「セカンドを狙っていた」と語るCB二階堂(左)が2ゴール! 青森山田が壮絶戦を逆転で制した。写真:滝川敏之

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[高校選手権・準々決勝]青森山田 2-1 矢板中央/1月5日/等々力

 対戦相手は、今大会最強の“逃げ切り馬”だった。

 そんな矢板中央に与えてはいけない先制点を与えてしまう。前半14分という早めの時間帯で、しかも警戒していたはずのリスタートの流れから頭でねじ込まれた。青森山田の黒田剛監督は「先に取られて本当に厳しくなった」と振り返る。

 2試合連続完封で鉄壁を誇っていた守備網が、あっさりとゴールを割られたのだ。誰もがボールウォッチャーになっていたと、指揮官は述懐する。

「僅差になるのは想定内だった。リスタートを含めて1点ゲームになると。どちらが我慢強く守り、相手のミスも誘いながらいかに先行していくか。まずは0-0というゲームプランで選手を送り出しました。でも……。動きに精彩を欠いてしまって、特に中盤が硬かった。セカンドボールに対しての詰めが甘く、折り返されたところで選手たちがボールウォッチャーになって、最悪の形で失点をしてしまった」

 なかなか反撃もままならない。矢板中央の長身CF望月謙に釣られて、守備陣がずるずるとラインを下げてしまい、コンパクトさを保てず、らしくないミスパスも散見した。なんとか両翼の檀崎竜孔とバスケス・バイロンが局面打開を図るも、SBにひとり加えた矢板中央のダブルチェックに苦しむばかり。着実に“ウノゼロ勝利”への道筋を描かれていた。

 そんななか、前半終了間際だった。青森山田は大会前から精度を研磨していたロングスローから同点とするのだ。今大会で抜擢登用されているMF澤田貴史が右サイドから鋭く投げ込むと、こぼれた球をMF武田英寿が胸トラップからシュート。これを待ち構えたDF二階堂正哉がバックヘッド気味に決めた。黒田監督は「前半のうちに取れたのもそうだし、勝負のなかですごく大きな1点になった。相手にとってもかなりのダメージになったと思う」と称える。

 ハーフタイム、高校サッカー界きっての名将はロッカールームでこんな指示を飛ばしたという。

「なによりも活動量を増やそうと。そして、望月の背後のスペースを気にしてディフェンスラインが低くなりすぎていたので、思い切って上げていこうと話しました。ロングスローやリスタートがあるから、サイドに散らして突破させることも意識させて、最後の1秒だとか10センチとかで明暗が分かれるぞと。ここで負けるわけにはいかない、プレミアリーグ勢の責任を果たそうと言って、選手たちを送り出しました」

 後半、東北の精鋭軍団はものの見事にそのタスクを完遂するのだ。
 後半の頭から、矢板中央は満を持してエースのFW大塚尋斗を前線に投じ、望月との2枚ターゲットで勝負を掛けてきた。それでも青森山田DF陣は一歩も引かず、DF三國ケネディエブスを軸に果敢にラインを押し上げていく。攻めても一気呵成に矢板中央ゴールを急襲し、3分、9分とサイドの崩しからビッグチャンスを掴んだ。

 完全にペースを掴んだ青森山田。そして26分、逆転に成功する。

 左サイドでふたたび澤田がロングスローを投げ込む。一度弾かれた球を澤田がダイレクトでクロスを折り返すと、ニアでFW佐々木銀士がすらし、その後方に控えていたのはまたしても二階堂だった。今度は豪快に左足で蹴り込んだ。黒田監督は「この大会に向けてロングスローの練習と実戦を繰り返すなかで、フォアのポスト際のボールが抜けるシーンがけっこう多かった。だから二階堂には、『じっと(ファーに)いればいつか必ず来る。変な小細工はしないでずっとそこにいろ』と話していた」と回顧する。ここぞの局面で、狙いが的中したのだ。

 今大会からボランチのレギュラーに固定されている澤田も、対戦相手にしてみればサプライズ起用だっただろう。本来、ボランチは守備的な役割を担う天笠泰輝と、技巧派の武眞大が組むのがファーストチョイスだったが、黒田監督はロングスロワーとしての質とその守備力を高く評価して、澤田を抜擢登用しているのだ。