「とにかく今大会は、守備から入って先に点を取られる形をなくそうと考えていた。そのなかで澤田はプリンスリーグ(東北/セカンドチームで参戦)で活躍していたし、守備的な選手だけど勇気を出して使ってみようと。で、チャンスがあれば天笠が前に行くように指示を出していました。吉と出るか凶と出るかはやってみなければ分かりませんでしたが、ここまでの内容を見るかぎり、奏功しているのかなと思う。澤田は試合に出ていなかったぶん、対戦相手にデータがないですからね」

 逆転された矢板中央は目の色を変えて攻勢を強めてきた。70分には攻撃のカードを同時に2枚切って、怒涛の反攻に打って出る。一方の青森山田と黒田監督は、76分に1年生MFで高さ自慢の藤原優大を2列目に入れて中盤の守備を強化。終盤には二階堂が「終わったと思った」と振り返るクリアミスから至近距離弾を放たれるも、この大ピンチをGK飯田雅浩のスーパーセーブで乗り切る。指揮官は「ひとりがミスをしても誰かがカバーする。その基本に忠実に、選手全員が踏ん張った結果」と絶賛した。
 1万を超える観衆を熱狂させたハイレベルな攻防戦は、青森山田に軍配が上がった。勝利監督の言葉である。

「若い頃からいろんな先輩の方々に学んできた。そのなかで、やはり強調されていたのはリスタートの大切さ、重要さでした。亡くなられましたが、鹿実の松澤(隆司)先生も、最後はそこで明暗が分かれるんだとおっしゃっていましたし、市船が強かったときもリスタートが脅威でした。今日の勝利を見て、松澤先生も天国で『ほら言っただろ』と話されているんじゃないでしょうか」

 矢板中央の必勝パターンを覆し、鮮やかな逆転勝利を収めた青森山田。守護神の飯田が首を傷め、バスケス・バイロンも怪我を抱えているが、準決勝までは1週間あり、回復は十分に見込めるだろう。そんな運をも味方にしているあたりが、2年前の戴冠時に重なる。

「準決勝の相手が尚志で、東北対決になったというのは感慨深いですね。でも、ここが目標ではない。僕たちにはプレミアの代表という誇りがある。かならず優勝して、青森にまた優勝旗を持ち帰りたいと思います」(黒田監督)

 2度目の選手権制覇へ、視界はすこぶる良好だ。

取材・文●川原崇(サッカーダイジェストWeb編集部)