息子がちょっと変わった感性を持っています(写真 : Greyscale / PIXTA)

※石田勝紀先生へのご相談はこちらから

小6の息子がいる母親です。ご相談がありメールしました。息子はどうしても国語の選択肢問題で正解が選べないようなのです。小さいときから、ちょっと変わった感性を持っていて、普通の子どもとは異なった感想を言ったり、行動をとっていたりする子です。このような子には、どのように対処してあげたらよいのでしょうか。
(仮名:沼田さん)

人とは違う感性を持っているのはすばらしいこと


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沼田さんのお子さんは、人とは違う感性を持っているようですね。とても羨ましい限りです。

「人と異なっていることが問題だ」と相談しているのに、なぜ羨ましいと言うのか不思議に思われるかもしれません。しかし、実際、筆者のように教育という分野の仕事に30年近く携わっている者からすると、沼田さんのお子さんのような子どもには、とても大きな可能性を感じてしまうのです。

これまで20世紀型といわれる教育の世界では、「いかに人と同じことができるか」「全員がたった1つの答えを目指す」「学校は偏差値が高いほどいい」というようなことが当たり前のように展開されてきました。もちろんこれは悪いというものではありません。時代がそのような人物を求め、常識とみなされていただけのことです。

ところが近年、変化が大きく、答えのないこれからの時代に対応できる21世紀型スキルとか21世紀型能力が必要といわれるようになりました。それらのスキルや能力を学ぶために、「多様な学び」「双方向型の学び」「アクティブラーニング(主体的・対話的で深い学び)」という形態も出てきました。ご存じの方も多いかもしれませんが、2020年以降は学習指導要領の改訂や、大学入試センター試験の廃止、新しい入試形態の誕生などが予定されています。

こうした変化を脅威に感じる方もいるかもしれませんが、筆者はそうは思いません。人として「学びはもっと自由でいい」「さまざまな考えがあっていい」という、本来のあるべき学びの形へと回帰というポジティブな面もあると感じるからです。

なぜこのようなことをお話しするかといえば、沼田さんのお子さんの「人とは異なる感性」を大切にしてもらいたいからです。もし、人と異なる感性を“正そう”としてしまうと、これからの時代に必要な大切な感性を奪ってしまうことになりかねません。

どのように感じるか、どのように考えるかは、もっと自由であっていいのです。そこからイノベーションが生まれ、世の中に貢献できる知見が生まれたりするのですから。

しかし、このように言われても、学校のテストでは、たった1つの答えにたどり着けたら○、違ったら×がつくため、いくら自由な考えや感性があっていいと言われても困りますよね。

×ばかりつけられていたら、子どもは自己肯定感が低下し、その子が本来持っている大切な感性や能力まで台なしになってしまうかもしれないということもあります。そこで、沼田さんには次のような解決策についてお話ししましょう。

それは、「ダブルスタンダードを持つ」ということです。

ダブルスタンダードとは、「その子が持っている独自の感性による基準と世の中一般の常識という2つの基準」を意味します。矛盾することなど、ネガティブな意味で使われることも多い単語ですが、ここではプラスの意味で使います。

ダブルスタンダードを持つには

このダブルスタンダードを持てるようにするには、筆者が、国語の授業で次のような2つのステップが参考になると思います。

【ステップ1】子どもの感性を大切にする(1つ目のスタンダード)

先生:「ではA君、この問題の答えは何を選んだ?」

子ども:「3番です」

先生:「どうして、3番にしたの?」

子ども:「なんとなく」

先生:「『なんとなく』を言葉にしてごらん」

子ども:「2段落に○○と書いてあって、そのような状況だと、3番に書いてあるようなことを主人公がやるかと思ったから」

先生:「なるほど。そう感じたんだね。じゃ、1番、2番、4番はどうして違うと思った?」

先生に指されて、間違った答えを言うと「違う」と言われ、別の生徒に当てていく。もしそんなことをしたら、子どもは今後、答えることを拒否することでしょう。「間違える=悪いこと=自己肯定感の低下」にしかならないと悟ることでしょう。

なぜ、違うのかという理由がわかることもなく、ただ違うと言われても子どもは困ってしまいます。なぜそう答えたのか、なぜ違うのかを知ることが「学び」なのですね。ですから前述の会話を見ていただくとわかると思いますが、はじめに正解、不正解とは言っていません。「なぜそれを選んだの?」「なぜほかを選ばなかったの?」の2点を聞いているだけなのです。そして「なるほど」ということで子どもの考えを受け入れています。

【ステップ2】世の中の感性を知る(2つ目のスタンダード)

しかし、このまま子どもの独自の感性を大切にするだけでは、いつまでも正解に至らず、国語の点数に結びつかないばかりか、国語自体が嫌いになってしまう可能性もありますね。そこで、もう1つのスタンダード、世の中のスタンダードを学びます。

先生:「なるほどね、そう思ったわけだね。では、ここでもう1つ質問するよ。世の中の大半の人が選ぶとしたらどれを選ぶと思う?」

子ども:「……」

先生:「ゆっくり考えていいよ」

子ども:「2番……かな」

先生:「どうして2番だと思ったの?」

いかがですか。「世の中の大半の人が選ぶとしたらどれを選ぶと思う?」と聞かれると、子どもの意識が、世の中の一般の視点に移ります。すると、状況を客観的に見ることができるようになるのです。この方法は筆者が毎回、授業で実践してきた方法です。この方法で多くの子どもたちが、正解にたどり着けるのですから、不思議です。

国語の問題を解く目的は、正解を選ぶことなのですが、そのためのアプローチがまったく異なっていることがおわかりいただけたと思います。

まとめると次のようになります。

なぜその選択肢を選んだのかを言語化させる

1.まずは正解・不正解にこだわらずに、なぜその選択肢を選んだのかを言語化させる(選ばなかった選択肢の理由も言語化させる)

→選んだ理由については、特に否定はしない。選んだ理由を独自に持っていることが重要であり、正解しているか不正解となっているかは、この段階では、特に言わない。

2.「世の中一般の多くの人が選ぶとしたらどれを選ぶだろうか」と質問する

→視点が自分から世の中の多くの人に移ると、見方が変わり、別の選択肢を選ぶ場合が多い。そのときもなぜそれを選んだのかを言語化させる。


3.ここで初めて、正解を言う。すると1と2のプロセスを経ているため、子どもは自分の感性を否定はされておらず、また世の中一般の考えにもフォーカスできるので、安心して正解を受け入れることができる

以上のプロセスを経ると、子どもの中に、正のダブルスタンダードが出来上がります。これができると、自分の感性を大切にしつつ、世の中の人たちの考え方も理解し、受け入れることができます。

沼田さんの息子さんはすばらしい感性をお持ちなので、それを大切にしつつ、もう1つのスタンダードである世の中全般の人の感性も知る場を国語の学習を通じて、ぜひ作ってみてください。