ALS患者の藤田正裕さん。2010年、30歳になる直前に発病し、以来一般社団法人END ALSを立ち上げるなど、ALSの撲滅に向けスピーカー的役割を担っている。

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ALS=筋萎縮性側索硬化症。連日ソーシャルメディアに流れてくるアイス・バケツ・チャレンジ(以下「氷水バケツ」)の動画により、この名前をすっかり覚えてしまった人も少なくないだろう。

しかし、氷水バケツ運動の盛り上がりとは裏腹に、この難病に対する理解はまだまだ十分とは言えない。この盛り上がりを機に、ALSとはどういう病気なのかを今一度確認したい。

ALSとは、中枢神経の中の特定の神経細胞群が徐々に死んでいくため、筋肉の萎縮と筋力の低下が重篤なレベルで進行していく病気だ。簡単にいうと、運動神経が攻撃され、皮膚の感覚や脳の中身が変わらぬまま、少しずつ少しずつ動けなくなってしまう病だ。

世界的な物理学者スティーブン・ホーキング博士がこの病を患っていることでALSを知った方も多いだろうが、日本でもテレビのクイズダービーでおなじみだったフランス文学者の篠沢秀夫さんや、元衆議院議員で医療法人徳洲会の前理事長の徳田虎雄さんが闘病を続けていることで知られている。

ホーキング博士が車椅子に座りながら、目の動きだけでパソコンを操作する様子をテレビなどで見てALS患者の実態をイメージする人もいるだろうが、ALS患者のスピーカー的存在である藤田正裕さんの著書『99%ありがとう ALSにも奪えないもの』(ポプラ社)を読むと、その病の実態や患者の心理状況がより鮮明にイメージできる。

中でも、藤田さんが畏れ、想像するだけでおぞましいのが“Totally Locked-in State”(完全に閉じこめられる)と言われる状態で、目の動きさえ利かなくなってしまい、動けず何も見えない状態になってしまうにも関わらず、意識だけが発病前と変わらず働くのだ。
ALS患者は体が動かない不自由さに加え、いつTotally Locked-in Stateが訪れるのか知れない恐怖と闘っている。

また、ALS患者が避けて通れない問題として、気管切開がある。病状が進行すると自発呼吸ができなくなってしまうのだが、気管切開し呼吸器を取り付ければ、事故がない限り何十年も生き続けられる。しかしその間もALSは進行するのに、一度気管切開したら呼吸器を取り外すことが法律で許されていないのだ。その結果、約70%ものALS患者は恐怖や周囲への経済的、精神的負担・迷惑を考え気管切開しないで死を選ぶという現実がある。

これが、藤田さんが「悪夢のような生き地獄」と表するALSという疾患だ。

このような大変な病気と闘っている藤田さんが、今回の氷水バケツ運動がただのお祭り騒ぎであっても、この運動を懐疑的に思っている人がいても、それにより人々の関心が高まるなら構わないと思っているということは前編でも触れた通りだが、この一連の騒動を通じて、世の中がどう変化すればいいと考えているのだろうか。

「ALSの治療薬の開発が、患者全員の最終目的です。このような動きにより、認知が高まり、寄付が集まり、研究が進み、人間への治験が認められて開始され、治療薬発見につながる夢の実現に貢献できればと願っています」
ここで「人間への治験」について触れられているが、これは最近、エボラ熱でもニュースになっているのと同様、臨床実験前の試験薬の人間への投与を可能にする道筋を作って欲しいということだ。

また、藤田さんは今年の6月には上記と同様の内容の嘆願書を田村厚生労働大臣に渡しているが、そこには視線意思伝達装置などの高価な器具や機器などを、より安価に入手できるようにする道も切り開くことによってコミュニケーション環境をサポートして欲しいと記してある。

新薬承認の問題も、感情に流されて安易に進めていい問題ではない。基本的には十分な議論・検証が必要だ。しかし、患者の一人ひとりにとっては、かけがえのないただ一度きりの人生だ。脳が正常に働いているままの状態で何十年も“Totally Locked-in State”に閉じ込められる状態が、基本的人権を尊重しているのかという議論も併せて行うべきだ。

また患者のクオリティー・オブ・ライフを考えたとき、コミュニケーション手段が次から次へと断たれていく中、社会との関わりをどう確保するかも大切な問題だ。
藤田さんは現在、外資系広告会社でプランナーとして、在宅勤務と週一度の出社という形で仕事をしているが、藤田さん自身その状況を「間違いなく恵まれています」という。

ALS患者が働くことについて、藤田さんの仕事上のメンターである津田裕さんは語る。
「すべての職種の人が働くことは難しいかもしれません。ただヒロ(藤田さん)の場合は、プランナーという考えることが仕事の職種なので、十分に働くことはできます。また、発病してから仕事をしたいという情熱が高まったのか、プランナーとしての感性がさえまくってきて、凄みが増してきています」

たしかにALS患者は動けないことが多いが、藤田さんの著者やブログを読んだり、ホーキング博士の研究成果を見ていると、彼らの頭脳がこの病によって侵されているとは到底思えない。給金を得る「仕事」という形でなくとも、彼らは社会と主体的に関わりを持つことは、周囲さえサポートすれば必ずできるはずだ。

その他、経済的負担や周囲にかかる負担など、ALS患者を取り巻く状況に課題は多い。
私たちは、無理に氷水を頭からかぶることはない。しかし、私たちの周囲に、こういう恐ろしい病気と闘っている人がいるということを知ることは大切なのではないだろうか。
その結果、氷水をかぶるもよし、募金をするもよし。

ALSだけが難病じゃないというなら、藤田さんの著書だけでなく、大野更紗さんの著書を読んで皮膚筋炎について学ぶのもいい。
なぜなら、これは人ごとではないのだ。 いつあなた自身やあなたの大切な人がこの恐ろしい病に襲われるかわからない。
「ALSは完全にランダムな病気です。いつあなたを訪れるかわかりません。僕も発病するまでは『はいはい』と他人ごとのように思ってました。ALSを知ってしまったあなた、ぜひ周りに話したり、寄付をし、この悪夢を終わらすのにご協力ください。よろしくお願いします」(藤田さん)
(鶴賀太郎)

前編はこちらから

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