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●1店舗あたり約3億2,000万円の売上高
ハンバーガーに牛丼、ドーナツ、ピザ、そば・うどん、カフェなどなど……日本に無数に存在する外食チェーン店。では、こういったチェーンの1店舗ではどれだけ売上高があるのだろうか。もちろん、商品ジャンルによって単価は違うし、業態によって店舗の規模や回転率も異なるので、まじめに比較するのはナンセンスだが、ちょっと計算してみた。ザックリとした数字だが、マクドナルドの場合、1店舗で年間平均6〜7,000万円の売上高、吉野家の場合、約1億5,000万円だった。そしてスシローが3億2,000万円と、1店舗の単純な売上高としては群を抜いている。

○日本のスシ市場の1/10を占める

5月31日、スシローなどを展開するスシローグローバルホールディングス(スシローGHD)が、事業戦略発表会を行った。登壇した代表取締役社長CEO 水留浩一氏は、「スシローの1店舗あたりの年間売上高は約3億2,000万円。おそらく日本のチェーン店では最高水準」と語った。「本当にそうなのか」と疑問を抱いたため、急遽、調べてみたというわけだ。

スシローのライバルとなるくら寿司で1店舗あたり約2億8,000万円だった。430店舗のスシローと店舗数でデッドヒートを繰り広げるはま寿司は、売上高が公開されていないので調べられなかった。前述のマクドナルドや吉野家を含め、決算時期も異なるし急いでチェックした数字なので、あくまで参照程度にしてほしい。とはいえ、スシ店舗の売上高はほかの外食ジャンルに比べ、高くなる傾向にあるのは確かだ。

そんなスシ市場で業界ナンバーワンの売上高を誇るスシローGHDの事業戦略発表会に参加してみて感じたのは、“イケイケドンドン”だった。同社は10月が期初となるが、3月までの上半期で700億円超の売上高となった。前期は過去最高の約1,361億円だったが、この下半期も上半期と同じ水準で推移すれば、1,400億円を超えることになる。

ちなみに一般社団法人 日本フードサービス協会によると、2014年のスシ市場は約1兆3,700億円。スシローは国内スシ市場の1/10を占めている計算になる。

●鮮度と品質にこだわって事業を展開
そんなスシローGHDが力を入れるのが、バリューチェーンの強化だ。特に材料の調達に注力している。たとえば主力商品であるマグロ。1月に地中海産マグロを仕入れるようになり、それが好評を得て、想定の数倍の売り上げにつながったという。マグロの場合、おいしい部位はスシ用に切り出し、スジがある部位は立田揚げや「コク旨まぐろ醤油ラーメン」に利用される。4月から提供されたラーメンは評判のサイドメニューだが、マグロの無駄を省きコストを抑制する役割も担ったメニューというわけだ。

また、ハマチやタイといった鮮魚も“上流”から手がけている。朝仕入れた鮮魚は皮付きのまま各店に搬送。皮むきを各店で行うことによって鮮度を保っている。水留氏は、「豊富なサイドメニューや低価格を売りにしているスシチェーンもあるが、スシローは鮮度や品質にこだわって戦っていきたい」と強調する。また、「原価率は上がったが、それ以上に売り上げも上がった」と、手応えを感じているようだ。

○地域ごとのメニューでオリジナリティを演出

一方、水留氏は「エリア戦略」にも触れた。均一な商品、均一な品質というのがナショナルチェーンの前提だが、地域によって独自のメニューづくりに注力していくという。たとえば九州地区であれば、ネタを各県から集め“オール九州”ともいえるセットスシを販売したり、レモンの産地、瀬戸内海が隣接する中国地方ではレモンをふんだんに使ったメニューを用意したりといった具合だ。水留氏は、静岡県・常葉大学の学生がメニューを考え、その周辺地域でオリジナルとして販売する“産学”の取り組みを進めていることも明かした。

外食チェーンには2種類の方向性がある。ナショナルチェーンとして普遍的な価値を重視し、全国一律のメニュー・品質を維持する方向。地域やお店ごとに独自性を打ち出し、オリジナリティを前面に出す方向だ。独自の店舗オリジナルメニューといえば、カレーチェーンのCoCo壱が有名。たとえば北海道・森町の名物であるホタテのフライをトッピングした「森町ホタテフライカレー」や、海軍カレーの街にちなみオリジナルのチキンカレーとして提供される「よこすか海軍カレー」など、多彩な店舗オリジナルメニューを展開している。

以前、モスフードサービス会長兼社長の櫻田厚氏がCoCo壱を引き合いに出し、「モスバーガーでもショップオリジナルのメニューが提供できるようなフランチャイザーを目指したい」と語ったことを思い出した。水留氏もスシローにそうした方向性を求めているようだ。

●山手線内に“初”のスシローを出店
こうしたエリア戦略を語る一方、都心進出についての計画も明かした。意外なことだがスシローは都内・山手線内に1店もない。郊外型店舗にこだわり、ロードサイドを主戦場に出店してきた。唯一、東京・新橋に「スシロー つまみぐい新橋店」をかまえるが、同店はスシローを運営するあきんどスシローの店舗ではなく、スシローGHD傘下のスシロークリエイティブダイニングの出店によるものだ。

水留氏は「山手線内へのスシローの出店は9月」と明かしたが、詳しいロケーションや店舗の特徴などについては「後日に報告します」と話すにとどめた。ただ、クリエイティブダイニングが展開する「七海の幸」「つまみぐい」での成果を反映させるとだけした。水留氏によるとクリエイティブダイニングは単に店舗を運営するのではなく、R&D(研究開発)の役割を担わせているという。このR&Dで得た成果が山手線内のスシローに反映され、ファミリーを意識した郊外型店舗とは異なる路線の店舗が誕生することになるだろう。

一大消費地である都内の、それも昼間人口がもっとも多い山手線内に店舗がない状態でスシ市場ナンバーワンとなったスシロー。山手線内は江戸前寿司の個人店が多く、一筋縄ではいかないだろうが、どのように戦っていくのか気になるところだ。

(並木秀一)