教諭が願書を提出せずに…

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 受験シーズンがほぼ終わりましたが、そんな中、兵庫県の県立高校の教諭が大学の推薦入試の願書を期限内に提出せず、生徒4人が受験できなくなるという事案が発生しました。4人は同じ大学の一般入試を受験したものの、不合格だった生徒もいて、卒業後の進路が決まっていないケースもあるそうです。教諭のミスが進路が決まらない一因となった場合、生徒は学校に補償を求められるのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

因果関係の証明が必要

Q.高校受験や大学受験(推薦入試、AO入試)などで、教諭が期限内に願書を提出しなかったことで受験ができなかった場合、学校側に法的責任はありますか。

牧野さん「民事で見ますと、学校の使用者である教諭が、過失によって生徒や両親に損害を与えたことになり、学校側は民法715条の使用者責任を問われる可能性があります。一方、刑事責任は該当する法律がありません」

Q.受験できなかったことで浪人が決まってしまった場合、あるいはその後の入試ですべて落ちて浪人が決まった場合、予備校の学費や翌年の受験料、慰謝料などを学校側に請求することはできますか。

牧野さん「考えられる損害としては、第1志望を受験できなかった精神的損害や、それにより浪人を強いられて余分な出費が必要となったという損害がありますが、請求するためには『出願していれば確実に合格した』であろう因果関係を証明することが必要です。例えば、推薦入試の場合でいうと、『過去の推薦者は全員合格していた事実』といった関連性の高い証拠が求められます」

Q.受験できずに第2志望以下への進学が決まり、その入学金や授業料が、受験できなかった学校より高い場合、ミスした学校に差額分を請求することはできるでしょうか。

牧野さん「確実に合格したであろうと見込まれるのに、公立学校に出願できなかったことで私立学校へ入学し差額が出る場合、損害として差額分を請求できる可能性があるでしょう」

Q.願書を提出し忘れた教諭個人が法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。

牧野さん「願書の提出の委託を受けていながら、過失で提出しなかった場合は『委任契約違反』になり、同時に、民法709条の不法行為になります。出願ミスとそれによって生徒側に発生した損害との因果関係が証明されれば、個人として損害賠償責任が発生します」

Q.仮に教諭が自分のミスを隠蔽(いんぺい)し、受験できないうその理由を生徒側に伝えていた場合はどうなりますか。

牧野さん「単なる出願ミスに比べ、損害額が多めに認定される可能性があると思います」

Q.教諭のミスで志望校を受験できなかったことに関する過去の事例・判例はありますか。

牧野さん「教諭の監督不十分で生徒が授業中にケガをした場合や、生徒への体罰による学校や教諭の法的責任の事例はありますが、願書を出し忘れた事例は見当たりません。本来、入学願書は、本人が自らの意思で責任を持って提出すべきです。国際的に見ても、入学願書を学校が管理するという仕組み自体が珍しく、個人的には、この仕組み自体を変えるべきだと思います」