次世代自動車をめぐる世界バトルは激しさを増している(写真:PJ66431470/iStock)

世界のあらゆる工業製品の中で、自動車産業は最大マーケットを誇っている。いまや自動車の年間生産台数は世界全体で1億台の大台が射程に入ってきており、関連産業を加えればおおよそ400兆円を超える巨大市場が構築されようとしている。
130年に一度ともいわれる次世代自動車革命が加速する中で、まさに「自動車立国」ともいうべき日本がどのような戦略で戦っていくのかに、世界の関心が集まっている。
40年近くにわたって半導体報道に携わり、この分野で業界最古参のカリスマ記者と称され、現在も自らが立ち上げた電子デバイス産業新聞で記事を書き続ける泉谷渉氏が、近著『日本vs.アメリカvs.欧州 自動車世界戦争』の中で、次世代自動車や車載ビジネスの最新動向を徹底取材した。自動車が牽引する日本製造業の未来図を展望する。

次世代自動車は「走るコンピュータ」「走る家電」

自動車業界にIoT革命の大きなうねりが訪れようとしている。安全意識の高まりからADAS(先進運転支援システム)が一気に浮上してきた。かつては夢といわれた完全自動運転に向けた動きも推進されており、自動車の電装化率も高まっている。


さらに、環境意識の高まりから史上空前のエコカー旋風が巻き起こってきている。EV(電気自動車)、FCV(燃料電池車)、さらにはPHV(プラグインハイブリッド車)などの一大ブームが到来したのだ。さらなる進化形としては人工知能を搭載したコネクテッドカーへの対応も加速しており、まさに自動車は「走るコンピュータ」「走る通信機器」「走る家電」へと進化を遂げようとしている。

このように、次世代自動車をめぐる世界バトルがますます激化する中で、日本のデバイス企業の存在感もまたいやがうえにも高まっている。現在においても1台の自動車には数多くのセンサーが積まれているが、次世代自動車への搭載数は飛躍的に伸びると予測されている。このセンサー技術で日本勢は世界を圧倒している。

カメラモジュールの中核をなすC-MOSイメージセンサーの世界チャンピオンはソニーであり、エンジン周りの圧力センサーの世界チャンピオンはデンソーであり、触覚センサーや振動センサーの分野で世界首位を行くのが日本電産である。

車載向け電池、半導体、部品・素材産業で圧勝

また、車載向けリチウム電池は、パナソニックが世界シェアの40%以上を押さえている。そしてまた、車載マイコンの世界はルネサスが世界トップを疾走しており、次世代自動車向けのLSIについても最先行するといわれている。半導体をはじめとする電子デバイス分野は、次世代自動車に移行してもニッポンの強さが際立つことは間違いないことだろう。


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1台の自動車が大きな情報端末に代わっていく中で、ディスプレー付き電子インパネ、ヘッドアップディスプレー、カーナビゲーション、カーオーディオなどの情報系におけるECU(エレクトロニック・コントロール・ユニット)の需要額は、2020年には6兆6000億円の市場にハネ上がる。

最も大きい駆動系は、エンジン制御、変速機、ブレーキなどにおけるECUが、2020年に13兆5000億円規模にまで拡大する。さらに、エアコン、電動シート、電動ウィンドーなどのボディー系に使われるECUは2020年に6兆1000億円が見込まれている。つまりは、IoT時代においては、30兆〜40兆円という車載用電子機器のビッグマーケットが出現することになる。

車載用半導体市場もこうしたECUの急速成長に支えられ、今後はかなりの勢いで伸びてくるだろう。現状で1台の車に搭載されている半導体はせいぜい3万〜4万円であるが、これがハイブリッド、EVになれば倍の6万〜7万円に急増する。さらに、ADASやコネクテッドカーが加速すれば現状に対して10倍となり、1台の自動車に30万円の半導体が使われる可能性すらあるのだ。

車載向け半導体の中でとりわけパワーデバイス市場は堅実に成長している。IGBT市場は三菱電機、富士電機、東芝などの日本勢が強く、世界市場の50%以上を押さえているといわれる。新世代のパワーデバイスはSiC(シリコンカーバイド)に移行すると予測されているが、ここで世界トップを狙っているのがロームである。こうした半導体を実装するプリント配線板分野においても、日本メクトロンは世界トップシェアを占有しているのだ。

「IoTをコアとする第4次産業革命は、日本企業にもかなりの好影響をもたらしている。2016年度の製造業における経常利益のトータルは、19兆6000億円であったが、2017年度は一気に24兆円にハネ上がった。このうち自動車産業は7兆2000億円を上げており、なんと全体の約3分の1を稼ぐというすさまじさだ。とりわけ目を引くのはトヨタの2兆5000億円という数字だろう」

こう語るのは、野村證券金融経済研究所の海津政信氏である。海津氏は同研究所でシニア・リサーチ・フェロー兼アドバイザーを務め、その優れた分析は度々国内外の関係者をうならせてきた。

その海津氏によれば、自動車産業の大活躍もさることながら、電機・精密分野もここに来て一気に経常利益が引き上がってきた。この分野の2016年度実績は4兆円であったが、2017年度は自動車よりも高い伸びを示し、5兆2000億円まで伸びてきた。もちろんこれを引っ張る大動脈は、半導体、各種センサー、電子部品などの電子デバイスであり、これに関連する装置・機械産業も絶好調であった。

「考えてみれば、リーマンショック後はいわば自動車の一本足打法ともいうべき状況が続き、かつてのヒーローであったエレクトロニクスは哀れなまでに低迷した。しかしながら、2017年度のエレクトロニクスはトップを行く自動車産業をキャッチアップする勢いがあり、2018年度の経常利益も6兆円を超えてくることは間違いないだろう。すなわち、日本経済を引っ張る二本柱が再び帰ってきたということであり、これは誠にもって力強いといえるだろう」(海津氏)

言い換えれば、右ウィングの自動車産業、左ウィングのエレクトロニクスがほぼそろい踏みになったことで、全軍総攻撃の体制が整ってきた。とりわけ活況を呈する半導体をはじめとする電子デバイスが、次世代の自動車革命とクロスオーバーする形で高成長が期待されるのだ。

400兆円市場をめぐる熾烈な戦いが始まった

自動車産業の市場規模は、数年前には300兆円くらいであったが、ハイブリッド車、EV、燃料電池車などのエコカーの急拡大、また自動運転技術の急進展、IoT対応のコネクテッドカーなどの技術革命が後押しする中で、400兆円市場が見えてきている。

この新たな巨大産業である自動車市場を誰が制するのか。完成車というレベルでいえば、その技術力、量産力、設備投資およびR&Dを実行する力のいずれをとっても、トヨタは世界の先頭を走っているといってよいだろう。

そしてまた日産、ホンダ、マツダ、スバル、三菱自動車、ダイハツ、スズキ、日野、いすゞ、ヤマハ、川崎重工などそうそうたる日本のメーカーが次世代自動車世界戦争を戦っている。世界に先行する省エネ技術を最大武器に、日本製造業復活の舞台は整ったのである。