「シエスパ」運営会社は「原因究明に全力を尽くす」としている

写真拡大

   東京・渋谷区松濤の温泉施設「シエスパ」の別棟で爆発があり、女性従業員3人が死亡した。原因は、地下から汲み上げたメタンガスが何らかのかたちで引火したと見られている。温泉の建物の構造やメンテナンス体制に「ムリ」があり、こうした引火を誘発するもとになったのでは、という指摘が出ている。

温泉の源泉は屋外にあり、そこで天然ガスを放散する

   2007年6月19日午後2時半ころ、東京都渋谷区松涛の女性専用の温泉施設「渋谷松濤温泉シエスパ」の従業員施設が入った別棟で爆発事故が発生した。建物は、骨組みを除いて全壊し、従業員の女性3人が死亡。通行人を含む3人が重傷を負った。周辺の住宅にもコンクリート片が飛び散り、窓ガラスが破壊されるなどの被害が出ている。警視庁捜査一課などは、何らかの要因で別棟内に天然ガスが充満、引火して爆発が起きたとみて、業務上過失致死傷の疑いで捜査している。

   これに類似した天然ガスの爆発・火災事故は後を絶たない。05年2月には東京都北区の温泉採掘場で天然ガスに引火して火災が発生、04年7月には千葉県九十九里町の「九十九里いわし博物館」で、蓄積したガスが引火して男女2人が死傷する事故も発生している。こうした事故が起こりやすいのは、千葉県を中心に、東京都、神奈川、茨城、埼玉県の地下には地層水にメタンガスを主成分とした天然ガスが溶け込んだ「南関東ガス田」があり、温泉水にメタンガスなどが混ざっているからだ。ガスを温泉水と分離しなければ引火・爆発の恐れがある。

   メタンガスは、「空中に拡散すれば一般的に問題ないとされるが、室内にこもると爆発しやすい」(環境省)という性質があり、今回の事故についても、従業員施設の地下1階部分に何らかのかたちでメタンガスが充満し、機械などから引火して爆発に至ったと見られている。

   こうした引火による爆発を防ぐために、一般的には温泉水を引く源泉ポンプには、温泉水と天然ガスを分離する「ガス分離機(セパレーター)」を設置する。別棟内にもそれが設置されていた模様だ。その一方で、地下1階にはガス検知器が設置されていなかったのではないかといった見方もある。ガス分離機がどうして作動しなかったのか、ガス漏れがどういった状況で発生したのか、詳しいことは現在までに明らかになっていない。

   それ以上に、専門家などからは、大きな疑問が生じている。通常、温泉の源泉は屋外にあり、そこでメタンガスなどの天然ガスを放散するのが一般的だ。しかし、「渋谷松濤温泉シエスパ」では、源泉の上に従業員施設という「建物」が建てられていた。温泉採掘やポンプ設置を行っている建設業者がJ-CASTニュースに対して語ってくれたのは驚くべきものだった。

ビルメンテナンス会社が温泉を管理

「(源泉の上に建物が設置されるのは)考えられないですね。通常、源泉ではクレーンなどを使ってポンプの交換を行いますが、その作業が普通にできないですよ。さらに、天然ガスは屋外に出せば拡散するのに、(建物の構造上)なかに充満してしまう危険も考えられます」

   さらに、ビルのメンテナンス会社が「シエスパ」の温泉を管理していたことに関しても「普通はない」と指摘する。つまり、事故があった「シエスパ」の源泉の上に建物を建てるという構造やメンテナンス体制に「ムリ」があった、ということになりそうだ。

   しかし、こうした危険が指摘される一方で、ある温泉業界関係者は「最近、都会に温泉施設がつくられるようになって、(源泉の上に建物を建てるというのは)『ありえる話』になってきた」と語る。

   東京都環境局によれば、東京都内に存在する源泉の数は06年で144件。4年間で20件近く増加している。都内の限られたスペースで温泉施設を作るとなれば、当然、源泉の上に施設などの建物を建てることになりそうだ。だが、それを規制する法律はない。同局によれば、国の定める温泉法に関する条例では、温泉施設の運営上の防火対策について、規制が全くないという。

「(源泉の)採掘時についての防火対策の指導要綱はあるが、(温泉施設の)使用状況となると福祉保健局が担当することになる。確かに、火災等の対応にはなっていないと思われる」(都環境局)

   福祉保健局は、衛生上の管理について管轄することになるが、火災などについては関係していないという。つまり、「スパ」をはじめとした温泉施設の人気が上がり、「危うい構造」の温泉施設が増加しても、「野放し」にするしかないのだ。