならば、知事の発言の真意である「もっと自助努力をしろ」というメッセージも理解できなくはない。確かに一泊1500円というのは大きな負担だ。では実際のところ、山谷とはどのような地域なのか。

東京・台東区と荒川区にまたがる日雇い労働者の町、山谷(さんや)。今はその「山谷」という地名はないが、現在も簡易宿泊所が多く立地し、全国最大の大阪・あいりん地区に次ぐ規模の「ドヤ街」である。

「ドヤ街」というと、やはり「汚い」「治安が悪い」という先入観を持たれがちで、そうしたことから、多少宿泊費が安くても敬遠してしまうという人も多いだろう。しかし、実情はどうなのか。

実際に山谷に宿泊した経験がある人に話を聞くと、「山谷は高齢化が進んでいる。暴力沙汰は聞いたことがなく、治安が悪いという印象は全くない。強いて言えば置き引きに注意するくらい。」とのことだった。また、浅草や秋葉原に近いという地理的条件の良さから、最近は外国人観光客の利用が急速に増えているという。地方から出てきて就職活動をする学生も多く利用している。

山谷の治安が悪いというのは今や誤った先入観となっているようだ。確かに、窃盗などの犯罪はネットカフェでも同様に起こりうることだ。では、石原知事の発言にもあった宿泊費は、実際のところどうなのか。

東京都簡易宿泊業生活衛生同業組合は「東京の安い宿」という宿泊所検索サイトを運営しているが、その中で調べても、一番安い所が1000円台で、わずか4件しか該当しない。もちろん山谷の街を歩いて探せばもっと安いところもあるのかもしれないが、東京都簡易宿泊業生活衛生同業組合に加盟している宿泊所でこれしかないのだから、都知事の「200円、300円で泊まれる宿はいっぱいある」という発言は不適当と言えよう。

「ホームレスが空き缶を集めて…」という美談で終わっていれば良かった。しかし、例によって石原節が炸裂し、生活困窮者の支援団体から公開質問状を突き付けられるに至ってしまった。石原知事がどのような意図で「ファション」発言をしたのかはご本人のみぞ知るところだが、少なくとも、働く場を求めて苦闘する「ネットカフェ難民」にとってその発言はエールとなるどころか神経を逆なでするものとなっているし、具体的な根拠に基づかない「200円」発言は、公人の発言として不適切以外の何者でもない。

(編集部 鈴木亮介)

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