トヨタのハイブリッド自動車が全世界で売れまくる中、モータースポーツ界も時代に即した形に姿を変えようとしている。9月に開幕する『フォーミュラE』世界選手権だ。早くもF1を凌ぐと話題になっているその全容をお伝えしよう。

 EV(電気自動車)エンジンを使ったフォーミュラカーによる“未来型F1”が今年から始まり、来月、開幕戦北京GP(9月13日決勝)が開催される。今シーズンはこの北京を皮切りにブエノスアイレス(アルゼンチン)、マイアミ(米国)、モンテカルロ(モナコ)、ベルリン(ドイツ)、ロンドン(英国)など世界の10都市の“公道”で開催し、日本ではテレビ朝日が全戦を生中継する。
 参戦するチームには超ビッグネームが連なる。F1とインディカーの元世界チャンピオン、マリオ・アンドレッティが創設した『アンドレッティ・オートスポーツ』、アイルトン・セナとともにF1黄金期を築いた元F1チャンピオンのアラン・プロスト率いる『e.ダムスルノー』、独アウディが総力をつぎ込む『アウディ・スポーツABT』、俳優レオナルド・ディカプリオとフランス老舗自動車メーカーがタッグを組む『ヴェンチュリー』、そして元F1パイロット鈴木亜久里率いる『アムリン・アグリ』も、イギリス人女性ドライバーのキャサリン・レッグを起用して参戦。多士済々の全10チーム20台が初代世界王者を競う。
 「F1と同じ国際自動車連盟(FIA)が管轄するフォーミュラカーレースです。F1と違うのは、電気自動車を使うことで排気ガスが一切出ない。F1は恐竜がうなり声を上げるようなエンジン音が売り物。そのため市街地でのレースができなかったが、騒音問題がクリアになったことで都心部での公道レースが実現する。がぜん注目度が高まっています。交通アクセス、宿泊施設も至便になるので成功は約束されたようなもの。モータースポーツに新時代到来といえますね」(自動車誌デスク)

 使用されるマシンは1年目はワンメーク車。マクラーレン、ウィリアムズ、ルノーなどの名門コンストラクターが協力し、合同で作り上げた。車重は740キロとF1よりやや重いが空力性能は高く、0→100メートルの加速はわずか3秒。エンジン音も従来のエキゾーストノートとは違い、ジェット機の発進音のような甲高く澄んだサウンドに仕上がっている。
 「本来なら敵対視して当然のF1側が全面協力をしているように、ガソリン垂れ流しの現在のF1に未来はないと先読みしているのでしょう。年々、環境と健康、自然エネルギー問題は厳しさを増し、モータースポーツは目の敵にされている。CO2を排出しないハイブリッドやEV、FCV(燃料電池車)に移行するのは自然の流れなのです」(国内自動車レースのコンストラクター)

 F1のファンはクルマ好きの飛ばし屋。アウトドア派に人気が高かったが、フォーミュラEはいわゆるオタク系にも注目されている。ゲームメーカーが参画し、実際のレースと連動し、そのレースにリアルタイムで加われるというバーチャルゲームを提供するからだ。レースを戦うチーム側もゲームメーカーやソーシャルネットワークと連動した加速システムを開発するなど、相乗効果を呼んでいる。
 「テレビを見ればレース展開ばかりでなく、データ連動ボタンを押せばマシンの状態がリアルタイムでわかる。それも全てのクルマでです。チーム監督になった気分でレースを分析できるわけで、オタク族が食いつかないはずがない。TBSやフジテレビが見放したF1を、あえてテレビ朝日が全戦中継するのは、勝算があればこそ。いま最も勢いがあるゲームメーカーや情報通信会社がスポンサーになっており、順番待ちしている業者も“ごまん”といます」(大手広告代理店)

 日本の自動車メーカーも当然注目している。トヨタはすでに耐久自動車レースの最高峰ル・マン24時間レースにハイブリッド車を投入、ドライバーには日本人初のF1フルタイム参戦ドライバー中嶋悟の息子である一貴を起用。今年もアウディに5連覇を許したものの、参加した1台が3位に入り、ハイブリッド車の能力の高さを示した。
 来季からF1に復帰するホンダも2012年からスーパーGTシリーズに『チーム無限』を通じてハイブリッド車を投入。インディカーに参戦中の元F1ドライバー佐藤琢磨がフォーミュラEの開発に携わるなど、参戦準備を進めている。
 「今年、フォーミュラEが日本で開催されないのは、公道でのレース開催の認可が下りないからです。そこでトヨタとホンダが注目しているのが、2020年東京オリンピックのメーン舞台となる臨海部のお台場です。日本第1号のカジノ開始に合わせてフォーミュラEを開催すれば、桁違いの宣伝効果となり、東京オリンピックとの相乗効果も生まれる。世界中が注目するフォーミュラEですし、何よりこの両社には自動車レースに対する情熱のDNAがある。オリンピックを開催する東京都が保証すれば、お台場GPは必ず実現できるでしょう。そうなれば、野球やサッカーを上回るスポーツになるはずです」(東京都幹部職員)

 伝説の漫画『サーキットの狼』では非合法イベントとして描かれた“公道グランプリ”。現実に目の前で行われる日はすぐそこだ。