1年前に産声をあげたBリーグが9月29日、早くも2シーズン目の幕を開ける。栃木ブレックスが連覇を達成するのか、ファイナルで敗れた川崎ブレイブサンダースがリベンジを果たすか、それとも思わぬダークホースが現れるのか――。2017-2018シーズンの覇権の行方を展望してみたい。


田臥勇太は初代王者としてBリーグ連覇に挑む

 初代王者・栃木ブレックス(46勝14敗/2位)がピンチだ。

※カッコ内は昨季レギュラーシーズンの成績と全体順位。ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。

 ファイナルMVPを獲得した古川孝敏(SF)と、急成長を遂げた須田侑太郎(SF)がそろって琉球ゴールデンキングスに移籍し、アリウープで会場を何度も沸かせた熊谷尚也(SF/PF)も大阪エヴェッサでプレーすることになった。シックスマンとして躍動した渡邉裕規(PG)は引退し、昨季ファイナルで左アキレス腱を断裂したジェフ・ギブス(PF/C)もリハビリ中で開幕に間に合わない。シーズンが始まる前だというのに、いきなり黄信号が点滅している。

 今オフ、栃木は新ヘッドコーチ(HC)に長谷川健志を招聘した。長谷川HCはかつて日本代表を率い、2014年のアジア大会で20年ぶりとなる銅メダルを獲得。翌年のアジア選手権では18年ぶりにベスト4へと導き、リオ五輪世界最終予選の出場を決めた。近年の男子日本代表のなかで、もっとも五輪本戦出場に近づいたチームを作り上げた名将である。

 しかも、その日本代表で主将を務めていたのが田臥勇太(PG)だった。長谷川HCは「代表で一緒にやった田臥選手らともう一度やりたいと思った」と、栃木からのオファーを承諾した経緯を語っている。新HCの目指すスタイルを司令塔がすでに理解しているのは、今季のストロングポイントになるだろう。オフェンシブなスタイルを好む長谷川HCと、アップテンポな展開を得意とする田臥が揃った以上、新生・栃木は超攻撃的なチームに変貌を遂げると予想される。

 たしかに、今季の栃木には逆風が吹いている。それでも、逆境でこそ真価を発揮してきたのが田臥だ。初代王者の栃木はどのチームよりも優勝する方法を熟知しており、連覇を目指せるのも彼らだけ。モチベーションが低いはずはなく、栃木が2連覇を飾っても何ら不思議ではない。

 その栃木を倒すべく、優勝候補の筆頭として急浮上してきたのは、昨季のプレーオフ・セミファイナルで敗れ去ったアルバルク東京(44勝16敗/4位)だろう。

 もともとBリーグ随一のタレントを誇るA東京だが、今季はさらに戦力を充実させている。秋田ノーザンハピネッツからフィジカル能力の高い安藤誓哉(PG)を期限付きで獲得し、さらに現役大学生の馬場雄大(SF)も加入した。

 馬場は198cmの高身長ながら、抜群の走力と日本人離れした跳躍力でダンクを連発する大学バスケ界屈指のフォワードである。A東京の試合を観戦した際に攻守が入れ替わったら、まずは馬場の「背番号6」を探してほしい。きっと6番は速攻の先頭を走り、次の瞬間には豪快なダンクを決めるシーンをあなたは目撃するはずだ。

 昨季リーグを沸かせたスピードスター、ディアンテ・ギャレット(SG)はセリエAのチームと契約してA東京を去った。ギャレットの美技が見られないのは残念だが、日本代表の主力でもある田中大貴(SG)がエースとして自立しつつある。また、ギャレットの代わりに加入した新外国人選手も強力だ。211cmのアレックス・カーク(C)はクリーブランド・キャバリアーズでプレーしたこともあるビッグマンで、ランデン・ルーカス(C)は名門カンザス大出身でユニバーシアードのアメリカ代表という逸材である。

 新HCのルカ・パヴィチェヴィッチは選手にハードな練習を課すことで有名で、就任直後から2部練習を行なっている。タレント軍団がリーグトップクラスの練習量をこなしているだけに、A東京が優勝候補の筆頭と言われるのも納得だろう。

 9月初頭に開催された今季の前哨戦「アーリーカップ」では、ピック&ロールを多用するルカHCのチームスタイルに馬場がまだフィットしていなかった。それでもA東京はアーリーカップの関東エリア大会を制している。シーズンが進むにつれて馬場がアジャストしていくのは間違いなく、混戦の東地区でA東京が独走する可能性すら十分にある。

 一方、チームカラーを一新したA東京とは対照的に、昨季からのスタイルを成熟させることで優勝を狙っているのが千葉ジェッツ(44勝16敗/5位)、川崎ブレイブサンダース(49勝11敗/1位)、シーホース三河(46勝14敗/3位)の3チームだ。

 千葉は外国人選手こそ入れ替わったものの、主力となる日本人選手の顔ぶれは変わらず。さらにサンロッカーズ渋谷からディフェンスとスリーポイント(3P)シュートの得意なアキ・チェンバース(SF)を獲得している。日本人得点ランキングで昨季5位(平均13.2得点)の得点力を誇る司令塔・富樫勇樹(PG)が相手を引っかき回し、ほぼ全選手が3Pを得意とする千葉のオフェンスが爆発すれば、どの対戦チームにとってもディフェンスの的が絞れず脅威となるだろう。

 日本、中国、韓国、台湾のチームが参加して9月20日からマカオで開催された「The Super 8」で、千葉は現役中国代表選手や元NBA選手を擁す強豪・浙江ライオンズ(中国)を破って優勝している。チームは新シーズン開幕に向けて上々の仕上がりであることを証明した。昨季リーグ最多となる1試合平均4503人の観客を呼んだ人気チームは、大声援に背中を押されて今季こそリーグの頂点を狙う。

 川崎は平均27.1得点でBリーグ初代得点王となったニック・ファジーカス(C)が健在で、スラッシャーの篠山竜青(PG)とシューターの辻直人(SG)のバックコートデュオもBリーグ屈指の得点力を誇っている。昨季はファイナルで敗れ、オールジャパンでも決勝で敗れた。シルバーメダルコレクターとなりつつあるだけに、2番のポジションはもういらない。

 また、シーホース三河もリーグ有数の戦力の維持に成功している。日本代表でエースとして君臨する比江島慎(PG/SG)と、昨季日本人得点ランキング1位(平均16.7得点)の金丸晃輔(SG/SF)が今季もチームを牽引するだろう。昨季のセミファイナルでは栃木と激突して1勝1敗でタイとなり、前後半各5分という変則ルールの第3戦では14-12というわずか1ゴール差で敗れている。初代王者となった栃木を昨季もっとも追い詰めたチームなだけに、三河も今季のチャンピオン候補といっていいだろう。

 そして今季、ダークホース的な存在としてブレイクしそうなのが、琉球ゴールデンキングス(29勝31敗/8位)だ。

 初代王者の栃木から古川と須田を獲得したのに加え、東京から二ノ宮康平(PG)、名古屋ダイヤモンドドルフィンズから石崎巧(PG/SG)と、ゲームコントロールに定評のある2選手も手に入れた。さらに日本代表としても活躍する帰化選手のアイラ・ブラウン(PF)もSR渋谷から獲得。昨季の主力である岸本隆一(PG/SG)や津山尚大(PG/SG)が新戦力とフィットし、シーズンを通してチームケミストリーを向上させていけば、上位陣を脅かすに十分な戦力となるだろう。今季の琉球には「大物食い」の雰囲気が漂っている。

 47歳にして現役選手であり、チームのオーナーでもあるレバンガ北海道の折茂武彦(SG)は、新シーズン開幕前にこう語った。

「目の前のシーズンはもちろん大事。Bリーグを通して3年後の東京五輪を意識することも大切。ただBリーグが、バスケットボールが、10年後、50年後に発展していることが何よりも大切。今季もそんな未来に向けて、大事な一歩です」

 2年目のBリーグは群雄割拠なシーズンになりそうだ。ただし、まだよちよち歩きを始めたばかりのリーグでもある。もしも可能なら、覇権の行方を、黎明期の新リーグを、会場で見守っていただきたい。

 バスケットボールの季節が始まる。バスケは楽しい。好きなチームが見つかれば、きっともっと楽しい。

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