【新車のツボ78】BMW X5試乗レポート
BMWのX5は世界のハイエンドSUVの1台だ。このX5でも、悪路性能はそれなりに高いが、それ以上に驚きなのは、この巨体車が小型スポーツカーのように軽快にビュンビュン曲がることである。
この種の舗装路ですさまじくよく走る"高級オンロードSUV"の歴史は意外と新しい。元祖は1997年に出たトヨタの初代ハリアー(当時の海外名はレクサスRX)。ほぼ同時期にベンツからもMクラスが出たが、それ以上にマニアのツボをえぐったのは、少し遅れて2000年に登場した初代X5だった。X5のアイデアそのものは、ある意味でハリアーとMクラスのイイトコ取り。いわば二番煎じ。乗用車メカニズムを流用した中身と、悪路っぽさを徹底的に排除する発想はハリアーっぽかったし、BMWの宿敵ベンツがMクラスを出さなければ、X5も存在しなかった可能性は高い。
ただ、トヨタやベンツとちがって、それまで"悪路"とか"ヨンク"といったイメージとはまったく無縁......どころか、スポーティカー専業ブランドの典型みたいなBMWが、SUVを手がけた衝撃は大きかった。しかも、自分たちの"舗装路専用"というイメージを逆手にとって、X5は前記のように、当時の物理的な常識では"ありえない!"というほかないほど超絶に速く、軽快で、そしてグリグリ曲がる走りを披露した。X5以降、あのポルシェまでもがSUVに参入して、現在のSUVの走りは、さらに"ありえない"レベルに進化している。X5以前と以後では、SUVの走りの概念は、間違いなく変わったのだ。
昨年末に発売された最新X5は3世代目にあたるが、基本コンセプトは初代からずっと変わっていない。世代を追うごとにより大きく重くなっても、そのぶんは電子制御サスペンションや4WDシステムの進化で相殺して、「地球の重力はどこにいったの!?」といいたくなるブッ飛んだ走りは健在......どころかさらにスゴイことになっている。いやもう、最近のハイエンドSUVの技術は、完全にシロートの想像力を超えたところにいる。
最新のX5には現時点で3種類のエンジンがあるが、オススメは圧倒的にディーゼル。欧州ではずいぶん前から、ガソリンより高級なエコエンジンとしてディーゼルが絶大な人気を誇る。マツダがディーゼル乗用車を手がけるようになってからは、ここ1〜2年で、日本でもディーゼル人気がジワジワ上昇中......なのは、知っている人も多いはずだ。
BMWを含む欧州の高級車ブランドでは、ガソリンのV8エンジンに相当する高級な6気筒ディーゼルを用意するのも常識。X5のディーゼルエンジンも6気筒なのだが、よくあるV型ではなく6個の気筒が一列にならんだ直列型なのが(ガソリンエンジンと同じく)BMW最大の売りである。
直列6気筒はエンジン本体がかさばる形状になってしまう欠点のかわりに、高回転までスムーズなのが最大のメリット。ディーゼルエンジンは振動や騒音が大きいのだが、この直列6気筒レイアウトと最新技術を組み合わせたBMWの6気筒ディーゼルは、マニアなら震えるほど気持ちいい! しかもターボとの組み合わせで、トルクはガソリン5.0〜6.0リッター級。瞬間的なフル加速では血の気が引くほどのパンチ力なのである!
最近のガソリンエンジンは機械好きには物足りないほど静かになったし、さらにハイブリッドともなれば動力源の存在感はどんどん薄れるいっぽう。しかし、ガソリンより強めの震動と、それでも他社のV型より滑らかな直列6気筒が絶妙に融合したX5のディーゼルエンジンは、すさまじい速さとほどよく存在感のある頼もしさ、メカっぽい肌触りに、いろいろと自慢したくなるウンチク......と、ありとあらゆる好き者のツボに満たされている。しかもディーゼルだから燃費はよく、なんの遠慮もなく走って10km/L前後はカタイ。ディーゼル燃料はガソリンより安いので、実質的な燃料代はガソリン12〜13km/L相当。この巨体、この性能でこの燃料費は素直に笑っちゃうほどの魅力だ。
しかも、X5そのものも前記のようにウンチクと驚きのツボが満載。デカくて快適で速くて、なのに軽快で燃費よく、頬ずりしたくなるほど気持ちいいエンジン......。ああもう! X5のツボを語るには、このコーナーの文字量ではまったく足りない!
佐野弘宗●取材・文 text by Sano Hiromune