毎日のように報道される数多くのニュース。しかし、マスコミの報道する内容が事実とまったく異なるということは少なくないようです。メルマガ『今井亮一の裁判傍聴バカ一代』では、東京都内の認可外保育園で起こった保育士による児童虐待事件について、今井さんが法廷で目撃した、知られざる真相を暴露しています。保育士の虐待事件の裏側にある「真実」とは?

ブラック保育園の虐待労働に保育士が壊れた

ニュース=警察の逮捕発表、を匿名の誰かが転載のみし、その被疑者を匿名者らが誹謗中傷する、それはネットの典型的パターンだ。

ところが、裁判の法廷で出てきた話(事件の中身、裏側)はぜんぜん違うじゃーん!ということがよくある。そんなのを傍聴するのもマニアの醍醐味といえる。

15日(金)10時〜12時、東京地裁718号法廷(52席、俺はお初の寺尾亮裁判官)で「暴行」の新件。

たかが「暴行」の審理…とゆっくり9時50分頃に行ったら、すでに行列が! 俺は10番を超えてた。

以下は今年1月26日付け産経ニュース。

園児を縛って粘着テープ 保育士の女を逮捕 警視庁

勤務先の認可外保育施設で男児(6)の口に粘着テープを貼っては剥がすなどしたとして、警視庁赤羽署は27日、暴行の疑いで、自称埼玉県■■■市■■、保育士、■■(■■■■)■■容疑者(28)を逮捕した。容疑を否認している。

■■容疑者は、この男児の食べ物にからしを入れたり、別の園児をたたいたりするなどしている様子が同僚らに目撃されていたといい、同署は日常的に虐待があった可能性もあるとみて、詳しい経緯を調べる。

逮捕容疑は15日午後1時40分ごろ、東京都■区■■の託児所「保育ルーム キッズ●●●●●●園」で、男児の両手をひもで後ろ手に縛り、口元に粘着テープを貼って剥がすなどしたとしている。

男児の両親が同署に相談して発覚。同署によると、■■容疑者は託児所が開所した平成24年7月当初から勤務していたという。

弁護人席に若い女性が2人。ほ〜、2人か、と思いきや1人が被告人(非身柄)なのだった。小柄で、ぴっちりした黒のパンツスーツ、長い黒髪。

今日は追起訴から。昨年9月、4歳男児B(プラバシー情報は秘匿決定)の口に…。

検察官「…わさびを塗りつけた唐揚げを押し込む暴行を加えたものである!」

泣いて吐き出そうとする園児に対し「ごっくんして。出したらペンするよ。パパ(迎えに)来ないよ」などと言ったんだそうだ。

泣く様子をスマホで動画撮影し、検察官いわく「彼氏」に見せ、その者との間でBを「カラアゲ」と呼んでたんだそうだ。

ひでぇ女だ! と思うょね。俺も思った。

検察官請求の証拠中、甲9号証に、そのスマホの動画をCDに落としたものがあった。

はっきりした顔立ちで美人系の若い女性弁護人は、小っちゃい小っちゃい声で「これ以上(被告人に)社会的制裁を加えることは…」とか言い、不同意としたのか、証拠調べ(法廷での動画の再生)を拒んだのか。

検察官は、「再生することによって犯行状況がよく分かりますので」と退かない。

弁護人は「プライバシー」の問題がどうとか言うのだが、動画中に氏名は出てこないというし、秘匿決定されてるんだから大型モニター(傍聴人からも見える)を使うはずがない。

何をごにょごにょ抵抗してんだょ、との印象を受けた。

10時15分、大型モニターはOFFのまま、その動画が再生された。涙がぼろぼろこぼれてるのが目に浮かぶ、悲鳴のような可哀想な男児の泣き声と、「ペーしないよ」とかいう声が少し聴き取れた。非常に短い再生だった。

10時17分、弁護人側の立証が始まった。

弁護人 「弁1号、診断書、抑鬱状態、重度…弁2号診断書、○○中央総合病院、○○病…平成25年(2013年)6月3日診断…」

上掲報道によれば、被告人がその「認可外保育施設」に入ったのは、施設開設当初の2012年7月。入って1年弱で○○病と診断されたのだ、そこ、憶えといてほしい。

次ページ>>被告人が病気となった原因…明らかになったブラックすぎる勤務状況

弁護人 「弁3〜8号、勤務表、シフト表…午前6時45分から夜8時…その他の職員はパートタイム…」

なぬ? 6時45分から20時って13時間15分じゃん? 被告人以外はパートさんだけ?

それが弁8号証までと聞こえたが、19号証まで同様だったのか。とにかく声が小さいのだ。

弁護人 「弁20号、示談書、平成28年(2016年)4月12日作成…弁21号、○○銀行、60万円振込み…弁22号、謝罪文、被告人から被害者へ…一生、保育園には戻らない…保育士免許は破棄(?)する…」

それら書証について普通は、原本提出か、原本取調べ写し提出か、原本なし写し提出、なのだが、弁護人は「写し提出」とだけ言い、原本はないのか尋ねられて原本を示し、すぐに原本を提出すると言い、原本には証拠番号がないと言われ、じゃ写しを、と。

新人なんだな〜、慣れてないんだな〜、というものをマニアはカンジダ、もとい感じた。

情状証人は被告人の母親。

被告人はアパート暮らしだったが、保育園での仕事が終わると毎日、母親の実家へ寄ってたんだという。

証人   「(午後)8時半頃、仕事の帰りに車で寄って、夕食を…次の日のお弁当を持たせ…」

被告人(娘)が疲れて憔悴してることが明らかだったので、毎日そのようにしてたんだという。

弁護人 「(被告人が)3年半近く、ずっと長時間労働だったことは知っていましたか?」

証人   「知りませんでした」

弁護人 「(娘が疲れきってるのを見て保育園を)辞めさせようとは思いませんでしたか?」

証人   「思いました。もう辞めたほうがいいんじゃないかと伝えました」

弁護人 「何をしてあげるべきだったと思いますか?」

証人   「強制的にでも辞めさせるべきでした。実家へ帰らせるべきでした」

検察官(2人のうち主任。女性)は、20代には到底見えないが、新人なんだろう、だいぶぎこちない。

それでも検察の論理に洗脳されてきってるのか、仕事のストレスは誰にでもある、しかし本件のようなことをする者はいない、と上手に突っ込んだ。

けどぜんぜん成功しなかった。だぁって、本件のような過重労働は常軌を逸してるもん。「誰にもあるストレス」のはずがないもん。

次ページ>>ブラック保育園に”虐待”され続けた保育士に下された判決とは?

裁判官 「以前から、弱い者に対し、はけぐちにするようなことは…?」

証人   「ぜぇったいっ、ありません!」

10時42分、被告人質問が始まった。

弁護人 「保育園の定員は?」

被告人 「24名です」

弁護人 「子どもは何名いましたか?」

被告人 「当時はだいたい30名くらい…」

おいおぃ、ダメじゃんそれ。

弁護人 「職員は何名でしたか?」

被告人 「日によって…ドライバーを含め、3人だったり、4人だったり…」

その人数に被告人が含まれるのかどうか不明。そういうこと、刑事公判では多いんだよねぇ。

弁護人 「常勤は?」

被告人 「私1人でした」

弁護人 「園長先生は?」

被告人 「いませんでした」

2013年5月、「園長先生と奥さんとの間に子どもが産まれ」、園長先生は「パチンコに行ったり実家へ行ったり」、園長がすべき事務も被告人がやってたんだという。

この頃、被告人は手がしびれたりヤバイ状態になり病院へ。そしたら前出のとおり2013年6月3日、○○病と診断されたわけだ。

しかし被告人は、パートさんの指導をし、そのシフト表をつくり、園便りを作成し、園児の傷害保険の書類等々を作成し、園児の送迎も、なんと自分の車でやってたんだという。

被告人 「お迎えが、6時45分に1人いる…私が迎えに行かないとならない…チャイルドシート2個…3歳児からの椅子…だいたい3名を乗せて…」

「ドライバー」は通常の送迎をし、その勤務時間から外れる送迎を、被告人が自分の車でやってたのだ。なんてこった。

被告人 「情緒不安定になり、死にたいと何度も…リストカットをしていました…週に1回くらい…」

そんな中、本起訴分の被害者A君(6歳)は、他の園児のお昼寝の邪魔をし、何度注意しても全く聞かず…。

これはおかしいと、保育士として感じ、病院へ行かせたところ、A君はADHDとの診断を受け、薬を服用するようになって落ち着いた…のだが、本起訴分の犯行時は薬を服用してなかったんだという。

そんな話が延々と出てきた。被告人は随所で泣き…。

おいおい、これは園児虐待というより、保育士が虐待されて壊れた、そういう話じゃん! ともう否応なく伝わった。

だぁがっ! 検察官からすれば、法廷がそんなムードになるのは許されない。

新人らしき主任検察官は、被告人を悪く見せよう悪く見せようと、しょーもない些末なことを突っ込んだ、偉そうに!

俺は傍聴ノートに書いたょ、こいつクズだな、えっらそうにクズ野郎、もうヤメろよっ、と。

救いは、中堅と思われる相検察官(もしや美人系?)が、ずっと顔を伏せ黙ってたことだ。ほんとに被告人が悪いなら、この相検察官がビシッとツッコミを決めてたはず。 ←俺みたい熟練のマニアになるとそこまで見てるわけですょ、ふふ。

求刑は懲役1年6月。被害者が2人とはいえ、重い。

4月25日(月)13時30分に判決と決め、11時58分閉廷。

執行猶予は鉄板として、俺が裁判官だった主刑を下げるね。いや罰金刑でもいいでしょ。

編集後記

保育園が異常に少なく、「保育園落ちた、日本死ね」が話題になってる。

現場はこういう状況であり、そうして有能で頑張り屋の保育士はつぶれて消えていくのだなと、暗澹たる気持ちになったス。

本件の「園長先生」は他にも保育園をつくり、被告人が手伝いに行くこともあったとか。

保育園事業は儲かるんだなぁ、そしたらこれは“ブラック保育園”か、と思った。

image by:shutter stock

 

『今井亮一の裁判傍聴バカ一代』
著者/今井亮一
交通違反専門のジャーナリストとして雑誌、書籍、新聞、ラジオ、テレビ等にコメント&執筆。ほぼ毎日裁判所へ通い、空いた時間に警察庁、警視庁、東京地検などで行政文書の開示請求。週に4回届く詳細な裁判傍聴記は、「もしも」の時に役立つこと請け合いです。しかも月額108円!
≪無料サンプルはこちら≫

出典元:まぐまぐニュース!