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妊娠や出産をきっかけとして働く女性が職場で嫌がらせを受ける「マタニティ・ハラスメント(マタハラ)」について、最高裁判所が画期的な判決を出した。広島県の病院で働いていた理学療法士の女性が「妊娠後に降格させられたのは、男女雇用機会均等法に反する」として、病院側に損害賠償を求めた裁判で、最高裁は10月23日、「妊娠や出産を理由とした降格は、原則として違法」とする初めての判断を示したのだ。

この最高裁判決を受けて、被害者団体のマタニティハラスメント対策ネットワーク(マタハラNet)のメンバーと、女性の労働問題に取り組む弁護士が翌24日、東京・有楽町の外国特派員協会で記者会見を開いた。新村響子弁護士は「今まで、妊娠を理由とした降格や退職強要について、違法だとする判断はほとんどなかった。この判決を力にして、国や企業に広くマタハラの問題を訴えたい」と語気を強めた。

●休んでいたら上司が自宅に・・・

マタハラNetの小酒部さやか代表は、自身が契約社員として働いていた会社で受けたマタハラの被害を次のように語った。

「私は2回、流産しました。

1回目は、ある業務がすべて自分に集中していて、毎日夜11時過ぎまで働いて、双子を流産しました。

半年後に2回目の妊娠をしたときは、切迫流産と診断されたため仕事を休み、家で安静にしていました。

すると、自宅に上司が来て、『突然1週間も休んで迷惑をかけた』『復帰しても周りが気をつかうから、もう契約を更新するな』と、4時間にわたって言われました。

働き続けたかったので翌日から出社し、1週間後に流産しました」

●「職場に戻りたいのなら、妊娠は9割あきらめろ」

小酒部さんは、会社がおかしいのではないかと疑問を抱き、「これはいったいどういう状態なんだ」と人事部長に思いをぶつけた。しかし、人事部長は、小酒部さんに対してこう言い放ったという。

「妊娠も仕事も両方取るのは、欲張り。わがまま」

「そんなに職場に戻りたいなら、妊娠は9割あきらめろ」

子どもが欲しかった小酒部さんは「退職せざるを得なかった」と語った。

●「法律はうちの職場では通用しない」と言われた

会見に出席したマタハラNetメンバーの宮下浩子さんは、妊娠したからといって解雇された経験がある。12年前、まだ「マタハラ」という言葉が使われていないころの出来事だ。

「納得ができず職場復帰を求めましたが、『お腹の子が死んだら、店に良い噂が立たない』『妊婦がいると、お客さんが気をつかうから雇えない』と上司に言われました。

インターネットで調べて、妊娠を理由に解雇することは違法だと知ったので、再度上司に復職を求めにいきました。

すると、『法がどうのこうの言ったって、その職場に合わせてできた法律ではない。その法律は、うちの職場では通用しないから』と言われました」

宮下さんは、涙で言葉につまりながら当時の状況をこう振り返った。

●「労働基準局の職員にも傷つけられた」

宮下さんは、会社に相談しても解決しないと思い、妊娠7ヶ月の身体を引きずりながら労働基準局へ赴いた。しかし、職員に「会社に問い合わせたが、顧問弁護士が何ら違法なことはしていないと言っている。復職は認められない」と言われてしまったという。

「最後のツテだと思って相談に行ったのに、そこでもまた傷つけられ、辛い思いをしました」

そこで、宮下さんは夫にも相談し、会社を相手に裁判を起こした。

最終的に宮下さんは、「妊産婦の働き続ける意向を尊重し、その働きやすい職場環境の維持、改善につとめるものとする」という条件を会社に呑ませたうえで、”勝利的和解”をすることができたのだという。

「12年経って法が改正され、『マタハラ』という言葉も知られるようになりました。しかし現状は12年経っても変わっていません。そして、心に受けた傷も変わっていません。

私は無事に出産ができましたが、この12年の間に、亡くさなくてもいい命がたくさんあったはずです。これ以上、私たちのような被害者を出したくなくて、ここに来ました」

マタハラの背景にある「長時間労働」へのこだわり

職場でのマタハラをなくすために、どんなことをすべきだろうか。

新村弁護士は「日本では、長時間働けて、サービス残業もたっぷりできないと、雇ってもらえない。妊娠や育児をしている女性はそんなに働けないので、そこから排除される代表になる。それがマタハラの原因です」と指摘した。

さらに、「長時間働けなくなることがあるのは女性だけでなく、介護している男性や、体調を崩した男性も同じです。いろいろな事情を抱えた人でも、家庭と仕事を両立しながら働ける時代が来てほしい。長時間労働を見直して、すべての労働者がワークライフバランスを自由に選択しながら働ける社会を目指したい。判決はその第一歩」と訴えた。

小酒部さんは「1つの仕事を1人に集中させないで、いつ誰が抜けても仕事が滞らないような働き方を目指していくべきです。たとえば、1つの仕事を2人組でやる『ペア制度』を導入するのはどうでしょうか」と提案していた。

(弁護士ドットコムニュース)