トリンプが運営する若い女性向けの店舗「アモスタイル」は近年、閉店が続いていた(編集部撮影)

かつて「残業ゼロ」を実現しながら19期連続で増収増益を成し遂げた優良企業が、苦境に立たされている。

婦人下着メーカー大手のトリンプ・インターナショナル・ジャパンは11月初旬に2016年12月期の決算を官報に公告した。売上高は434億円、営業損益は9.5億円の赤字だった。赤字の理由について会社側は「(グループによる事業変革の一環で)不採算店舗の閉店や一部のバックオフィス業務の外部委託などを行い、一時的支出が発生したため」と説明する。

直営店は5年で50店減少

トリンプの創業は1886年。本社をスイスに置き、日本に進出してから50年以上の歴史を持つ。「天使のブラ」や「恋するブラ」といった看板商品を生み出し、百貨店や量販店への卸売りや、若い女性向け低価格商品を扱う「アモスタイル」を軸とした直営店の運営を行ってきた。

定期的な決算開示がないため近年の業績推移は確認できないが、売上高は05年の約520億円をピークに減少傾向が続いている。現在の直営店は約250店で、ここ5年で50店ほど減った。

目下、国内の女性用下着市場では「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングやしまむらといった新興勢力が台頭。特にユニクロは「ブラトップ」など高機能インナーウエアの販売が好調に推移している。


英調査会社ユーロモニター・インターナショナルによると、16年のファストリの国内女性用下着シェアは20.2%と5年前から約6%増加し、首位のワコールに肉薄している。一方でトリンプは7.7%と、ここ5年は横ばいが続いている。

それだけではない。あるアパレル幹部は「カリスマ的存在だった吉越浩一郎社長の退任以降、日本法人は経営指揮を執りづらくなっていたようだ」と話す。

トリンプが日本市場で存在感を高めたのは1992〜06年の、吉越氏が社長だった時代。生産性向上を目的とした残業削減に加え、早朝会議や最新物流機能の導入などの改革を次々と断行した。経営を担う前までの赤字体質から脱却し、増収増益を続けた。

株主交代で潮目が変わった

今回取材に応じた吉越氏は当時の状況を、「グループ全体の売上高の25%近くを日本が稼ぐまで成長し、本社も自分に経営を任せてくれていた。その分、日本の市場に合った事業戦略を展開できた」と振り返る。


当記事は「週刊東洋経済」12月16日号 <12月11日発売>からの転載記事です

だが、吉越氏の社長退任前に潮目が変わった。トリンプ本社の株主が交代したのだ。その結果、「日本法人に対して、本社の介入が増していった」(当時を知る関係者)。低価格かつ高機能を重視する市場変化にも柔軟に対応できず、競合の台頭を許した。

吉越氏の退任以降、2度の社長交代を経て、10年にはリーバイ・ストラウス ジャパンから来た土居健人氏が社長に就任したが、その土井氏も12月31日付で退任する。人選に時間がかかり、後任は未定という。次期社長が決まらない中、かつての勢いを取り戻すのは容易ではない。