稲田防衛相に教えたい「“親孝行”だけでは済まない教育勅語の本当の危険性」
「すべては国会でお話しすることにします。それだけであります」
大阪市の学校法人『森友学園』の籠池泰典理事長(62)は16日、衆参両院の予算委員会で23日に行うことになった証人喚問への決意を述べた。
自宅の周囲を大勢の報道陣が取り囲む中、言いたいことをのみ込んだ。隣には民進・共産・自由・社民の野党各党の国会議員。安保法制に対するスタンスをはじめ、籠池氏とは考え方が正反対の陣営だ。“安倍晋三小学校”をつくりたかった男は安倍首相(62)や稲田朋美防衛相(58)から厄介者扱いされ続け、ついに“保守分裂”した。
森友学園をめぐっては疑惑が次々に浮上し、焦点が移り変わってきた。子育ての観点から軽視できないのが「教育勅語」にかかわる部分だ。同学園が運営する塚本幼稚園では、園児に教育勅語を唱和させていた。異様な光景だった。
籠池氏は、「何かことがあったときは自分の身を捨ててでも人のために頑張りなさい。そういう教育勅語のどこが悪い」などと居直った。
国会議員やテレビのコメンテーターまで「教育勅語にはいいことも書いてある」などと持論を展開したため、評価がわかりにくくなっている。
「教育勅語」の本当の危険性とは
名古屋学院大学の飯島滋明教授(憲法学、平和学)は、「1945年の敗戦まで、国のために死ぬことを当然と考える国民を育成するのが教育の目的であり、そうした教育を行うために最大限利用されたのが『教育勅語』でした」として、次のように話す。
「憲法は敗戦までのこうした教育を否定しています。教育は個人の成長・人格形成のために行われるべきという26条の『教育を受ける権利』の理念と、教育勅語は相容れません。
さらに、塚本幼稚園での教育の名を借りた洗脳行為は、安倍・自民党と無関係ではない。安倍首相は当初、“私の考え方に非常に共鳴している方”と籠池氏を擁護しています。自民党は2012年4月に憲法改正草案を公表しましたが、そこでも権力者の言いなりになる国民を育成するために教育を利用する規定があります」(飯島教授)
森友学園と関係があった稲田防衛相は8日の参院予算委で、「教育勅語の精神である道義国家を目指すべき」「親孝行だとか友達を大切にするとか、そういう核の部分は今も大切に維持している」などと答弁した。
「親孝行し、きょうだい仲よくし、夫婦も仲よくし、友人を信頼すべきとの内容を持つ教育勅語は、一見するといいことを言っているようにも思えます。
ただ、稲田氏の発言は“木を見て森を見ず”といえます。親孝行すべきなどという文言は、自分の親に孝行するように、国民の親である天皇のために死になさいという結論を導くために利用されました」(前出の飯島教授)
国会で稲田氏に対し、教育勅語への考え方を質(ただ)したのは社民党副党首の福島瑞穂参院議員だった。稲田氏が過去の雑誌の対談で「教育勅語の精神を取り戻すべき」と発言していたことについて、考えを変えたかどうか迫った。
「私は教育勅語の核は、国家の一大事のときには天皇のために命を捧げなさいという部分だと思います。いまの象徴天皇・国民主権とは合致しません。だいいち国会議員も大臣も憲法尊重・擁護義務があります。稲田さんは“核の部分は正しい”などと認識が間違っています」(福島氏)
それだけではすまない。安倍首相の“お気に入り”とされる稲田氏は、女性閣僚として重責を担っている。
「防衛大臣は自衛隊員の命を預かっています。命を大事に撤退しろとせず、国のために大事なことだからと判断を間違えるおそれがある。戦争では多くの若者の尊い命が奪われました。その反省が全くありません」(福島氏)
稲田氏は、籠池氏との関係をめぐる国会答弁が虚偽だったことが判明し、ピンチに立たされている。自信たっぷりに「籠池夫妻から法律相談を受けたことも裁判に行ったこともない」と断言しておきながら、出廷の証拠が明らかになると「記憶違いだった」と訂正・謝罪した。さらに南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣した陸上自衛隊の“廃棄した日報”についても、データが陸自内にあったことがわかり、責任を問う声は大きくなるばかりだ。
ジャーナリストの須田慎一郎氏は「ウソの答弁をした責任は重い」として、次のように話す。
「稲田氏の言い分は、10数年前のことを突然聞かれたので記憶を頼りに答えたら間違ってしまったというもの。普通は、記憶が定かでないことは調べてから答えますよね。国会の大臣答弁としてはいかがなものか。ウソがばれたときに“あれは推測でしゃべったものでして……”で通ったら、何でもありになってしまう。今後の答弁に信頼性がおけなくなったのがいちばんの問題だと思いますね」(須田氏)
稲田事務所に取材を申し込むと──
そもそも、稲田氏と籠池氏の接点はどこにあったのか。
稲田氏は籠池氏について「10年ほど前にたいへん失礼なことをされたから、私からは関係を断っている」と話している。籠池諄子夫人は約2年前に対面したとして「私はあの人(稲田氏)嫌いだから話していないけど、園長(籠池泰典氏)は話していましたよ」と述べたとされる。
「稲田氏の実父は文学青年で、京大を卒業して教員になりました。関西では有名な草の根保守の人で、もっといえば活動家です。つまり、父親の影響を受けているんです。父親は保守的な運動をしていたこともあって籠池氏と交流があり、娘の稲田氏が弁護士になったので顧問弁護士を務めるようになったんです。稲田氏は、米国に骨抜きにされた戦後はあるべき姿ではなく、美しい日本は戦前の体制の中にあったと考えているんでしょうね」(須田氏)
大臣発言は重い。思想・信条の自由はあるにせよ、先に述べたように大臣として教育勅語を賛美するような発言は問題といえる。少なくとも、いいかげんな記憶で答弁するようなことは2度とあってはならない。
稲田事務所に取材を申し込むと、質問を文書にしてファクスで送れという。
質問は2つ。なぜ事実確認してから答弁しなかったのか。大臣の資質を問う声があるが辞任する考えはあるか。
しかし、期日までに回答はなかった。事務所に催促の電話を入れると、折り返し担当者から電話が入り、「今回は回答なしで結構です。理由はとくに……」と歯切れが悪かった。なぜ、こんな簡単な質問にも答えられないのか。
100万円の寄付金をめぐる籠池氏と安倍首相の言い分は完全に食い違っている。新事実が出ても、安倍首相と稲田防衛相の脇が甘かった事実は変わらないだろう。