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「殺人手配者、潜伏中」「逃がさんぞ!」「見かけたらすぐ110番」。警察署や交番のほか、駅などに貼られている「指名手配」のポスター。被疑者の顔写真と氏名、事件の概要が書かれている。犯人へのメッセージとも受け取れるような表現まで加えられていることがある。

ポスターのねらいは、指名手配事件について、被疑者の人相などを広く公開することで、一般の人から目撃情報を集めることだ。警察庁や各都道府県警察のホームページでも、指名手配の情報を確認できる。

しかし、日本の刑事司法では、裁判で有罪が確定するまでは、「無罪」と推定されることが原則のはず。こうした形で名前や顔写真を全国にさらせば、罪を犯したことが確実な「真犯人」だという印象を国民に与えはしないだろうか。泉田健司弁護士に聞いた。

●指名手配ポスターは「ひとつの手法」にすぎない

「指名手配は、刑事事件の捜査に関するルールである『犯罪捜査規範』の31条に規定があります。そこには『逮捕状の発せられている被疑者の逮捕を依頼し、逮捕後身柄の引渡しを要求する手配』と定められています」

これは、捜査機関どうしの連携についての規定で、居所が分からない被疑者の氏名や顔写真を捜査機関が共有して、逮捕につなげるのが狙いです」

泉田弁護士はこう述べる。それなら、ポスターの意味は?

「指名手配のポスターは、あくまで、逮捕状が出ているという事実を一般に広告し、情報を求めるための手法にすぎません。

すべての指名手配者がポスターに掲載されるのではありません。そうした形で一般に広告されるのは、殺人罪のように被疑事実が重大なものに限られます」

●犯人扱いは「無罪の推定」に反する

指名手配について一般の人に広告する際に、「無罪の推定」との関係はどうなっているのだろうか。

「『無罪の推定』は、被疑者の権利を擁護するため、有罪の判決が確定するまでは『無罪』を推定する、という現代刑事法の大原則です。

そのため指名手配のポスターも、あくまで逮捕状が出ている被疑者という扱いで記載されなければならず、犯人扱いをしたら無罪の推定に反することになります。

もしポスターに『殺人犯人 ○○』と書いてあれば、無罪の推定に反します。ただし、『被疑罪名 殺人 ○○』『殺人手配者 ○○』と書いてあるだけならば、犯人扱いまではしていませんから、無罪の推定に反するとはいえないでしょう」

言葉遣いを少し変えただけでは?

「弁護士という立場で言わせていただくと、『おい』とか『逃がさんぞ』といった被疑者に呼びかける表現は、やりすぎに感じるのは否めません。

ただ、法律論としては、指名手配のポスターは犯人扱いをしているわけではなく、逮捕状が出ている事実を記載しているだけなので、無罪の推定に反するとはいえません」

そうした印象を実際に与えていても、問題ないのだろうか?

「実際問題として、指名手配=有罪という印象を与えているとすれば、それは逮捕・起訴された人がほとんど有罪になっているという実情に由来するのだと思います。

そのため、ややもすれば、指名手配の事実が一人歩きして、無罪の推定がないがしろになるということが起こりえるのです」

泉田弁護士はこのように指摘していた。誰もが情報を発信する時代。「指名手配」と「有罪」の間にある大きな亀裂については、すべての人が気をつけていかなければならないと言えるだろう。

(弁護士ドットコム トピックス)

【取材協力弁護士】
泉田 健司(いずた・けんじ)弁護士
大阪弁護士会所属。大阪府堺市で事務所を構える。交通事故、離婚、相続、企業法務等を中心に地域一番の正統派事務所を目指す。趣味は将棋、カープ、そしてドラえもん。
ブログ http://ameblo.jp/izuta-law/
事務所名:泉田法律事務所
事務所URL:http://izuta-law.com/