楽天が携帯電話事業に参入、2019年中にサービスを開始するという(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)


 楽天が通信キャリアに参入する意向を表明したが、通信業界では厳しい見方が多く、楽天の株価は大きく下がった。日本の携帯キャリアはNTTドコモとKDDIとソフトバンクの3社が圧倒的なシェアをもち、「第4のキャリア」として名乗りを上げた新規参入業者はすべて(独立の企業としては)消滅したからだ。

 通信産業は25兆円の巨大市場だが、3社の寡占状態で、ソフトバンクの営業利益は1兆円を超えた。この市場に参入しようという企業はこれまでも多かったが、第4のキャリアは生き残れなかった。楽天が同じ結果になると予想する人は多いが、この20年で電波ビジネスも技術も大きく変わった。

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電波を借りる「店子」から「大家」になれるか

 楽天が名乗りを上げたのは、総務省が今年度中に割り当てる予定の1.7ギガヘルツ帯(2スロット)と3.4ギガヘルツ帯(2スロット)だ。総務省は「電波オークションをやるべきだ」という批判に挑戦するように、この帯域を今年度中に比較審査で割り当てる。

 その審査基準には「新規事業者であること」があげられているので、楽天は総務省と事前に調整しているものと思われる。既存3社も名乗りを上げているので、この4スロットが楽天を含む4社に割り当てられるだろう。

 このうち3.4ギガヘルツ帯はテレビ局の衛星放送の周波数で、地上の基地局に使うのはむずかしい。常識的には、楽天に割り当てられるのは、第4世代の国際周波数になっている1.7ギガヘルツ帯だろう。しかしこれは防衛省が使っており、その「立ち退き料」は2000億円ぐらいかかるという。これはその帯域を使う事業者が負担する。

 このように通信事業は、免許を取得するだけで巨額のコストがかかる。楽天は2025年までに通信事業に最大6000億円を調達すると発表したが、1.7ギガを使うとすると、これではとても足りない。40メガヘルツ取っても帯域は既存キャリアの2割ぐらいしかなく、つながりにくいだろう。

 楽天は既存キャリアの電波を借りて「格安SIM」で低料金サービスを提供するMVNO(モバイル仮想通信事業者)の最大手だが、ユーザーは約140万人。4000万人以上が利用する既存キャリアと競争するのは茨の道だ。

 免許を取っても楽天はMVNOを併用するものと思われるが、電波を借りる相手はライバルの3社である。彼らが第4のキャリアの成長を黙ってみているとは思えない。電波を借りる「店子」がその「大家」と競争することには限界がある。世界的にも、MVNOで大きく成長した通信業者はない。

電波にはすでに「第2市場」が存在する

 日本の携帯キャリアが3社になったのは、それほど昔のことではない。かつてはデジタルホンやツーカーなどのブランドがあり、2000年代にはイー・モバイルやウィルコムやアイピーモバイルなどの新規事業者が参入したが、すべて失敗した。

 その原因は、通信事業では基地局や端末などに莫大な固定費が必要で、規模の利益が大きいからだ。市場規模が日本の3倍以上のアメリカでも主要キャリアは4社で、4番手のスプリントは慢性的な経営危機に悩んでいる。日本の市場規模では、3社が適正だという意見も多い。

 こういう激しい淘汰の中で後発のソフトバンクが生き残ったのは、その資本力で多くの企業を買収したからだ。政府が電波オークションをやらなくても、電波の第2市場はすでに存在するのだ。

 ソフトバンクが2006年にボーダフォンを1兆7500億円で買収したときも、莫大な負債を抱えて「無謀だ」といわれた。ボーダフォンのネットワークは貧弱でつながりにくく、ソフトバンクは「安かろう悪かろう」のビジネスモデルで出発した。

 その最大の転機は、2007年にアップルがiPhoneを発売したことだった。ソフトバンクの孫正義社長はアップルのCEO(最高経営責任者)スティーブ・ジョブズと交渉して、iPhoneの日本での販売を独占したのだ。

 たった10年前のことだが、当時は「スマートフォン」という言葉もほとんどの人は知らなかった。日本以外の国ではiPhoneは通信キャリアを問わないで販売されたが、日本ではソフトバンクが「SIMロック」で独占販売する権利を獲得したのだ。

「ガラケー」の天国だった日本の通信市場はiPhoneをきっかけに激変し、スマホが通信の中心になった。ソフトバンクはその波に乗って「第3のキャリア」になったが、彼らが無線通信に参入した2005年には、まだiPhoneもスマホも存在していなかった。今の楽天と同じようなものだ。無線通信には、まだ見ぬ可能性がたくさんある。

電波はまだ大幅にあいている

 ソフトバンクはボーダフォンに加えて、ウィルコムやイー・モバイルなどを買収し、それによって電波を増やしてきたが、第2市場にはオークションのような公平性がない。

 2012年3月にソフトバンクは、900メガヘルツ帯で4G(第4世代)の免許を比較審査で割り当てられたが、同じ年の10月にイー・アクセスを約1800億円で買収し、同社がもっていた700メガヘルツの免許も獲得した。

 700メガ帯はこの年6月に、ドコモとKDDIとイー・アクセスが割り当てられたばかりだった。イー・アクセスの経営は行き詰まっており、1800億円は企業価値ではなく「電波の価値」だった。

 割り当てを受けてから3カ月余りで売却したのは、イー・アクセスの「電波の売り抜け」だと批判され、総務省もあわてて調査したが、ソフトバンクは700メガの電波を返さなかった。この結果、彼らは4Gで2スロットもつ結果になった。

 ソフトバンクの企業買収は資本主義としては当然だが、彼らが第4のキャリアを買収したことが寡占状態の原因だ。第2市場で電波を増やしてきたソフトバンクが、第1市場のオークションに反対するのは筋が通らない。

 このように第4のキャリアへの道は多難だが、楽天には楽観できる材料がある。テレビ局が占拠して使っていないUHF帯が大幅にあいているのだ。

 関東1都6県の場合、テレビ局には13〜52の40チャンネルが割り当てられているが、東京スカイツリーの使っているのは下の図のように21〜28の8チャンネルだけだ。残る32チャンネル(192メガヘルツ)は中継局をスカイツリーと同じチャンネルにして区画整理し、アメリカと同じ方式でオークションで割り当てると約2兆円の資産価値がある。



 この電波をすべてオークションで割り当てるかどうかは議論が必要だが、それはこの大きな帯域を開放する経済的なメリットに比べると大した問題ではない。テレビ局の使っていない帯域をインターネットに配分すれば競争が促進され、ユーザーは大きな利益を得る。第4のキャリアには、まだチャンスがあるのだ。

筆者:池田 信夫