ズタズタにされた帽子

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〈WELCOME TO USA〉

 USAがアメリカ合衆国のように読めるからなのか、大分県宇佐市の国道沿いには、大きな看板が掲げられている。市内には自由の女神も立っており、洋風な名前が街の“売り”でもあるようだ。

 その宇佐市の住民が「村八分にされた」と裁判を起こしたのは10月2日のこと。USAをアピールしている割には日本的な争いごとだが、原告は、地元で農業を営む亀山義勝氏(69)=仮名=である。

「亀山さんは宇佐出身で、兵庫県の公務員として働いたのち、定年退職でUターンしてきた人です。ところが、地元の自治会への加入を拒まれたことからトラブルがエスカレートし、“平穏に暮らす権利を侵害された”として330万円の慰謝料を求め、自治会の新旧区長3人と市を提訴したのです」(社会部記者)

 現地を訪ねてみると、そこは市の外れにある14戸の集落。さっそく亀山氏に、どんな目に遭ったのか聞いてみる。

ズタズタにされた帽子

「私に対する仕打ちは、それはひどいものです。挨拶しても誰も返事してくれない。ある日、置き忘れた帽子を探していたらハサミや刃物で切り裂いて捨ててあった。畑に続く道に『私道』『市道』と落書きされたこともありました。この道を通らないと畑に行けないことを知ったうえでの嫌がらせです」

 また、畑にはイノシシ除けのネットを張っていたがそれも何者かに切られてしまったという。

補助金が「きっかけ」

 亀山氏が宇佐市に移り住んだのは2009年のこと。兵庫に妻を残し、母親の介護のために単身で戻ってきたのだ。

「当初は、集落の皆さんとも仲良くやっていたんです。ところが、しばらくして『中山間地域等直接支払制度』(中山間制度)という補助金があることを知り、そのことを口にしたのが嫌がらせの始まりでした」(同)

 この制度は、高齢化が進む集落などが農業を維持するために国から補助金が支払われるというもの。当初、亀山氏は人に畑を貸していたが、途中から自分で農業を始めることになったため、制度について知っておこうと考えた。適用されれば亀山氏にも年間6万円ほどが支払われる。

「5年前の3月に、集落で中山間制度について話し合いがあったことを知り、区長(当時)に聞いたのです。ところが“あんたには関係ない”と相手にしてくれない。仕方なく市役所に問い合わせをしたのですが、それが目障りだったのだと思う。住民票を移していないという理由で自治会への加入を拒否され、市報も配られなくなりました。近所の人に声をかけても“あんたと話すと怒られるから”と逃げてしまう有様です」

 昨年11月には、亀山氏の申し立てを受けた大分県弁護士会が「人権侵害」を理由に是正を勧告。これに自治会が答えなかったことから、今回の提訴となったわけだ。

 一方、“顔役側”にも言い分はある。

「亀山さんはとにかく非常識。中山間制度についても彼が問題にしたので、市役所の仲介で話し合いが行われたんです。ところが“訴える”とか凄い剣幕で話にならない。実際、そのあと私は脅迫の疑いで告訴されたんです。そんなことから、自治会の寄合で亀山さんをメンバーから外すことになった。座長役の私以外が全員賛成でした。トラブルになるから補助金の受け取りも止めてしまいました。嫌がらせ? そんなこと誰もやりませんよ」(元区長)

 が、亀山氏は完全に“戦闘モード”である。

「今ここを出ていったら“負け犬”になってしまう。裁判で白黒つくまで住み続けるつもりです」

 小さな集落で起きた「村八分」裁判、どっちが勝っても残る傷は深い。

「週刊新潮」2018年10月18日号 掲載