線路への「飛び込み」は、多くの人に損害をもたらす(写真はイメージ)

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   都市圏では「人身事故」が原因で電車がストップし、復旧に時間がかかって通勤通学に支障が出ることも少なくない。その原因が「飛び込み自殺」であることも多い。遺族に大きな傷が残るのはもちろんだが、人身事故で鉄道会社が受ける損害も少なくない。そこで、「遺族は、鉄道会社から1億円の損害賠償を請求される」という都市伝説のような話もささやかれるが、実際のところは、どうなのだろうか。

車両修理費、振り替え輸送費用、運賃を払い戻した分など

   警察庁がまとめた統計によると、2007年の自殺者は3万3093人で、06年度に比べて938人(2.9%)増加している。自殺の方法は数多いが、とりわけ多くの人々に損害を与えるのが、飛び込み自殺だ。

   ここ1か月ほどを見てみただけでも、08年8月8日早朝には、JR山手線池袋駅(外回り)で、線路に立ち入った女性が始発電車に引かれて即死。山手線は全線で運転を見合わせ、内回りは約30分後に運転を再開したが、外回りは復旧作業に時間がかかり、運転再開は事故から4時間20分後だった。ラッシュの時間帯と重なったこともあり、約10万5000人が影響を受けた。

   7月8日には、JR東海道新幹線米原駅で、男性がホームから降りて通過線路に侵入、新幹線にはねられて死亡した。東京-新大阪間が2時間10分にわたってストップし、終日続いたダイヤ乱れの分もあわせると、約8万5000人の足が乱れた。

   このような事故では、足止めを受ける利用者が第一の被害者なのはもちろんだが、鉄道会社も被害者だという一面があるのも確かだ。費用面だけを具体的に考えてみただけでも、復旧のために臨時に動員した人員の人件費や車両の修理費、他社への振り替え輸送にかかった費用、乗客に運賃を払い戻した分、などが容易に想像できる。

   現役の私鉄社員が執筆したという「鉄道噂の真相―現役鉄道員が明かす鉄道のタブー」(彩図社)では、遺体処理の具体的な手順などが詳細に記述されているが、鉄道会社が受けると思われる損害についても、具体的な試算が掲載されている。試算では、踏切での事故で、周辺10駅から駅員を動員し、乗客1万人に影響があった場合を想定。それによると、(1)1駅あたりの人件費を5万円として50万円(2)4000人が振替輸送を利用し、平均500円だとして200万円(3)電車が脱線し、車両や線路が損傷したとして1億400万円と、鉄道会社は1億650万円の損害を受ける、という計算だ。

実際の請求額は、高くても100万円?

   これらの損害額が「鉄道会社から自殺者の遺族に請求される」という話もあり、中には「1億円が、突然遺族に請求される」という都市伝説のような話もささやかれている。実際はどうなのだろうか。

   各社に聞いてみたが、

「ご遺族もおられることですし、(損害賠償を求めるかなど)どんな方針をとっているかを含めて、外部に公開はしておりません」(JR東日本)
「どんな損害があるかを含めて、公表しておりません」(東武鉄道)

と、一様に口が堅い。

   ただ、重い口を若干開いたのが、京浜急行電鉄だ。

「詳しい内訳は公表していないのですが、損害額自体で1件あたり200万円ぐらいです。車両も、そんなに大きく壊れる訳ではありません。基本的に損害賠償は求めていく、という方針なのですが、実際の請求額は、高くても100万円いきません」(広報宣伝担当)

と、ここで言う「損害」には、振替輸送のコストは含まれていない様子。

   この話からすると、「損害賠償1億円」というのは限りなく「ガセネタ」に近いと言えそうだ。だが、飛び込み自殺が利用者や鉄道会社に多大な損害を与えることには変わりはない。

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