『盆おどる本 盆踊りをはじめよう!』青幻舎

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みなさんは盆踊りを踊ったことはあるだろうか。私はない。小さい頃に地元の夏祭りでそういった催しがあったかどうかも覚えていない。
とにかく斜に構えて生きてきたのだ。「盆踊り? 古くさい!」と思っていたし、ひたすら家にこもってマンガやアニメを見て育ってきた。

しかし、社会人になり、いろいろな人と付き合うことで行動の幅が広がってきた。そして、清水の舞台から飛び降りるような気持ちで浴衣を買い、着付けも習った。清水ジャンプのかいもあり、浴衣を褒められ、気分も良くなったところで、もっと浴衣を着るイベントに繰り出したいと思うようになってきた。

そこで盆踊りである。しかし、盆踊りとは無縁の人生を送ってきたため、何から始めたらいいかも分からない。

そんな時にふと目にしたのが、青幻舎から発売されている『盆おどる本 盆踊りをはじめよう!』である。
本書では、『あまちゃん』の主題歌を作曲された大友良英さんが推薦文を寄せており、そこにはこう書かれていた。
「盆踊りの輪に入るのに抵抗ある人でも大丈夫。オレも盆踊り苦手でした。今でも微妙です。でも微妙なまんまはまっちゃいました」

盆踊りって何なの? どうやって踊ったらいいの? 何を着ていけばいいの? という疑問をお持ちの方もノープロブレム。本書では、盆踊りの起源や盆踊りを簡単に踊るコツ、浴衣の着こなしはもちろん、浴衣にとらわれないファッションのことなど、盆踊りビギナーに嬉しい情報がテンコ盛りである。

そもそも、盆踊りとは、一遍上人というお坊さんが始めた「踊り念仏」という、激しく鉦(かね)を打ち鳴らして体を揺り動かし、飛び跳ねながら念仏を唱えるものと、仏教以前からある、精霊や地霊、祖霊などを供養しておもてなしするという二つの要素が一緒になっているそうだ。
輪になって踊ることは、旋回して大きく踊ることで、神霊を呼び込むことにつながる。

本書の企画をされた青幻舎の苑田さんは、盆踊りに対する思いをこう語る。
「大阪出身ですので幼いころから河内音頭、江州音頭などを生音頭で踊っていました。大人になってからは盆踊りから程遠い生活を送っていたのですが、いま住んでいる界隈では夏になると盆踊り大会に向けてご年配の方々が婦人会で町内ごとに分かれて練習されます。たまたまその集まりに私の妻が誘われて練習に参加することになり、私は練習には参加していないのですが、妻に連れられて盆踊り大会に参加することになりました」
「盆踊り大会当日、夕暮れ時に家を出ると隣に住むおばちゃんが立っていました。その時にとても驚いたのです! 普段は腰の曲がったお世辞でもキレイな容姿と言えないおばちゃんが浴衣姿で背筋もピンと伸び、奇麗な女性になっていました。『こんばんは、今日はよろしくお願いします』と挨拶するとおばちゃんが帯に挟んでいた参加者用のドリンクチケットを数枚、私にくれようとしました。まさにその時、おばちゃんが20代前後のお姉さんのように見え、私は子供にかえり『坊やこれでも飲みなさい』とでも言われているような、その一瞬だけ時空を超越した気分になりました。この夢のようなできごとがきっかけで盆踊りの魅力に取り憑かれて今日に至ります」

私も盆踊りの魅力に取り憑かれてみたいと思い、早速、日本三大盆踊りのひとつである阿波踊りを観に8月23〜24日に開催された東京高円寺阿波おどりに行ってみた。
初めて観るため、どう楽しんだらいいのかもよく分からないまま出かけたが、すぐに惹き込まれてしまった。
色とりどりの衣装を身に着け、手やうちわを優雅にひらひらとさせて、老若男女が踊るのだ。時にかたまって踊り、そうかと思えば散らばって飛んだり跳ねたり。技がきまると、観客からは大きな歓声が上がる。観客は太鼓の音に合わせて手拍子をし体を揺らし、各々が好きなように踊っている。
演者の近くにいる観客は、鉦や太鼓を煽り、演者もそれにのる。そしてひときわ大きく打ち鳴らされる音に酔い、トランス状態のようになる。
夕方から夜にかけて行われたこの催しで、仏や神霊の姿は見えなかったが、見知らぬ人との得も言われぬ一体感を感じた。

前出の苑田さんは本書で伝えたかったこととして、このように述べている。
「私がこの本で伝えたかったのは、盆踊りから得ることのできる『生きることの豊さ』です。盆踊りを踊ることで、高揚感や身体を動かす爽快感を感じることができ、無心に踊る恍惚感が味わえ、異性と出会うきっかけになり、古くから行なわれている伝統行事にふれることもでき、地域コミュニティーにも参加することができる。また同時に精霊や、地霊、祖霊の供養も行なわれる。こんなに多様な要素を含んだイベントは他に探しても見当たらない。皆さんに勇気を持って輪に飛び込んでほしい。きっと何か発見があるはず。混沌とした日本の状況を打開するには盆踊りがピッタリだ! そんな思いでこの本の企画を進行しました」

確かに阿波踊りの太鼓の音に合わせて体を揺らしたり手拍子をしたりするのは、最高に心地よかった。今度は見るだけじゃなくて、実際に踊ってみたいと思う。
9月中も盆踊りを開催している地域はあるようなので、盆踊りビギナーの方は本書を手に、盆おどる準備をされることをオススメする。
(薄井恭子/boox)