「塚田農場」の店頭

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 地鶏使用を売りにする居酒屋を展開するエー・ピーカンパニー(東京)に対し、景品表示法違反(優良誤認)で消費者庁の措置命令が出た問題で、一夜明けた23日、同社が扱う地鶏産地から戸惑いの声が上がっている。同社は宮崎県の「みやざき地頭鶏」など、特定の地鶏を使ったメニューを“看板”に掲げた「塚田農場」を全国展開してきた。生産者は「地鶏を共に広げる仲間だと思っていた。産地への裏切りだ」と怒りをあらわにする。(金子祥也)

取引中止なら売り先なく


 同社は、全国展開する「塚田農場」「じとっこ組合」などで提供する「チキン南蛮」や「つくね」などのメニューに、タイ産のブロイラーを使用。該当メニューの直前のページでは「みやざき地頭鶏」の生産・流通過程を記載していた上、表紙には赤字で「地鶏一筋」と記載があった。あたかも地鶏を使っているかのような、消費者の誤認を招く表記を消費者庁が問題視。22日に措置命令が出た。

 宮崎県日向市で6000羽の「みやざき地頭鶏」を飼う細川豪邦さん(55)は、テレビでニュースを知って青ざめた。「怒りと心配から、午前3時まで眠れなかった」と打ち明ける。懸念するのがブランドイメージに傷が付くこと。地鶏は産地間競争が厳しく、少しでも“けち”がつけば、外食も加工も別の地鶏に切り替えかねないからだ。

 細川さんは「過去に別の地鶏で偽装があったときは売り上げが6割落ちたと聞いた。そうなっては経営が立ち行かない」とこぼす。

 同社に月1000羽を出荷するJA日向は「あってはならないことだ」と憤る。特に同社が屋号に「じとっこ組合」との名称を使っていることについて「生産組織直営との印象を与える名称。産地への風評被害につながらないか心配だ」と気をもむ。

 同社は「みやざき地頭鶏」の出荷羽数の半数近くを扱う最大の取引先。同社の経営が傾けば行き場がなくなる地鶏が出かねず、県や生産者組織は頭を抱えている。

 みやざき地頭鶏事業協同組合の安藤忠弘専務は、輸入物のブロイラーを使っていたことに衝撃を受けつつも、「それでも契約を切ったら、路頭に迷う生産者が出てしまう」と苦しい胸の内をのぞかせる。同社に対しては「今回の件を機に、原点に返って経営を見直してほしい」と要望する。

 同県畜産振興課は同社が県の農畜産物を広く扱っていることから、「これまで通り取引を続けてほしい」としながらも、「同社の振る舞いが、県のイメージに結び付くこともしっかり意識してほしい」と、くぎを刺した。

 こうした産地の声に対してエー・ピーカンパニーは、誤認を与える表記をする意図はなかったとした上で「措置命令が出たことを受け止めて、反省している。産地には大変申し訳なく、地鶏の価値を消費者に伝えられるように改善していきたい」(広報部)と話した。


<ことば> みやざき地頭鶏


 原種鶏の「地頭鶏(じとっこ)」に白色プリマスロックを交配した系統を父に、母として「九州ロード」を交配した地鶏。適度な歯応えとこくが特徴だ。産肉能力を高めたブロイラーが40〜50日で出荷時期を迎えるのに対し、地鶏は最低飼育期間が80日に定められており出荷には時間とコストがかかる。みやざき地頭鶏の場合、雄は4カ月、雌は5カ月飼育する。