今回の伊藤忠商事によるTOBで、ユニー・ファミリーマートHDへの出資比率を約41.5%から50.1%に引き上げる(記者撮影)

伊藤忠商事は4月19日、持分法適用会社のユニー・ファミリーマートホールディングス(HD)を子会社化すると発表した。8月ごろに株式公開買い付け(TOB)を実施し、出資比率を約41.5%から50.1%へと引き上げる。追加投資額は1200億円になる見通し。子会社化後もユニー・ファミリーマートHDの上場は維持する。

同日、会見に臨んだ伊藤忠の鈴木善久社長は、「子会社化は伊藤忠のコミットメントの表われ。親と子か、そうでないかは外部からの見え方も違う」と語った。

かつては否定していた子会社化

2017年2月には三菱商事がローソンへの出資比率を33.4%からTOBにより50.1%に引き上げた。原材料の調達や物流、参入を目指している銀行業の準備において、三菱商事はローソンを積極的にサポートしている。


伊藤忠商事の鈴木善久社長は「子会社化は伊藤忠のコミットメントの表れ」と強調した(記者撮影)

こうした事例を踏まえれば、今回の伊藤忠によるユニー・ファミリーマートHDの子会社化も自然な流れなのかもしれない。ただ、三菱商事がローソンへのTOBを実施すると発表した2016年当時、伊藤忠はユニー・ファミリーマートの子会社に否定的だった。

1年半ほど前の東洋経済の取材に、当時の伊藤忠の岡藤正広社長(現会長兼CEO)は「(親会社が)グリップをあまり強く締めると(子会社の)息が止まる。息が止まったらコンビニのような、変化に合わせていく業種は非常に難しい」と語っていた。

他方、当時のユニー・ファミリーマートHDの上田準二社長も「小売りの経営を直接コントロールするなんて商社にはできない。伊藤忠が51%の株を持つことになると、数百億の追加投資になる。投資リターンとして効率のいいものではない」と述べるなど、両社の間に”子会社化”という空気感はなかった。

ただ、伊藤忠の鈴木社長は「(小売りを取り巻く環境は)動きが早くなっている」と、危機感をあらわにする。今回、伊藤忠は子会社化へと舵を切った理由をいくつか説明する。

子会社化を決断した3つの理由

1点目はAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)の活用による次世代の店舗の構築。2017年6月に伊藤忠とファミリーマートはLINEと提携し、テクノロジーを活用した次世代コンビニの開発に着手した。今回の子会社化によってこうした取り組みを一層加速する構えだ。


苦戦が続くユニー・ファミマHDの総合スーパーは、ドンキホーテHDとの提携で改善を進める(記者撮影)

2点目は金融事業や、顧客基盤を生かしたデータ分析などのデジタル戦略の強化だ。伊藤忠とユニー・ファミリーマートHDは、電子マネーなど金融周辺のプラットフォームを共同で構築する方針を示している。2017年9月に共同出資会社を立ち上げており、2018年中に具体策を発表する予定だ。伊藤忠の鈴木社長は「場合によっては、外部のネット関連企業との連携も視野に入れたい」と話す。

3点目は海外事業の強化だ。ファミリーマートはすでに中国を中心に海外で店舗を展開しているが、子会社化を機に伊藤忠が持つ拠点や人材を生かして海外事業をよりスピーディーに進める狙いだ。

ユニー・ファミリーマートHDが誕生した2016年9月時点で伊藤忠の出資比率は33.4%だったが、その後も追加取得を進めてきた。特に今年2月初旬以降は小刻みに市場での買い増しを続け、出資比率は41.5%にまで達していた。今回のTOBで一気に子会社化に踏み切った格好だ。ただ、TOB発表前のユニー・ファミリーマートHDの1株価は上場来最高値圏。そこから1割近いプレミアムを乗せた買収価格は、決して安くない。

今回の伊藤忠による子会社化は、ここ数年でコンビニを巡る環境が大きく変わっていることを物語っている。伊藤忠の鈴木社長は「BtoCの顧客接点を持っているユニー・ファミリーマートは大事なアセット(資産)。当社に大きな影響を与える。そういう意味での定量効果は大きい」と話したが、はたして投資に見合ったリターンを得られるか。