<「帰国すれば殺される」という衝撃的なツイートで亡命を求めたサウジ女性。タイ政府が強制送還を取りやめた背景には政治的な思惑があった──>

タイ・バンコクの国際空港で入管当局に一時身柄を拘束されたサウジアラビア国籍の18歳の女性が身の危険を理由に第三国への亡命を求めて空港内の施設に閉じこもる事件が起きた。身柄の引き渡しを求めたとされるサウジ当局に対し、この女性がインターネットを通じて救援を求めたところ、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が動きだし、タイ移民局も協力する形でオーストラリアが政治難民として受け入れる方向で準備を始めた。

サウジアラビアは在トルコ総領事館内でジャーナリストのジャマル・カショギ氏を殺害する事件を起こして国際的な批判を浴びるなど、人権問題を抱える国として認知されている。今回も水面下での女性送還を試みたものの、国際世論とそれに押された形のタイ政府により、強制送還に失敗するという失態を演じた形となり、国際的評価をさらに落とした。

1月5日にバンコクのスワンナプーム国際航空に到着したサウジアラビア国籍のラハフ・ムハンマド・クヌンさん(18)がタイ入管当局者によって身柄を拘束されたことが事件の発端となった。

タイ移民当局は「旅券や往復航空券、宿泊予約書など必要な書類を所持していないかったことによる通常の手続き」での拘束としているが、クヌンさんによると、入国審査前に接触してきたタイのサウジ大使館関係者によって旅券を没収されたという。

いずれにしろ、クヌンさんはサウジに強制送還されることになり、その手続きが始まり、タイ当局も当初は「サウジに送還されることになるだろう」(プラウィット副首相)と、サウジ政府の意向に沿った解決策を示していた。

ところが身柄を拘束されたクヌンさんが携帯電話を通じて「サウジに送還されれば命の危険がある」とツイッターに投稿。拘留された空港内ホテルの一室でドアの前にマットレスを立てかけるなどして「籠城」した。

彼女のツイッターでの訴えに対して約45,000人がフォローやリツイートしたことで騒ぎが大きくなり、西側メディアも続々と事態を報道し始めた。そしてUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)が介入に乗り出すに従い、1月7日にタイ当局も「送還して死に直面するような事態が予想されるなら、タイとしては送還するようなことはしない。タイは微笑みの国である」とそれまでの方針を180度変えてクヌンさんの立場に理解を示し始めた。

救いの手を求めたクヌンさん

大塚智彦(PanAsiaNews)