IT全盛時代の今日でも、新聞、本、雑誌、プリンターやファックスの印刷物など、未だに紙を利用する場面は多い。紙はパルプに代表される植物繊維から作られるため、紙の無駄遣いは森林資源の浪費となり地球温暖化の原因のひとつにもあげられている。

紙を浪費しない対策としては紙媒体の電子化が期待されているが、閲覧にパソコン必要だったり、紙のように手軽に持ち歩けないなどの理由により、一般家庭への普及には至っていない。

こうした状況の中で注目を浴びているハイテク技術が、紙のように薄くて曲げられるディスプレイ「電子ペーパー」だ。電子ペーパーは、それ自身が表示機能を備えているので、パソコンがなくても電子化された情報を見られるうえ、電源を切っても表示は消えず、再利用も可能となっている。

今回は、未来の紙とも言われている「電子ペーパー」についてみてみよう。


■電子ペーパーの歴史と構造
電子ペーパーはどのような経緯で誕生したのだろうか。またどのような構造を持っているのだろうか。わかりやすくまとめてみた。

●電子ペーパーの誕生
世界初の電子ペーパーは、米ゼロックスのパロアルト研究所の研究者 ニック・シェリドン氏により1970年代に開発された「Gyricon(ジリコン)」とされている。

Gyriconは、薄いプラスチックペーパーで小さなカプセルを挟んだもので、そのカプセルの中は油性の液体が満たされており、カプセルの中には白と黒に別れた小さな球が入っている。

このペーパーに電圧をかけると電界の作用によって球が回転し、黒い球で文字を作れば、黒い文字が浮かび上がる。電圧をかけない限りカプセルの状態は変化しないため、一度文字を表示させてしまえば電源がなくてもその文字を表示し続けられというわけだ。このGyriconは、耐久性もよく、数千回繰り返して使用することができた。


●カラー版の電子ペーパーも登場
カラー版の電子ペーパーもすでに発表されている。2005年、富士通研究所と富士通フロンテック、富士通はフィルム基板を用いたカラー版の電子ペーパーを発表している。

同社の電子ペーパーは赤・緑・青の3色の液晶を重ね合わせることで、フルカラーによる表示を実現とした。各液晶のまわりには液晶を制御するための回路を備えたドライバーを必要とするが、液晶ごとにドライバーの位置を重ならないように工夫することで、紙と変わらない厚さを実現している。

電子ペーパーの断面は、赤・緑・青の液晶シートが透明フィルム、透明電極、電極、封止剤、光吸収層が重なり合った構造となっている。

電子ペーパーの構造 -富士通研究所


●電子ペーパーの液晶技術
電子ペーパーでは、テレビやディスプレイで使用される液晶と大きく異なる液晶を使用している。一番の特徴は、電源を切っても液晶の表示状態が変わることがない「メモリー性」を持っている点だ。情報を書き換えるときだけ電力を消費するが、そのあとは液晶の状態を保持するので通常の液晶のように電力を消費せず、画面がちらつくこともない。

富士通研究所のカラー版の電子ペーパーは、このようなメモリー性を持った「コレステリック液晶」と呼ばれる液晶を採用している。コレステリック液晶は、薄く軽量で表示が明るいうえに低消費電力と、まさに電子ペーパーのためにあるような液晶パネルといえる。

コレステリック液晶の性質としては、特定の波長の光を反射する性質を持っており、外光が液晶に当たると特定の色を反射する。色が見える原理は光の3原色そのもので、すべての色が反射する場合は「白」、反射しない場合場合は最下層の吸収層の「黒」に見える。


■電子ペーパーの課題と未来
未来の“紙”とも言える電子ペーパーだが、いくつかの課題が残されているのも事実だ。電子ペーパーの課題と未来をみてみよう。

●電子ペーパーが抱える課題
電子ペーパーは、紙に比べてコストがかさむうえ、書き換えに時間がかかる。コストについては再利用することで抑えられそうだが、書き換え時間については、今後の技術革新により改善を待つこととなる。


●紙から電子ペーパーへ
電子ペーパーが身近になると、我々の日常生活はどのように変わるのだろうか。
もっとも期待されているのは、電車の中吊りなどの広告分野だ。電子ペーパーであれば、広告を差し替える度に紙を無駄にすることがなく、電車内の広告であれば通過駅ごとに広告内容を変えるといった広告展開もできる。

案内板や掲示板も電子ペーパーに置き換えることで、内容の変更が容易に行え、緊急時には非難情報を表示するといった使い方も考えられている。またバス亭の時間割を電子ペーパーに置き換えることも可能で、時間割の余白部にリアルタイムで渋滞情報なども表示できる。

電子ペーパーが本格的に導入されるとカード類の扱い方も変わってくるだろう。クレジットカードには、銀行からの引き落とし情報や残高を表示できるし、プリペイドカードであれば現在のポイントや利用日時なども表示できる。

スーパーやコンビニでの液晶値札、これらも電子ペーパーと置き換えることができる。紙の値札だと、タイムサービスや在庫処分など、価格を変更する場合に手間がかかるうえに紙も消費してしまうが、電子ペーパーであれば問題は一気に解決できるわけだ。

将来的には、手帳や新聞、書籍なども電子ペーパーに置き換えられる可能性が高い。実際にアマゾンでは、自社の電子書籍端末「Kindle(キンドル)」に電子ペーパーを採用し、書籍や雑誌などのダウンロード販売を行っており、ビジネス的にも成功をおさめている。

【気になるトレンド用語】出版革命のキンドル(Amazon端末)って何?-iPodの成功を電子書籍で - livedoor

電子ペーパーには、さらなる応用もある。たとえば、セイコーウォッチは、電子ペーパーを時刻表示に応用した腕時計を商品化し、すでに販売している。

セイコー、電子ペーパー応用の未来型腕時計 - セイコー


電子ペーパーにはまだまだ改良の余地が残されているものの、地球の温暖化問題や森林資源の保護、新しい情報伝達の手段などの観点からも、我々の未来をより良い方向へと導いてくれそうだ。


参考:
電子ペーパー - ウィキペディア
電子ペーパー | 世界初! フィルム基板を用いたカラー電子ペーパーを開発 - 富士通研究所
カラー電子ペーパー(PDF形式) - 富士通フォーラム2006
富士通研究所
富士通フロンテック


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