―エネルギー問題に対する国民の意識向上も欠かせません。
 「化石燃料が枯渇するという現実を遠い将来と思うか、近い将来と考えるか。私の孫の時代ですよ。地球の長い歴史の中で蓄えてきた化石燃料をあっという間に使い尽くしてしまう。地球の歴史を1年のカレンダーにして考えてみてください。46億年前を1月1日午前零時とすると、化石燃料を使ってきたこの100年はどんな長さでしょうか」

 「明治維新からの150年でも結構です。100年は大晦日の除夜の鐘の108つ目で、わずか0・7秒。たった0・7秒の間でエネルギーを使いまくってきたんです。150年前からなら1秒。あと1秒後には化石燃料を使い終えるかもしれない。ものすごい長い歴史の中でほんの瞬きする時間軸の中で我々は生きている。それをまだまだあるというのか。私の祖父の時代から私の孫の時代までですよ。地球温暖化問題にも後世に化石燃料を残す視点が必要です。途上国に貴重な石炭資源を残さねば先進国の責任は果たせないと考えています」

 ―2050年を考える上で、原発議論は避けて通れません。
 「日本は福島第一原子力発電所事故を経験しています。だからこそ安全性を追求していかねばなりません。原理的に安全な原発を考え出さない限り、原発比率をどんどん下げていこうという説しか出てこない。この国は原発技術をギブアップするわけにはいきません。再生可能エネルギーが今のようなレベルの技術ではなく、画期的な可能性のものが実用化でき、全人類がこれで全てやっていける確信ができて初めて原子力に対する答えが出せます」

新増設の議論も必要
 「原発の議論になると、この国はいつもゼロか100かの話に陥りがちです。私は2015年エネルギーミックス策定の議論の中で、新増設・リプレースの議論をその時点で始めることに反対しました。理由は2030年のエネルギーミックスを決める前にその議論を持ち出すと、新しい原発しか安全でないという話に転じて、議論が混乱してしまいます」

 「私は島根県出身なのですが、(中国電力の)島根原子力発電所の3号機はいまだに停止しています。すぐにでも動かせる最新鋭の新設原発がありながら、新増設の議論をするのは一体何なんだろうかと考えています。既存原発の再稼働がどういう理由で進まないか、進めるにはどうすべきかを現実論として議論しなければなりません。ただし、2050年に向けての議論の中では新増設の議論が必要です」

 ―産業界はどのように貢献していけば良いでしょうか。
 「再生可能エネルギーは日本が世界一とは言えませんが、原子力と石炭火力の技術は日本が技術をリードしてきました。とりわけ石炭火力は世界一であり、自ら放棄することはありえません。私がCOPに出席している時、(地球温暖化対策に消極的な国を皮肉る)『化石賞』をもらったことがあります。私は胸を張ってもらおうと言いました。石炭は世界中に埋蔵しており、日本も石炭を使うことで発展しました。これからは途上国にいかに石炭を残してあげられるか。だからこそ我々は石炭火力発電の比率を下げなければなりませんが、技術は日本が最後まで残さねばなりません」

 ―産業界の省エネルギー化の推進も大きなテーマです。
 「これは地産地消の考え方が重要になります。コマツは粟津工場(石川県小松市)で生産量当たりの購入電力9割削減を実現しました。そのために、全く新しいコンセプトの新工場を立ち上げました。冷暖房に地下水の熱利用を実現した上でバイオマス発電を導入し、さらに排熱を利用することで熱利用効率70%を達成しました。また、工場刷新と合わせて組立ラインの生産性を大幅に高めました。機械一台一台の電力使用量を見える化しました」