世界中で大ブームになっているアイス・バケツ・チャレンジ。写真は日本のALS患者のスピーカー的存在の藤田正裕さんが、自らの危険を省みずチャレンジした様子。

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ビル・ゲイツ、トム・クルーズ、レディー・ガガ、スティーブン・スピルバーグ、タイガー・ウッズ、クリスティアーノ・ロナウド、孫正義、三木谷浩史、三浦知良、浜崎あゆみ――日本、そして世界中のセレブリティーがこぞって参加しているのが「アイス・バケツ・チャレンジ」(敬称略。以下「氷水バケツ」) 。

ソーシャルメディアをお使いの方は、さまざまな著名人が連日チャレンジする様子が流れてきて、今さら説明も不要かもしれないが、これはALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病に対する認知度を高め、撲滅を目指すためにアメリカから始まった運動だ。
指名を受けた人は、バケツに入った氷水を頭から浴びるか、研究機関に100米ドルを寄付するかしなければいけないということになっている。氷水を浴びた映像はソーシャルメディアにアップし、さらに新たな挑戦者を3人指名するのが決まりだ。

今年7月にアメリカで始まると、瞬く間にセレブリティーを中心に広がりちょっとしたお祭り騒ぎになった。日本にもすぐに飛び火し、冒頭に挙げた著名人の他にも日々すごい勢いで参加者が増えている。

同時に、この運動に対する批判の声も上がっている。
アメリカではこの運動をスラックティヴィズム(社会善を行っているつもりの自己満足行為)と非難する声も多く、水不足が深刻なカリフォルニア州では氷水バケツを行った人に対して500米ドルの罰金を課している。ロンドンブーツ1号2号の田村淳は、実施後にネットを中心に「売名行為だ」などと非難され、Twitterでそれに反論している。また、タレントの武井壮は、氷水バケツ運動自体の趣旨を尊重しながらも、自身は信条からチャレンジを辞退している。

こうした派手な場外乱闘とまでいかなくとも、「ただのお祭り騒ぎ」とか「なぜALSだけ?」「正直、もう飽きてきた」などと氷水バケツ運動に対して冷ややかな目を向ける声も多い。

しかし、待ってほしい。
こうした多くの議論に大切なものが欠けてはいないだろうか。当事者の声があまり聞こえてこない。ALS当事者はこの運動をどのように受け止めているのだろうか。

2010年にALSと診断され、以来闘病しながら自ら一般社団法人END ALSを立ち上げ、日本のALS患者のスピーカー的存在になっている藤田正裕さんに話を聞いてみた。

今回のこの運動はなかばお祭り騒ぎの様相を呈しているが、当事者である藤田さんの目にはどのように映っているのだろうか?

「奇跡です。うれしいです!日本では9000人しかいない『難病中の難病』と言われる悪夢のような生き地獄。その認知向上のためなら悪ふざけでも、お祭り騒ぎでも何でもよいのです。ALSの治療薬につながる認知、寄付、社会の動き、期待しています」

藤田さんは発病以来、END ALSの立ち上げの他にも、インフルエンサーが発信するウェブマガジン・ハニカムへのブログ執筆、世界的発信力を持つTED×TOKYOでのプレゼンなどと、 ALSに対する啓発活動を地道に行ってきた。それでも ALS患者を取り巻く環境は遅々として進展しなかった。今までの苦労を考えると、今回の騒ぎは千載一遇のチャンス以外の何ものでもないのだ。

藤田さんが氷水バケツ運動を強く支持していることを示す何よりの証拠が、彼自身が氷水バケツを行ったという事実だ。ALS患者が氷水バケツを行うことは、思っているよりはるかに危険なのだ。

「正直に言って危ないですね。 気管から肺に水が入ってしまっていたら、救急車を呼ばなければいけなかったかもしれません。それから、菌が入ってしまってもダメです。気管切開してる人にはお勧めできません。(気管切開をしている)僕もその危険性はわかってはいましたが、『上等だ』という気持ちが勝ってやってしまいました(笑)」

危険を省みずに氷水バケツ運動を支持する藤田さんから見て、この運動に疑義を呈する人はどのように映るのだろうか。

「賛否両論があるのは当然だと思います。『なぜ水?』『で、何が変わるの?』と。そうしたネガティブチェックも大いに結構だと思っています。少しでも多くの人が意見を言うことがALSを知るキッカケになれば、ALSという言葉が社会で普通に使われるようになれば、この悪夢が終わる日まで一歩近づくと信じています」

人類のALSとの闘いに早く終止符を打ちたいと誰よりも思っている当事者にとっては、氷水バケツ運動に対する賛否よりも、関心の高さ自体が大切なのだ。

では氷水バケツ運動によって、人々や社会がどのように変わっていくことが望ましいのだろうか。そもそも「悪夢のような生地獄」とまで藤田さんが表現するALSとは一体どういう病気なのだろうか。(後編はこちら)
(鶴賀太郎)

■藤田さんの著書『99%ありがとう ALSにも奪えないもの』(ポプラ社)

■END ALS Facebookページ https://www.facebook.com/endalswithhiro