子どもの心配をしているつもりで、無意識に親の価値観を押し付けていませんか?(写真: parinyabinsuk/PIXTA)

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私は勤務先の都合で海外生活が10年弱続いております。長男は3歳の時にアメリカに来て約6年間を現地校に通い、またその後、イギリスに移り現在に至ります。日本では小学5年生に相当します。
本人は授業中に私語やおふざけが多く、学校の先生からたびたび注意を受けておりました。アメリカ在住時は学校訪問で子どもの机やキャビネットを見るとダントツに息子のところだけが汚く、恥ずかしい思いをしたことがあります。
さらに、家庭の中でも自分を律することが苦手であり、大小問わず、約束を守れないことが多々あります。例えば、やってはいけないと何度か諭したことでは、妻のアイフォンの(いつの間に覚えたのか)ロックを解除し、夜中にゲームをやったりYouTubeを見たりしていますし、「やること(要は宿題など)をやってゲーム」というわが家のルールも本人が承諾したにもかかわらず隙を見てやっていたりします。そのたびに注意しますが、申し訳ない、反省したという気持ちがまったくないので声を荒らげてしまうことが多発しています。
また、いずれ(来年にも)日本に戻ることから中学受験の勉強をさせておりますが、勉強も身が入らず、部屋では教科書や参考書を見てはベッドに寝そべったり、下の妹にちょっかいをかけたりということが多く、私も妻も注意しても治らないことから非常にストレスを感じることが増えております。
子どもを褒めたり、長所を見つけたり、石田先生の著書を拝読して共感を受けた点が多いので参考にしている点もあります。勉強も指示・恫喝では身が入らないという点も全くもって納得している次第です。
性格面では、長男は同級生とはうまく生活していますし、サッカーや水泳など体を動かすことが好きです。ピアノも多少ですがやっています。
ただ何にせよ、彼自身が純粋に没頭したり、好きなんだなーと思っていることがゲーム以外存在しないように思え、一方、ゲームも好きにさせてあげたいものの、「やるべきことを先」というルールを設定している以上、どうしても彼自身の持久力や我慢力の限界もあり、頓挫することが多いです。
私も妻も、彼が覇気を少しでも養い、彼自身で少しでも彼の世界を自由に泳ぐような生活を持ってほしいと望んでいます。その一方で、同時に、少しずつ社会や学校のルールを認識するとともに、勉学についても自分で少しでも発見し、地道に続けるという努力を願っているところです。
子どもは、最近はストレスを溜めている点もあり、字も乱れ、鉛筆を折ることも出始めました。
乱筆誠に申し訳ございませんが、子どもの覇気や活力をどう作るかという点でご質問に変えさせてください。
(仮名:山本さん)

”こうあってほしい”と望むことで生まれる危険

いただいた文章から察するに、お子さんは、とてもエネルギーが有り余っており、良い意味で子どもらしさを持ったお子さんのようですね。


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山本さんも「彼が覇気を少しでも養い、彼自身で少しでも彼の世界を自由に泳ぐような生活を持ってほしい」と望んでいます。その一方で、同時に、「少しずつ社会や学校のルールを認識するとともに、勉学についても自分で少しでも発見し、地道に続けるという努力を願っている」という、とてもすばらしいお考えを持っていらっしゃることに感服いたします。実にすてきなお考えです。

しかし、お子さんのためを思っていらっしゃる山本さんには酷な言い方になるかもしれませんが、実はそれが極めて「危険」な状態を生む可能性があります。

どういうことかと言いますと、「親の『子どもにこうなってもらいたい』は押し付け」であるということなのです。もう一度言います。親のこうなってもらいたいは「押し付け」なのです。

親が、子どもへの理想のイメージを持つこと自体は問題ないのですが、多くの場合、その状態になるように、「押し付け」が始まる場合があるのです。「親は作為的行動に出て、親の価値観や思考の枠からはみ出ると“強制的に”戻させよう」とします。その枠とはルールであり、こうあるべきという姿であったりします。

広い意味での社会道徳や倫理観というものは確かにありますが、それが親の水準になると狭い意味での社会道徳、倫理観となり、極めて柔軟性の欠ける親主導型の「親の価値観押し付けモデル」となることが少なくありません。親と子では得意とする部分も異なり、才能も異なり、価値観も異なるのです。

山本さんのお子さんは現在、子どもらしい覇気と活力を持っているのですが、親はその方向が勉強に向かわない、親の考えるあるべき姿に向かわないため、日々ストレスを感じておられるようです。しかし、お子さんにはさらにその何倍もストレスがかかっていることでしょう。現に鉛筆を折るといった行動をされているということは、その一部のストレスが表出しているとも考えられます。

では次に、山本さんの場合、どのように対処するかという方法についてお話します。

子どもの価値観を重視する

方法はただ一つです。「親が考える『こうあるべき』『ルール』をすべて撤廃し、子どもの良い点は何か、子どもが大切にしている価値観は何か、にフォーカスする」ということです。

お子さんは何をしているときに、最も「ワクワク感」「充実感」を持っているか。そこを見るのです。それを入り口としてアプローチをしていくのです。しかし、このようなことをお伝えすると「ゲームをやっているときに充実感を感じている」という方がいます。本当にゲームをやっているときに真の意味で充実感を感じているでしょうか。多くの場合、ゲームは暇潰しやストレス解消でやっているものです。つまり、それは余暇的な息抜きであり、一時的な充実感なのです。本当にワクワク感、充実感があれば、ゲームの作り手になろうとしたり、eスポーツのような世界大会への出場などへと意識が向かいます。筆者が言う、その子にとってのワクワク感、充実感とは、将来的職業にもつながる可能性があるものなのです。

山本さんのお子さんの場合、ご相談文を読む限りですが、ゲームではなく、おそらく人と関わることに特質があるように思います。転校という経験を通じ、初めての人たちと関わる中で、自分の特徴を無意識に認識してきたのでしょう。このような環境に置かれた子は世の中にそう多くはありません。それを長所として、伸ばしていくといいでしょう。

筆者から6つの提案がありますので、最後にお話したいと思います。

1:勉強よりも人との交わりを重視する

そのために、キャンプや集団行動する場、グループ学習を経験する環境を作っていきます。

2:勉強は特にやらなくてもいいと伝える

ただし、勉強は役立つこともあるので、自分で必要と思えばやればいいと伝える。この背景には次のようなことがあります。「子どもは基本的にあまのじゃくであるため、親の言うこととは逆行する」。

3:中学受験をさせることはやめる

今の状況下での中学受験は、お子さんにとって危険なシナリオです。なぜなら、いただいた文章からわかるお子さんの状態を察するに、今勉強に対してスイッチが入る段階とは到底思えないからです。勉強にまったく関心がない現在の状態で受験勉強を強制すると、形だけの勉強をやることを覚えたり、さらに失敗したときに親のせいにする可能性があります。「自分は本当はやりたくなかった。でも親の言うとおりにやったのに失敗した」と。ただし、本人がやりたいというのであればもちろん応援します。

4:片付けができないことを気にしない

本来は片付けができたほうがいいが、おそらくお子さんは現段階では難しい。したがって、そのまま放置して自分が困る状況を作るか、親が援助する。

5:自分を律することを期待しない

基本的に小学校5年生で自分を律することができる子は少数ですが、山本さんのお子さんの状況から察するに、現状の家庭内においては難しいでしょう。期待をすると、その期待に合わせようと親が作為します。すると悪化します。ですから、期待することを一切やめてみる。

子どもは指示されると素直に動かない

6:親は、子どもの行為ばかり見ずに、自分の人生を楽しむことを考える

おそらく山本さんのご家庭内では、親から子どもへの、指示、命令用語が頻繁に使われていることでしょう。確かにできていないことがたくさんあり、それが気になるために発される言葉でしょうが、そのような用語を使用して素直に動く子はいません。

なぜこのように子どもの「できていない部分」に意識が向いてしまうかというと、親自身が自分の人生を楽しむことに意識がフォーカスできていないということが背景にあったりします。すると、その結果、子どものネガティブな部分にばかり目がいくようになります。

山本さんのお気持ちはよくわかります。親として通常、そのように子どもの将来を心配するということはあるでしょう。しかし、現状、うまくいっていないということは、やり方が間違っているのです。それをさらに強化しても悪化するだけなのです。ですから思い切って、これまでやってきたことを変えてみてください。これまでとは違った親の対応に、きっと子どもに変化が出てくることでしょう。