地理の授業で読み聞かせ? ちゃんと意味があるんです。

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教科書にマーカーを引いているうちに、気づいたら教科書中が真っ赤に……というのは、社会科が苦手な人にありがちなパターン。

「教科書には必要なことしか載っていない。だから、社会科の教師は『教科書の行間』を上手に説明していく必要があります」と、共立女子中学高等学校の池末和幸先生は言うが、具体的にどんな方法を用いるのか。

「実は私自身、大卒で教師になったばかりの頃、『伝わらない』という思いを痛感したんです。教える内容に対して、幅広い社会経験の裏付けがないからです。授業を聞いて『面白いな』と思う先生って、人生経験に裏付けされた話が多い人だと思うんですよ」

そこで、教師を辞め、青年海外協力隊に参加し、その後、国際協力ボランティアをするなど、さまざまな国を放浪したと言う。
「たとえば、シベリアでは、外の扉をあけようとすると、寒さで手が取っ手にはりついてしまう。手の汗が瞬間的に凍りつくんですね。そういう経験値を増やしていくことで、行ったことのない場所も予想ができるようになるんです」

帰国後、再び教師になった池末先生だが、教え方の軸は基本的に変わらない。ただし、「興味の持たせ方」に仕掛けや工夫が出てきた。
「同じ社会科でも、歴史は『史料』、つまり過去の文献などですが、地理の場合の裏付けは『データ』なんです。歴史は史料から背景を探ったり、人間関係などを読み解いたりしていくので、女子にもなじみやすさがあり、『歴史オタク』の女子もいますよね。でも、地理はデータだらけなので、特に女子にはとっつきにくいんです。何しろ、数字の羅列ですから……」

そこで、「行間を読む・埋める」ために行っている工夫がある。たとえば、「地図を片手に街を歩いて現場を確認する」「絵本などの読み聞かせを1単元に1回は必ずする」などの試みだ。
「多数の史料から結び付けていく歴史に比べ、地理の基本は地形や気候などです。この自然科学的な目をどれだけ養えるかというのが、地理を好きになれるかどうかの分かれめになると思います」
たとえば「温暖化によって日本はすでに熱帯になっているのでは?」という問いに、池末先生はこんな説明をする。
「日本の夏はすごく暑いけど、一年中夏服というわけじゃないよねぇ? 衣替えっていつだっけ? 地球温暖化と言われ、東京もずいぶん暑くなった気がするけれども、やっぱり寒い時期もあるわけだよね。一年中夏服でいられるのが、熱帯なんです。一応数字の上では……」
ここで初めて「数字」を見せる。衣替えに相当する月は、6月も11月も約18℃だ。すると、生徒たちは自分自身の経験と照らし合わせ、理屈がわかり、自然と頭に入るのだと言う。
「数字だらけ、データだらけでは、地理を嫌いになってしまう生徒も多いので、私は最初に数字を見せず、写真を見せたり、自分の経験などから語っていったりします。背景、記憶、物語などを通して、『気持ち』で数字とつなげていくんです」

ただし、気持ちで数字とつなげていくためには、教える側に写真やエピソードなど、様々な素材や準備が必要になる。
「それが社会経験だと思うんですよ。誰にでも使える教師用虎の巻など、どこにもありません。生徒とコミュニケーションのキャッチボールを繰り返す中で、自分専用の授業指導案が少しずつ出来上がってくる感じです。たとえば、『ハウスの中でイチゴ狩りをするとき、つまみ食いすれば、そこはイチゴの香りであふれていきます』と授業で語られれば、思わずイチゴが食べたくなります。でも、『冷涼・温和な気象条件が必要で、-5℃以下になると凍害の心配あり』と言われてイチゴが食べたくなる人は……すごく少数派ですよね」

無機的に並ぶ言葉や史料・データの数々を「気持ち」でつなぎ、背景を思い浮かべ、そこに温度をもたせることができたら、必死な暗記は必要なくなるということなのかも。
(田幸和歌子)